前編では、トランプ政権下で反DIEの動きが活発化する米国において、図書館によるダイバーシティを広める活動事例を紹介しました。
子ども向けのブックバトルの選書や、特定の内容の本を排除する「Book Ban」に対する対抗策としての「Little Free Library」などに触れましたが、後編ではちょっとユニークな図書館のイベントを紹介します。
図書館でスパイスを配り、異国のカルチャーを学ぶ仕掛け
その名は「スパイスクラブ」。オレゴンの隣町で開かれることが告知されていて、私も知りました。
図書館の来館者へ、スプーン大さじ1杯のスパイスと、そのレシピのキットが配られるというものでした(先着で)。
オハイオ州、ワシントン州など、さまざまな州の図書館で数年前から広まっているというこの取り組みは、キットを配るものもあれば、ポットラックでみんなでそのキットを使ってつくった料理を持ち寄るところまでやっている地域もあるようです。
なぜ、スパイスかというと、食事や料理の伝統を共有することは、その国のカルチャーや価値観、興味を知るに役立つだろうという考え方から。図書館にはその地域の料理の本も置いてありますし、それを借りていくきっかけにもなります。
意外にも、このスパイス配布はライブラリーと相性が良いようで、オレゴンでも広がりつつあるようです。
ちょうど近くの図書館に行った時に中を散策してみると、Native Americanのレシピ本の特設コーナーがありました。
私がポートランドに移住したばかりの頃、子どもたちと図書館へ行くと必ず、レシピ本を借りていたことを思い出しました。私が料理好きというのはもちろん選択の根底にはありますが、母国語ではない言葉で読みやすい本と言えば、こういう実用書になるのだろうと思います(言葉の理解が浅くてもわかりますから!)。
図書館の企画に話を戻すと、レシピ本とスパイス以外にも、たとえば、各国の伝統的なスポーツ(カポエラやムエタイ)の指南書と、体験会をセットで行うなんて企画も、「図書館」という枠組みにとらわれなければ考えられるかもしれません。
ユニークな建築が話題、日本のライブラリーは?
日本でも昨今、自治体が主導して、地方都市に素敵なライブラリーがたくさん開設されています。
たとえば、2022年にオープンした石川県立図書館は、そのデザイン性と読書スペースのバリエーション、また石川県の伝統や歴史を学ぶことができるとか。
佐賀の武雄市図書館は、2013年からカルチュアコンビニエンスクラブが指定管理者となり、スターバックスやTSUTAYAがある図書館。新しい図書館での過ごし方を提案した先行例として知られていますよね。
2015年にオープンした岐阜市立図書館も、木造格子屋根の特徴的なデザインがユニークでよく紹介されています。ここは地域の交流を促進する複合施設内にあることもあり、地域のコミュニティ活性につながる場所となっています。
他にもさまざまな図書館がありますが、最近リニューアルした日本のライブラリーに共通しているのは、デザイン・アートとしての建築物の美しさ(時々、地域材の活用)と居心地の良い空間づくりへのこだわり。
図書館来訪への興味関心をひきつつ(写真をみると私も行ってみたい!と思うものばかりです)、その空間に滞在することで本を通じた学びを心地よいものにすること、また地域コミュニティの創造、地域の学び、そして、知の共有が目的となっているのかなと感じます。
日本は民族としては、ほぼひとつであることもあるので、多様性という観点は後ろの方の目的になってしまうのかもしれません。
ただ、子どもの学びや知識を増やすことをライブラリーの中心に据えていることも魅力のひとつと考えると、未来ある子どもたちが多様性というものに触れられる機会をつくるということも、図書館の役割になってくるのではなかろうか?と思うのです。
私が住むポートランドで近くのライブラリーがあるエリアはアジア系の人が多く住むエリア。ゆえにスペイン語以外にも中国、ベトナム語などの児童書がありました。
冬の我が家の一大イベントだった「Oregon Battle of Books」をきっかけに考えた、図書館とダイバーシティの話でした。自治体をはじめ公共のライブラリーの設計やデザインに関わる皆さんに届くと幸いです。
