3つのメディアを軸としたタカラベルモントの社内広報戦略

2019年にパーパスを制定したタカラベルモントは、社内への浸透施策を進める中で直面した課題に向き合うべく社内広報に注力をしている。同社が考えるインターナルブランディングの重要性と社内広報の戦略について聞いた。
※本記事は『広報会議』2025年4月号 の特集「新・インターナルブランディング」に掲載されている内容の転載です。

理容室・美容室、歯科・医療クリニックなどの業務用設備機器や化粧品を手がけるタカラベルモントは、創業100周年をひかえた2019年にパーパス「美しい人生を、かなえよう。」を制定。

制定後は、パーパスを社内外へ浸透させるには“見える化”が重要との考えのもと、周年時にはキービジュアルとショートムービーを制作するなど、パーパスの理解を目的とした取り組みを実施した。

また、2023年にはサステナビリティポリシーとして「企業文化のアップデート」「各機能の競争力強化」「新しい資産づくりへの挑戦」を策定。

サステナビリティポリシーとパーパスの関係について広報室マネージャーの石川由紀子氏は、「パーパスは当社にとって一番上にある概念で、タカラベルモントの志です。パーパスを達成するためのミッションを整理したものがサステナビリティポリシーになります」と話す。

グラフ その他 タカラベルモントのパーパス体系

図1 タカラベルモントのパーパス体系

エンゲージメントとの乖離

このようにパーパスの実現に向けた理解・浸透を推進してきた同社だが、取り組みを進める中で課題を感じるようになっていったという。

同社では2年に一度、従業員に対してパーパスへの理解やエンゲージメントを調べるサーベイを実施している。「通常、パーパスが理解され、浸透していくとそれに比例してエンゲージメントも向上していくものだと私は考えています。しかし、調査結果をみると『パーパスへの共感』と『従業員エンゲージメント』に乖離があることが分かりました」と石川氏。

2022年の調査の「パーパスに共感できるか」を聞く質問では、「そう思う」「ややそう思う」の合計が9割を超えており、多くの従業員がパーパスへの共感を示していたという。

一方で、「当社で働くことに誇りを感じているか」というエンゲージメントを問う質問に対しては、「強く同意する」「同意する」「多少同意する」の合計は88.5%と高めの結果が出たが、その2年前に実施した2020年の調査結果と比較するとすべての世代で割合が低下していた。

さらに、「企業文化やイメージに対する期待と現実」に関する質問では、「社会変化に対応できる/革新性がある」という理想の状態に対して、「現状はそうでない」と回答した人が93.0%となった。

これらの結果は、従業員のエンゲージメントが低下していると見ることができる。この事実は広報室にとっても衝撃であったと石川氏は話す。

「アンケートの結果から見えてくることは、パーパスへの共感と従業員エンゲージメントの乖離であり、これは恐らくパーパスがポエムのようになっているから起こっていると仮説を立てています。パーパスに共感はできるが自分ごととして実践などにつながっていないので、エンゲージメントは低くなっているのです。パーパスは、制定すればすべてを解決してくれる魔法の言葉のように思ってしまいがちですが、そうではなく、制定した後が重要だと実感しました」。

そこで広報室では、この乖離を埋めるべく、まずはエンゲージメント向上を目的とした施策に注力することにしたという。

社外広報:社内広報=2:8

企業ブランドにとってインターナル広報が果たす役割について、石川氏は次のように考えを話す。

「社外広報を積極的に行ってメディアにたくさん取り上げていただけたとしても、従業員のエンゲージメントが高くなければその様子を社外に発信してしまうことになり、むしろ逆効果にもなり得るのではないかと思います。従業員が企業ブランドを体現しているからこそ、メディアでの掲載も効果がでるのです。そのため、私は以前から広報活動をする中で『社外:社内=3:7』くらいの割合で、社内広報を重視していました。そして、現在エンゲージメント向上施策を進める中で社内広報の重要さをさらに感じており、今は『社外:社内=2:8』くらいの気持ちで社内に対する取り組みに力を入れています」。

広報室ではエンゲージメント向上のため、現在「コーポレートニュースサイト」「タカラTV」「社内報『宝箱』」という3つの社内向けメディアの運営に注力している。

グラフ その他 3つの社内メディア

図2 3つの社内メディア

この3メディアのコンセプトを「どんな小さなニュースも逃さない社員の笑顔にたくさん出会えるタカラメディア」と定め、広報室はそれぞれの目的を整理。メディアの特性や役割を明確にした上で、連携を取りながら運営している。

「コーポレートニュースサイトは社内のイントラネットを活用し、スピード感を重視して当社に関連するニュースを配信しています。それに対して社内報は紙メディアなので発行までに時間はかかりますが、会社の歴史を残す役割を担っています。また、ご家族やOB・OGの方にも見ていただけるので従業員の誇りにもつながると考えています」(石川氏)。

また、タカラTVは2023年に“社内テレビ局”という立ち位置で始動した動画メディアだ。

「音と映像があることで、テキストや写真のみでは伝えきれなかった想いを伝えられると考えています。当社は拠点がさまざまなところにあるため、従業員同士でも対面したことがない人もいます。会ったことがない従業員を身近に感じられる効果も動画にはあると思います。広報室では3メディアについて2024年に新しい戦略を立て、従業員にこれまで以上に会社を好きになってもらえるよう担当者が中心となって運営を行っています」と石川氏は話す。

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