日本広告業協会（JAAA）では毎年、会員社社員を対象に「論文」と「私の言いたいこと」の懸賞募集を実施している。2025年3月24日、第54回懸賞論文の受賞作品を発表した。「論文」（課題：Beyond Advertising）で金賞を受賞したのは、電通の福永琢磨氏の論文『自分で考える楽しさを民主化する。〜広告人は思考の社会インフラへ〜』。福永氏の論文のサマリーは以下の通り。
金賞受賞論文のサマリー
『自分で考える楽しさを民主化する。〜広告人は思考の社会インフラへ〜』
デジタルによる個の時代化は、人々の分断をより顕著にしていく。社会からは他者への寛容さがなくなり、人々はどんどん余裕をなくしていく。そんな負のサイクルから脱し、人と人が相互理解する社会の実現に向け、広告は今までの枠組みやイメージを遥かに超えて、その役割と姿を変えていくことになるだろう。
個の時代の未来を持続可能にするために必要なのは「相互理解」のスキルだ。それを身につけるために必要なのは「自他を客観視し、思い込みを超越する力（メタ認知力）」「理解と同意を切り分け、立場のちがう相手の視点を想像する力（視点転換力）」「起きている現象の意味を再定義する力（リフレーム力）」という３つの力であり、それらを根底で支えるのが「ものごとを俯瞰して『それはなぜなのか？』を深く考える力、ディープ・シンキング」だ。ここでは、これらの能力を総合して「メタ・ブレイン」と呼び、その能力を身につけた人をアウェイキングと呼んでみたい。
メタ・ブレインを社会にインストールすることとは、すなわち「自分で考える楽しさ」を人々が取り戻すことであり（これを「自分で考える楽しさの民主化」と呼ぶ）、ここにこそ広告人が重要な役割を果たすべき領域が存在している。なぜなら、広告人こそが、メタ・ブレインの使い手だからだ。
社会の流れや今の時代をメタ・ブレインで分析すると、我々は常に時代の流れの中にあって、その要請によって態度を変えてきた。それは広告も同じで、今は普遍的と思われている「わかりやすさ」という広告の正義もこれまでの時代要請だったに過ぎず、持続可能社会に向けて価値観の変革が求められるこれからの時代の要請は「興味と関心の喚起」となるだろう。もっと知りたい、もっと深く考えたいと思えるような思考の着火装置だ。
広告人は「自分で考える楽しさの民主化」のために、広告人独自の豊かな思考法を社会に共有し、伴走し、人々を社会変革の主役へと覚醒させていくのだ。広告人は思考の社会インフラの役割を果たし、人々が自分で考え、相互理解することの楽しさと喜びを感じる社会を実現するために、これまでの広告のカタチに一切囚われることなく、時代の牽引役として人々に一歩を踏み出す勇気を広告していくのだ。
メタ・ブレインの図表。
また、福永氏は今回の論文の執筆の背景について以下のコメントを寄せている。
JAAA懸賞論文のテーマは、2022年「広告と幸福」、2023年「広告の新しい姿」と推移し、2023年は「Beyond Advertising」となりました。この「広告を超えて」というテーマは、まず人間の幸福と広告の関係性（広告そのもののパーパスとは何か）を明らかにし、それを踏まえた具体的な広告の姿（「気持ちの熱」を伝播し世界を動かす広告熱力学論）を模索した上で、それらを超えた先にある広告人の本質的な姿を描き出すきっかけを私に与えてくれました。
広告人から、広告という表層的な殻を取り去ったら、いったい何が残っているのか。そんな思考実験の末に見えてきたのは、デジタル化による人の個化と分断が急速に進展していく人間社会の中で、どんどんと忘れ去られていく「人と人とが相互理解するためのスキル」でした。
それは人任せにせず自分の頭で考える力そのものであり、もしかしたら広告人が独占してきてしまったものなのかも知れない。今こそ広告人はそのスキルを広く世の中に開示し、シェアし、誰もが思考の喜びを再び手にする必要があると考え、執筆しました。
