アドビは米国・ラスベガスにて3月18日から20日(現地時間)にかけ、「Adobe Summit2025」を開催している。「Adobe Summit」はアドビが主催している、年に一度のデジタルエクスペリエンスのカンファレンスで、今年で23回目となる。本カンファレンスで語られた、最先端のマーケティングとテクノロジーが融合した新たな世界を現地からレポートしていく。
アドビのあらゆるサービスとAIエージェントが連携(Orchestration)
3月18日に開幕した「Adobe Summit2025」は、300以上のセッションに500人超が登壇。1万2000人以上が来場した。そんな「Adobe Summit」が、今年のキーワードとして掲げたのは「Customer Experience Orchestration(CXO)」。開催初日である18日に開催されたオープニングキーノートでは、アドビ 会長兼CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏が登壇し、「私たちは今、新しい時代の入り口に立っている。それは“Customer Experience Orchestration”の時代。顧客体験をリアルタイムでパーソナライズし、すべてのチャネルで一貫したエンゲージメントを生み出すことが、ビジネス成功のカギだ」とデジタルマーケティングに新しい時代が到来していると来場者に語りかけた。
アドビ 会長兼CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏。
今回アドビが提唱した「Customer Experience Orchestration」とは、顧客体験管理(Customer Experience Management)の進化形にあたる、とナラヤン氏は説明する。生成AI技術やAIエージェント技術を活用し、すべてのタッチポイントとチャネルを横断して個々の顧客別にシームレスな顧客体験と最適なコンテンツの創出を目指す。これまで以上に大規模なスケールでパーソナライズを実現するというものだ。
Orchestration(共調・連携)するのは顧客体験だけではなく、アドビがこれまでリリースしてきた各サービス・機能も同様。アドビ内のさまざまなサービスがシームレスに連携することで、さらにパーソナライズされた顧客体験の提供の実現を目指すという。
同社デジタルエクスペリエンス事業部門 代表のアニール チャクラヴァーシー氏。
近年、「Adobe Summit」の大きなテーマとなってきたのが生成AIの活用だ。昨年、開催のサミットでもすでに生成AIやデータを活用して顧客体験をアップデートする構想は語られていたが今回は、生成AI技術やAIアシスタントに加えて、「AIエージェント」との統合という新しい発表があった。今年統合するAIエージェントは全部で10個。それぞれのエージェントで得意とする領域が異なるが、これらのAIエージェントも相互的に連携する予定だ。
同社デジタルエクスペリエンス事業部門 代表のアニール チャクラヴァーシー氏は、10のAIエージェントをはじめ、アドビの各ソリューションを共調・連携(Orchestration)することによって、顧客ごとに最適なコミュニケーションを実現する、と発言。マーケティングにおいても、AIエージェントを活用する時代が目の前まで迫っていることが感じられた。
マーケティング+クリエイティブ+AI 真のコンテンツ最適化
さらに、同社デジタルメディア事業部門 代表のデイビッド ワドワーニ氏は、「企業は現在、AIを活用したクリエイティブなコンテンツ制作に加え、パーソナライズされたマーケティングをより拡張できる時代に突入している。“クリエイティビティこそが新たな生産性”である」とコメントした。
デイビッド・ワドワーニ氏。
また「Customer Experience Orchestration」を実現する中で、重要な位置づけとして語られたのが「クリエイティブとマーケティングの融合」「コンテンツサプライチェーンの最適化」の2つ。これらの概念は、企業が今後、効果的な顧客体験を提供する上で不可欠な要素となると主張した。
この2つを重要な位置づけとして示す理由は、「コンテンツ需要の高まり」が挙げられると同社CMOのララ・バラス氏は話す。
同社CMO ララ・バラス氏。
「現在、多くのブランドがSNS、モバイルアプリ、ECなどの急速に進化するプラットフォーム上で消費者の注目を集めるために競い合っている。コモディティ化するコンテンツの海で埋もれないように、生活者にとって関連性が高く、目を引く、クリエイティビティにあふれたコンテンツへの需要は急速に高まっている。つまり、“メディアの多様化×パーソナライズ”によって、膨大な数のコンテンツ制作が求められているのが現在のマーケターだ。彼らにはクリエイティビティを発揮しながら、マーケティングの成果も求められている。大きな負担がかかっている状況だ」(バラス氏)。
実際、アドビが行った調査によると、回答者の3分の2にあたるマーケターが、2024年から2026年の間にコンテンツ需要が5倍になると予想。マーケターには非常に大きなプレッシャーがかかっている状況だと示した。
そこで必要なのが前述の「コンテンツサプライチェーンの最適化」と「マーケティングとクリエイティブの融合」。以前からアドビは、「顧客体験」に直接関わるコンテンツ制作のワークフロー全体を統合し、「企画・制作・配信・分析」 を一元化する「Adobe GenStudio」を展開しているが、前述のようなマーケティング活動に伴うコンテンツ制作の課題を踏まえ、サービスをアップデートすると発表。マーケティングとクリエイティブチーム向けにコンテンツサプライチェーンの最適化を推進する。
また、アドビは昨今『Creativity for All(すべての人に創造力を)』というビジョンを掲げている。このビジョンにあるとおり、コンテンツサプライチェーンの最適化や生成AIを活用することでクリエイターでなくとも、誰もが最適化された大量のコンテンツを短期間で制作できるようすることを目指す。
まさに「マーケティング+クリエイティブ+AI」。マーケティングとクリエイティブを融合させ、コンテンツサプライチェーンを変革することで、さらなる生産性の拡張を実現したいとしている。
アドビのデジタルエクスペリエンスビジネス担当シニア バイス プレジデントであるアミット アフジャ氏は、次のように述べる。「ほとんどの企業においてコンテンツサプライチェーンは、さまざまなメンバー、ワークフロー、システムが蜘蛛の巣のように存在し、複雑に絡み合ったままだ」(アフジャ氏)。
この状況が打破されないことで、優れた顧客体験に必要なコンテンツの制作・配信プロセスの障害となるポイントが数多く存在している状況だという。その課題を解決するソリューションとして、アドビが今回発表したのが「Adobe GenStudio」の機能を統合・連携させる基盤「Adobe GenStudio Foundation」だ。
「『Adobe GenStudio Foundation』によって、マーケターとクリエイターは単一のインターフェイスで、アドビのコンテンツサプライチェーンソリューションから全サービスに集約されたデータを利用できるようになる。まさにOrchestrationだ。例えば、Adobe Experience CloudとAdobe Creative Cloudといった異なるアプリケーション間を移動することなく、キャンペーンプラン、プロジェクト、アセット、インサイトを1か所で確認できるようになる。クリエイターとマーケターの間で使用されているAdobe GenStudioアプリケーションは、ネイティブに統合された生成AI機能によってスピードと効率性を向上させ、チーム間のワークフローを統合できるソリューションとして活躍するだろう」と展望を語った。