継続的に市場の成長を実現するためには、既存顧客の維持だけでなく、潜在顧客を新たな市場へと転換させることが不可欠だ。一方で、従来の市場調査手法だけでは、消費者の深層心理や行動の背後にある真意を捉えきれていないという課題がある。
アセントネットワークスの西野敦彦氏が、3月4日、5日に開かれた「宣伝会議マーケティングサミットPREMIUM 2025」に登壇。1億2000万件以上の検索データから消費者インテントを分析し、未顧客を市場に変える消費者インテントデータ活用の革新的な手法を解説した。
消費者インテントデータは未顧客理解の突破口
従来の市場調査は、売上データ分析やアンケート調査、ソーシャルメディア分析といった手法が主流だった。売上データは購買行動の結果を示すものの、購買の動機や背景までは分からない。アンケート調査は、回答者の記憶や意識に依存するため、本音とは異なる回答が得られる可能性がある。ソーシャルメディア分析は、拡散された情報に偏りがちで、実際の購買行動との乖離が生じるリスクもはらんでいる。
アセントネットワークス ソリューション事業部 執行役員 兼 事業本部長 西野敦彦 氏
西野氏はこれらの限界を指摘し、真に消費者を理解するためには、「消費者を特定の行動に駆り立てる意図」=「消費者インテント」を捉えることの重要性を強調。そして、消費者インテントを捉えるための最適なデータとして、検索データを挙げた。検索データは、消費者自身が情報ニーズを満たすために、検索エンジンを利用する際の行動データであり、バイアスが少なくリアルなニーズを反映している。これを「消費者インテントデータ」と定義し、未顧客理解の突破口として活用を提唱している。
消費者インテントとは、消費者を行動に駆り立てる意図のこと
ソーシャルデータと検索データは表裏
西野氏は、ソーシャルデータと検索データの特性の違いを示した。ソーシャルデータは、消費者が他人に見せる自分を表現した表層データである一方、検索データは、消費者の深層心理や隠れたニーズを反映した深層データとなる。
例えば、ダイエットに関する情報を発信している消費者がいたとする。ソーシャルメディア上では、「#ダイエット」「#ヘルシーライフ」といったハッシュタグとともに、理想的な食事や運動の様子を投稿するかもしれない。しかし、検索エンジンでは、「夜食 ダイエット」「太らない間食」といったキーワードで検索している可能性がある。ソーシャルメディアでは表向きの理想を表現する一方で、検索エンジンでは真の欲求や悩みを吐露しているのだ。検索データこそ、消費者の欲望や悩みといった、より深いレベルのニーズを理解できる消費者インテントデータであると指摘した。
検索経路の分析で消費者心理を紐解く
西野氏は、「ワイヤレスイヤホン」の検索事例を挙げ、検索キーワードを単独で分析するだけでなく検索経路を分析することで、消費者のニーズの多様性や変化を捉えられることを示した。例えば、ワイヤレスイヤホンというキーワードで検索を開始した消費者の検索経路をたどってみると、「音質重視」「安い」「ノイズキャンセリング」など、実に多様なニーズを持つ消費者が存在することが分かる。そして、検索履歴を時系列で追うことで、消費者のニーズの変化や、購買決定に至るまでの心理的プロセスを可視化できる。
このような多様なニーズを理解することは、効果的なマーケティング戦略立案の基盤となる。
マーケティングに検索データを使用するメリットは多い
モバイルによる消費者行動の劇的な変化
モバイル環境の普及は、消費者の情報収集行動を劇的に変化させた。消費者は、必要な時に必要な情報を検索できる。そのため、消費者の課題解決スピードは飛躍的に向上し、購買行動にも大きな影響を与えている。テレビを見ながらスマートフォンで商品情報を検索したり、店頭で商品を手に取りながら比較サイトを閲覧したりといった行動は珍しいものではない。
西野氏は、モバイル環境における検索データの重要性を強調。日本国内におけるGoogleの検索エンジンシェアは77%、モバイルにおいては82%に達しており、モバイル検索データの分析は、現代の消費者理解に不可欠な要素となっている。
検索データが明らかにするノンアル市場の成長
西野氏は、ノンアルコール市場の分析事例を紹介し、検索データが市場動向をどのように捉えているかを示した。矢野経済研究所 とサントリーのデータに基づくと、ノンアルコール飲料市場は2020年以降拡大傾向にあり、酒類全体の市場が鈍化する中でノンアルコール市場は成長を続けている。同様にノンアルコールの検索は、ボリュームとキーワード数が共に急増していることが明らかになった。これは、消費者の選択肢の増加や、飲用シーンの多様化を示唆する兆候である。
また、検索キーワードを「情報型、移動型、商業型、取引型」の4つに分類し、各タイプの検索ボリュームの推移を分析した結果、取引型のキーワードは市場の成長を支える基盤となっている一方で、情報型のキーワードの増加は新たな消費者層の流入を示唆していることが分かった。これは、ノンアルコール飲料市場が拡大期にあり、さらなる成長のポテンシャルを秘めていることを示している。
さらに、「ノンアルコール」というキーワードで検索したユーザーを10タイプに分類し、それぞれのニーズを深掘りすると、「健康・安全思考型」のユーザーは「薬」「添加物」「妊婦」に関連するキーワードで検索していることが明らかに。健康や安全に対する意識の高さが伺える結果となった。
カテゴリーエントリーポイント(CEPs)の7つのポイント
カテゴリーエントリーポイントは購買トリガー
西野氏は、消費者が特定の商品カテゴリーを思い浮かべるきっかけとなる、「カテゴリーエントリーポイント(CEPs)」の重要性を強調。CEPsは、消費者のニーズと商品を結びつける重要な役割を担っている。適切に設定することで、消費者に最適なタイミングで最適なメッセージを伝えられ、購買行動を一層促進できる。「ノンアルコールビール」のCEPsは、「運転時」「ダイエット中」「運動後」などが考えられる。「これらを軸にコミュニケーション戦略を構築することで、消費者のニーズに合致した効果的な施策を展開できるようになる。
Listening Mindが支援するマーケティングの進化
アセントネットワークスが提供する「リスニングマインド(Listening Mind)」は、消費者インテントを活用したデータドリブンマーケティングの実現を支援する消費者行動分析ツール。検索データをもとに、消費者の行動の背景にある本音や潜在的なニーズを可視化し、精度の高いターゲティングやコンテンツ戦略の構築をサポートする。
市場調査、新商品開発、競合分析など、さまざまな領域で活用されており、「アセントネットワークスは今後も、企業が消費者理解を深め、成長機会を最大化できるよう、Listening Mindの開発・提供を通じて支援を続けていく」と、今後の方針を述べた。
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