テレビCMとリテールメディアの組み合わせで新規購買者が急伸するのはなぜか

購買に近いタッチポイントを捉え、データ活用を柱にして認知獲得と行動変容を促すリテールメディアに注目が集まっている。国内最大規模のリテールメディアネットワークを運営するカタリナマーケティングジャパン取締役副社長COOの松田伊三雄氏が、3月4日、5日に開かれた「宣伝会議マーケティングサミットPREMIUM 2025」に登壇。リテールメディア活用の可能性と、既存メディアとの組み合わせによる効果的なメディアミックスについて解説した。

国内最大規模の“横断統合型”リテールメディアネットワークを構築

リテールメディアは店舗データを活用して計画・実行・測定される広告を指す。オフサイト(外部Webサイト)、オンサイト(自社展開するWebサイトやアプリ)、インストア(店頭メディア)と多様なタッチポイントがあり、純広告やインセンティブオファーなど多様なコンテンツでリーチが可能だ。

カタリナマーケティングジャパンは、全国1万店以上、1億ID以上、12兆円規模の購買データを保有し、120社以上のリテール企業と連携したリテールメディアネットワーク「カタリナ」を運営している。特に、オフサイトとインストアメディアを組み合わせた横断統合型の施策を得意としている。日本全国120を超える小売企業からファースト(1st)パーティデータを預かって、小売企業間の壁を超えたリテールメディアネットワークの運営を委託されていることを強みとする。

写真 人物 カタリナマーケティングジャパン 取締役副社長 COO 松田伊三雄 氏

カタリナマーケティングジャパン 取締役副社長 COO 松田伊三雄 氏

「日本国内では主要消費財の90%以上がオフラインで消費されています。その約52%超を『カタリナ』で捕捉しており、日本のリアルデータとしては最大級の規模。月間約5.5億回の会計データを365日・24時間収集しており、拡大推計ではない実購買データに基づく分析が可能である点がカタリナの強みです」(松田氏)

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リテールメディア市場、米国と日本の違い

米国では、リテールメディア市場が急速に成長しており、2025年にはテレビ広告費を上回り、2027年には1000億ドルを超えると予測されている。一方で、食料品のリテールメディアの広告シェアはウォルマートとAmazonの2社に集中しているのが現状だ。

「2社の成功の要因は、広範囲で大規模な1stパーティデータを保有しているからであり、彼らのネットワークへの出稿は市場全体へのアプローチと同等と捉えられているからこそ。米国では、個々のリテーラーが単独でリテールメディアを展開するのではなく、ネットワーク化して市場化を目指す『統合』のフェーズへと移行していくとされています」

日本のリテールメディア広告市場は、2023年に3761億円規模となり前年比121.6%の成長を見せてはいるものの(CARTA HOLDINGS調べ)、依然として北米ほどの市場を創るには至っていない。松田氏は、メーカーへのアンケート調査結果から「個別リテールの規模が小さく分析力も不足しているため、ブランドのメディア戦略に組み込みにくい」という課題を指摘する。カタリナでは、ウォルマートやAmazonと同等の規模感と分析力を備えた、ネットワーク化し市場化されたリテールメディアを提供することで課題解決を目指している。

リテールメディアで可能になる“カテゴリー理解”の深耕

松田氏は、メディアプランニングにおいて重要なことは、データに基づいたカテゴリー理解・消費者理解であると強調する。

「スポーツの世界では、ここ10年でデータ無しでは勝てない世界になりました。マーケティングにおいても、強いチーム、つまり有名なマーケターの先行事例やフレームワークを真似するだけでなく、勝率を上げるためにデータやエビデンスを活用していくことが重要です」

ビール市場を例に、カテゴリー浸透率、トップブランドの購買者数、新規購買率、継続・離反率などを提示。「これらの不変の指標を理解した上でメディアプランを策定すべき」と松田氏は語る。

例えば、ビールのカテゴリー浸透率(全来店者における購入率)は約20%で、どの年度であっても基本的にはここから変わることはない。さらには同カテゴリーのトップブランドでも総来店客のわずか1〜3%しか購入しておらず、自然新規購買率も全来店者の1.9%に過ぎない。これらのデータは「マス広告だけで新規顧客を獲得するのは非効率」であることを示唆している。松田氏は「パレートの法則」にも触れ、「上位20%の顧客が売上の75%を占める」というビール市場の特徴を踏まえ、LTVの高い顧客への効率的なリーチの重要性を指摘した。

テレビCMと併用で購買者数が2.5倍に

続けて松田氏は、テレビCMだけでは売上につながらないという消費財メーカーの課題感を提示。リテールメディアとの組み合わせによる効果的な事例を紹介した。

あるRTD(レディー・トゥー・ドリンク、缶入り低アルコール飲料を指す)の新商品では、テレビCMを1300GRPほど投下しても新規購買者数はほとんど変化しなかった。しかし、同程度の露出規模でリテールメディアを併用したところ、新規顧客獲得が2.1倍に増加。さらに、獲得した顧客の質も高く、LTVの高い戦略ターゲットの獲得率は67%に達した。

日用雑貨のリニューアル商品の事例では、テレビCM単独では効果が薄かったものの、リテールメディアとの併用で購買者数が2.5倍に増加。リテールメディア経由の顧客のリピート率は45%、4回以上リピートした顧客は24%と、LTVの高い顧客の獲得に成功している。

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これらの事例は、リテールメディアが「認知獲得」「購入意向向上」「購買促進」「LTV向上」といった、マーケティングファネル全体に効果を発揮することを示している。特に、店頭でのインセンティブ付きメディアは、消費者の行動変容を促す上で特に有効といえる。

松田氏は、リテールメディアの高い認知効果について、行動心理学の観点からも解説した。店内メディアでは、インセンティブをフックに消費者の注意を引き、メディアパーツへの接触を促すことで認知を高めている。「会計時にレシートとともにメディアオファーを受け取る」「来店前にメディアオファーの内容を確認する」「店内で商品を探す」「会計時にメディアオファーを提示する」といった一連の行動を通して、消費者は商品情報に複数回接触することとなる。

これらは、時間をおいて繰り返し接触する「間隔効果」、視覚・行動・思考を同時処理する「多重符号化」といった行動心理学の理論と合致し、強い記憶の形成につながるのだ。実際に、食品メーカーとのドレッシングの新商品に関する共同調査でも、リテールメディア接触者の商品認知経路はテレビCMと比べても3倍近い回答を得ており、有意に高いことが明らかになっている。

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「量」と「質」のメディアミックスを

松田氏は、デジタル広告における新たな指標として「CPOTM(Cost per On-Target Mille)」を提唱した。従来のCPMはリーチ数だけを重視する指標だが、CPOTMは「購買意向の高いターゲットへのリーチ単価」を示す指標だ。

例えば、ある商品でYouTube広告(デモグラフィック属性によるターゲティング)のCPMが700円、購買率が0.35%、カタリナリテールメディア(購買ターゲティング)のCPMが1000円、購買率が2.04%だったとする。CPMだけを見るとYouTube広告の方が安価だが、CPOTMで比較すると、カタリナリテールメディアの方が約4倍も効率的だということが分かる。

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最後に松田氏は、これからのメディアミックス戦略について「量」と「質」の両立が重要だと提言。「量」はテレビCMやデジタル広告によるマスリーチ、「質」はリテールメディアによるLTVの高い顧客への効率的なリーチだ。

「認知しても買わない人にもできるだけ知ってもらう。一方で、知れば買う可能性の高い人にしっかりと知ってもらう。この2つを両立することで、認知拡大と売上拡大の両方が可能になるはずです」と述べて締めくくった。

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