アドビは3月18日~20日(現地時間)で、米国・ラスベガスにてAdobe Summit2025を開催している。
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今回のサミットでは「Customer Experience Orchestration」や「Personalized at Scale」をキーワードに、マーケティングコミュニケーションにおける、より質の高い顧客体験提供の重要性が語られているが、2日目に実施されたキーノートの内容の中での注目ポイントは「AIチャットボットの最先端」だった。
「Adobe Experience Cloud」のエンジニアリング担当で、ヴァイスプレジデントのアンジュル・ブハムブリ氏が発表したのは、「Adobe Brand Concierge(以下、Brand Concierge)」だ。同ソリューションは、AEP Agent Orchestrator*を基盤としたAIチャットボット。商品の検討から購入まで会話を通じて消費者をガイドする。これまでのAIチャットボットと異なるのは、“AIアシスタント”ではなく、“AIエージェント”を搭載していることだ。
* Experience Cloud内のAI、GenAI、エージェントを強化するフレームワークとモデルのこと。マーケティングと顧客体験プラットフォームであるAdobe Experience Platform(AEP)をアップデートし、エージェント機能を搭載する。アドビおよびサードパーティエコシステムの複数のAIエージェントを構築、管理、連携できる。
「Adobe Experience Cloud」エンジニアリング担当・ヴァイスプレジデントのアンジュル・ブハムブリ氏。
AIアシスタントとAIエージェントの大きな違いは、ユーザーからの質問に対する回答が“自律的か、否か”にある。AIアシスタントはユーザーからの1つの指示に対して1つの情報を取得したり、事前にプログラムされたルールやテンプレートに基づいて回答する。一方でAIエージェントは、ユーザーからの指示・質問(目標)を達成するために言語や推論、回答内容が目標達成できるものになっているかどうかを自律的に思考し、最終的な提案を行う。これまでのAIチャットボットには、アシスタントが利用されることがほとんどだった。
一般的なAIエージェントと、Adobe Brand Conciergeの違い。
AIチャットボットを取り巻く消費者の反応について、Adobe Analyticsの調査によると、2025年2月にはAIを搭載したチャットサービスによる生成AI起点の米国の小売サイトへのトラフィックが1200%増加、また、ある企業の旅行サイトにおいては1700%増加するという結果が出たという。
この結果についてアンジュル・ブハムブリ氏は、「この調査結果は、消費者が購入に関するアドバイスやインスピレーション、すぐに購入できる情報をAIに求めたことによるものだと捉えている。次世代の消費者は、お気に入りのブランドとの会話型体験に価値を見出しているのではないか」と分析。より複雑なタスクを処理し、高度にカスタマイズされた推奨を行うことができるAIエージェントの登場は、企業と消費者との関わり方に新たな時代をもたらすはずだ、と話した。
また、AIエージェント搭載のチャットボットである「Brand Concierge」の活用と相性が良い業界として言及されたのは、旅行・観光業、サービス業、EC事業を展開している小売業など。パーソナライズされた旅行計画の立案や、小売業においては最適な製品やサービスを見つけるサポート性能が各段に上がるとし、活用可能性を示した。
Brand Conciergeを通して設計したチャットボットの受け答えのデモ画面。
「一般的なAIチャットボットは、どんなブランドを相手にしていても、似たような回答が返ってきているはずです。ユーザーの要望や質問に答えるだけにとどまっていました。Brand Conciergeは、単にテキストを生成するだけでなく、個々の顧客に対してパーソナライズされた提案を行います。要は、単なるFAQではなく、顧客が求める情報や提案を、会話を通じて適切に提示することができるようになるということです。
例えば、サイトに訪れた顧客が『次回の宿泊で利用できる特典は?』とチャットボットに問いかけたとします。これまでなら、回答としてあらゆる選択肢が提示されていたはずです。しかしBrand ConciergeではAIが顧客の過去の滞在データを自律的に分析し、その分析をもとにカスタマイズされた特典を自動で提案することができるようになります。これらの機能により、より多くの見込み客を獲得し、より正確なパーソナライゼーションを通じてコンバージョン率を高めることで、販売サイクルの最適化に役立てられると考えています」(アンジュル・ブハムブリ氏)。
企業が利用する際のデモ操作画面。何をしたいかの要望を検索欄に入れると、解決策として最適な提案がなされる。
アドビでは、Brand Conciergeを単一ブランドや個別キャンペーンの枠にとどめず、今後は全施設・全製品ライン・全顧客層にパーソナライズされた「ブランド対話」を提供可能していきたいという構想も明言している。
ブハムブリ氏は、「顧客はただ質問に答えてほしいのではなく、“その場で決断できる”ようなガイドが必要としているのではないでしょうか。調査結果からもその示唆を感じられるはずです。例えば顧客が探す前に“先回りして”提案できるようになるとか。アドビとしては、Brand Conciergeを単なるチャットボットではなく、将来的には顧客一人ひとりにとっての”ブランドパートナー的な存在”へと進化させていきたいと考えています」と今後の展望を語った。
