サッポロビールでデータ利活用を推進し、直近では「ヱビスブランド」のファンコミュニティ「ヱビスビアタウン」を手掛けたのち、現在はサッポロ不動産開発に出向し、不動産ディベロッパー業界のDXに取り組む福吉敬氏がホストとなり、企業内でデータ利活用を推進するマーケターと対談する本連載。今回は東急不動産ホールディングスの100%子会社でDX推進を担うTFHD digitalの武重慶士氏と対談。TFHD digitalは2022年2月に設立、幅広い事業を展開する東急不動産ホールディングスグループのDXを推進し、境界を取り除いた新しいライフスタイルの創造をミッションに掲げる組織だ。
武重氏に社内組織ではなく、TFHD digitalとして別会社化した狙いと理由を聞く。
※本記事には前編があります
既存のルールにとらわれない“出島的”な組織をつくる
福吉:東急不動産ホールディングスさんでは、武重さんが所属するTFHD digitalを設立し、そこに人事評価や働き方のニーズの異なるデジタル人材を集めていること。またTFHD digitalが基点となり、ホールディングス内の各事業会社に対してデジタル人材育成のプロジェクトを進めていると聞きました。
僕がいま、頭を悩ませているのは評価制度です。外部のデジタル人材も採用されていると思いますが、給与体系も違うので難しいですよね。
武重:デジタル人材は給与水準が高く、働き方の自由度も高い。そうした人たちを既存の東急不動産グループの人事制度を適用しようとするとマッチしない。例えば、東急不動産ではある一定の出社ルールが設けられていますが、TFHD digitalでは細かいルールを定めていないため、私の部下は月に一度も出社しない人もいます。各個人が予定に合わせて出社・在宅勤務・シェアオフィスでの勤務など、自分が一番生産性が高いと思える働き方を選択できるようにしています。
だからこそ自由と「自律」を重視しており、スキルや成果を正しく評価していくことが大切になると考えています。
TFHD digitalを別会社とした背景には私のような人材を転籍させるだけではなく、DXの推進においては外部のスペシャルな人材を迎え入れることが前提としてありました。給与水準やデジタル化への貢献度を評価する人、その評価制度の運用において既存のルールにとらわれない組織を出島的なポジションで行うために子会社としてTFHD digitalを設立しています。
データ統合の利益を顧客に還元することは企業価値の向上につながる
福吉:不動産事業は契約書の数が多いし、古いものになると倉庫に束で保管されているようなこともざらです。契約書などの非構造化データをデータ化して構造化するような動きはとられていますか。
武重:徐々にですが進めています。更新されていない顧客データのアップデートも必要です。
福吉:古いデータのまま情報発信をすることは、顧客データ流出や情報漏洩のリスクもありますよね。不動産事業は契約社会なので、特にリスク管理が大事になります。
武重:それゆえ、データ統合の仕方も重要ですよね。今はアクティブユーザーを中心に更新を進めています。例えば、ゴルフ場やホテルなどを利用いただいたタイミングで情報更新を依頼する。ひとまずは何か更新が出た時点で私たちのホールディングスやグループの中だけでもデータが連動する仕組みを構築しないといけないというのが今の方向性です。
事業ウイングが広いからこそ、これまで単発になっていたサービス提供をつなげたい。一般、特にご高齢の方は赤いマークでも緑のマークでも「東急」という大きなくくりで見ていて、社員からすると別の会社という意識でも「東急なんだからわかっていて当然」と思われることも多い。
一方でそれは期待でもあるので、今後、電鉄系と不動産のデータがうまく統合できればすごく便利になる。その便利さを、例えば東急沿線に住んでいることであったり、東急系のサービスを利用する意義にまで価値を引き上げることができれば大きなメリットになると考えています。