AIがビジネスのあり方を新たな段階へと進めようとしている。そのスピードは予想を大きく上回り、ITやテクノロジー部門にとどまらず、事業全体での活用・導入がビジネスの成否を左右するレベルになりつつある。
AIを活用した事業支援を行うMMOL Holdings(ミリモルホールディングス)代表取締役/CEOの河野貴伸氏が3月4日、5日に開かれた「宣伝会議マーケティングサミットPREMIUM 2025」に登壇。「最新AIがあらゆるブレイクスルーを加速する。2025年以降のマーケティングの展望」と題し講演した。
AIの活用による効率化のイメージは「工場」
河野氏は冒頭にAIが事業に与えるさまざまな影響を紹介し、「AIは事業そのものをひっくり返すような可能性を秘めている。その活用を進めることで競争優位性が得られることはすでに周知の事実」と話した。一方で、AIの進化のスピードは早く、使いこなすことができる人材は少ない。事業に活用できる範囲を現実的に整理することの重要性について触れ、AIを事業やマーケティングに実装する方法について解説した。
MMOL Holdings 代表取締役/CEO 河野貴伸 氏
AIの活用が必須とはいえ、人の作業すべてを代替できるわけではない。河野氏はAIが得意とする領域と、人による介入が必要な領域を紹介し、事業にAIを導入する際のイメージを「工場」に例えた。すべて手作業で行っていたパン作りを、原材料を投入すれば自動的にパンが焼き上がり、人は品質管理を行うだけで大幅に人員を削減できる。これが「工場」の概念だ。
AIも同様で、必要な情報を与え、求める成果が出るような作業システムを構築し、その全体の管理を人間が行うことで効率化が実現できる。この「工場」の概念でAIを導入する際に必要なのは、タスクをチャンク(塊)に分割し、チャンクごとにAIを導入できるかを検討し、最適なAIツールに任せていくモジュール方式を採用することだ。そこで人がすべきは全体を俯瞰し、プロジェクトマネージャーやプロデューサーのような役割を果たすことだ。
同社ではこのような、人を中心としながら、チャンク化したタスクを最適なツールと掛け合わせて実行していく「AIネイティブ」な組織構築と、AIネイティブなプロジェクトマネジメントの実行を支援している。
モジュール化でAIの効果を最大限に引き出す
事業運営と同様、マーケティング領域でもAIの活用は進んでいる。広告の自動生成や配信先の最適化、コンテンツ制作の効率化など、導入される範囲は拡大の一途をたどっている。河野氏はここでも機能をチャンクに分解してモジュール化し、それぞれを接続することでAIの有効活用が可能になると指摘し、その具体的な方法を解説した。
ポイントとなるのは、RPA(Robotic Process Automation)とAIの連携だ。サイトコンテンツ(文章)の作成や提出書類の作成をモジュール化した例を用いて、AIとRPAを連携することによる自動化の概念を図示した。
河野氏は「AIを使いこなすことができる人と、実際に日々の業務で使う人は別の人間です。浸透させるためには、AIに精通していない人でも無意識下でインフラのように使ってもらうことが大事」と話した。モジュール化し、AIとRPAを連携させたシステムを構築することで、誰もが最初の指示を入力するだけで、成果が自動的に出てくる状態にしておくことの重要性を説いた。
デジタル広告においてもAIに活用は進んでいる。河野氏はGoogleやMetaのAIに関する取り組みも紹介しながら、広告運用や改善をAIで完全自動化することを推奨し、そのためのツールも多数存在していることにも触れた。ここでもモジュール方式は有効で、人が広告アカウント整備などの前提作業で管理しながら、各モジュールをAIツールで自動化・効率化し、全体を完全自動化が可能であるという。
すでにこの自動化をフレームワーク化するWebサービスは存在する。河野氏は、自身が導入しているというV-CATを例に解説した。こうしたツールの利点は、広告の自動化と合わせてブランドの資産管理も同時にできるところにある。
さらに、画像や動画の自動生成も自動化ツールでは可能だ。AIの生成画像や動画も進化しており、自動化でも十分に通用するものを生成可能だ。さらには、一度作ったデジタル広告の中から一番成果が高かったものをもとに、次の広告展開が生成されていくという完全な自動運用も可能だ。
河野氏は「そうなったときに人間がやることは、その手前でコンテンツの創造力や戦略の部分に集約されていく」と話した。また、モジュール化し、自動化の仕組みを構築することは「AIに興味がない、運用が難しいというような従業員にもAIの効果を最大限体験していただけるところに大きなメリットがある」と指摘した。
事業におけるAI活用で何を目指すのか
河野氏は事業やマーケティングへのAI活用の目的は、生産性の向上において有効性が高いと話し、その遠因は人材不足にあると分析した。優秀な人材が不足し、その人材も業務負担が集中し、本来の役割に能力を発揮する時間も余裕もなくなる。そうした人材が自社で採用できる保証もないとなれば、AIを最大限に活用できる事業体制と整え、仕組みでカバーするしかない。そこにAI活用の大きな意義がある。
「最終的に人間がすべき業務は顧客満足や価値の提供が一番。しかし実態としてはそれを支える標準化の作業に8割近くが割かれている。これをAIで自動化し、本来の業務に100%振ることができるとどうなるのか、ということが事業のキーファクターになる」(河野氏)
さらに、河野氏はマーケティングの各ファネルにおいても、人とAIの役割分担を明確にし、自動化することで適切な投資判断を行うことができるようになるとも話した。
「多くの事業会社で人やノウハウが足りないと言われる。そこにAIを事業に組み込むことで健全な組織運用と的確な投資判断ができるようにすることを我々は支援しています。業務のモジュール化は一見AIと無関係に感じるかもしれませんが、実は一番効果があるので、ぜひお試しください」と話した。
河野氏は最後に、今後のAIに関する展望にも触れ、「ツールの進化・多様化が進んでも、どのAIを使うかではなく、進化に対応できるように業務をAIネイティブ化する枠組みを作っておくことが大事」と指摘した。すべての業務をAIネイティブに進めることができれば、数人でも数百人規模のパフオーマンスが可能になり、それが大企業でも実現できればより高いパフォーマンスを発揮でき、強い日本企業が実現できるのではないかと期待を寄せた。
そして、河野氏らのMMOL Holdingsはグループ全体の活動を通じて、その実現を支援していると話し、セッションを締め括った。
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