AI時代のマーケターの役割は“テンプレート”づくり?
Abreu氏とGowda氏は、「私たちの使命はコカ・コーラのブランドストーリーテリングを、世界中で象徴的なものとして維持すること」と説明した。そのために、前でCEOのクインシー氏が述べた、コンテンツにおける「時代を超える普遍性」と「今この瞬間の適時性」のバランスを取ることを常に意識していると話す。
ザ・コカ・コーラ・カンパニー グローバルデザインのヴァイスプレジデントRapha Abreu氏、(右)同社 グローバルデジタルマーケティングのヴァイスプレジデント Shekhar Gowda氏。
「CEOのクインシーが言ったように、各市場の特性に合わせたデザインを行いながらも、コカ・コーラのブランドを統一感のあるものにすることを目指しています。しかし、ここで生まれるのは、“国や地域によってパーソナライズされすぎると、コアメッセージとの齟齬が生まれてしまいかねないのか”という疑問でしょう。言うなれば、ブランドガイドラインの逸脱やコンテンツの品質低下リスクが高まるのではないかと感じる人も多いと思います。その懸念はもちろん当社にもありました。
そこでデザインとデジタルマーケティングを統括する私たちが行ったのが、ブランドガイドラインの策定です。言うなれば、すべてのコンテンツの礎となる“テンプレート”の作成です。コカ・コーラのブランドが、世界中でどのように視覚的に表現されるべきかを定義するものを作りました。このガイドラインを通じて、世界中の社員が一貫性を保ちながらも、各市場で適応可能なデザインを作成できるように整備したのです」(Abreu氏)。
Abreu氏とGowda氏によると、策定されたブランドガイドラインを支えるために開発されたのが、コカ・コーラ独自のAI活用システム『Project Vision』。同システムはAdobeの生成AI(Firefly)やAdobe Creative Cloudのツールと連携しており、Adobeの技術を基盤として開発されたものだ。
「このシステムは、単にデザインをコピーするのではなく、『コカ・コーラらしさ』を深く理解し、それを維持しながら拡張できるよう設計されています。最大の特長は、デザイナーが創造性を発揮しながらも、ブランドの品質を維持できることです。AIがデザインをサポートすることで、クリエイティブな自由とブランドガバナンスが両立できるようになりました」(Gowda氏)。
さらにAbreu氏は、AIは決して創造性を奪うものではなく、それを強化するツールだ、とセッション内で度々言及していた。AIにコカ・コーラが自社で持つデータやクリエイティビティをプラスすれば、ブランドガイドラインの逸脱を防ぎながら、より速く、より柔軟なコンテンツ展開は可能になる、とグローバルブランドならではのAI時代のマーケティングとクリエイティビティのあり方を示した。生成AIやAIアシスタント、AIエージェントの登場によって、マーケティング業務はさらに効率化され、コストパフォーマンスを追求するようになるのかもしれない。
