クリエイティブワークもAIファーストへ? SXSW2025が示したAIと人間の創造的対話

写真 イベント SXSW2025

アメリカのテキサス州・オースティンで、2025年3月7日(現地時間)から9日にわたって開催されたクリエイティブの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)2025」。デザインファーム tactoのCo-founder/Strategistの中島琢郎さんが、現地で参加した複数のセミナーの中で見えてきたAIと人間とコラボレーションのあり方を解説する。
 
▶【前回】今年の見どころは?「SXSW2025」AIとクリエイティビティの交差点を探る はこちら

ある老紳士が花屋を訪れる。妻の誕生日プレゼントに迷っていた。
思い出分析AIに夫婦の30年分の記憶を託すと、
二人の人生の転機に咲いていた花々が提案される。
 
だが見覚えのない一輪の赤いバラが混じっていた。
“これは?”と問うと、AIは答えた。
 
“奥様が亡くなる直前、あなたの知らない男性から贈られた花です。
分析を続けますか?”

SXSWの「顔」と言ってもいいフューチャリストのエイミー・ウェブ氏は、今回のSXSWで「2025 テックトレンドレポート」について話しました。その中で、生成AIと共存する世界において生じうる、死後のデジタルライフやプライバシーなどの問題について指摘しています。

前述のストーリーはそれを表したものですが、彼女がこのとおり話したわけではありません。これは彼女が現地で話した内容について、私が生成AIを使って作成したストーリーです。

大量の技術用語を含む難解なレポートも、SF風の物語形式に変換することで、わかりやすく自分ごと化することができます。

写真 人物 個人 エイミー・ウェブ氏

エイミー氏の講演はSXSWで20年以上にわたって続いている。

こうした変換は、ChatGPTのようなありふれたAIツールで、シンプルなプロンプトを入力するだけで実行可能です。Googleが2024年に日本版をローンチしたAIリサーチアシスタントツール「notebookLM」では、まさにこの「コンテンツの変換」が主要な機能となっています。コンテンツの形式を消費側が好みに合わせて主体的に選択する「創造的消費」といえる行為は既にあたりまえになりつつあるといえます。

ちなみに先述したSXSW2025のエイミー氏による「2025 テックトレンドレポート」はYouTubeでも視聴可能(2025年3月末時点)。

クリエイティブ業界を変える
AIとの新たな対話の在り方

今回のSXSWでは、AIが生産性や効率性の向上だけではなく、人間の創造性を拡張する手段として語られ、また実践する様子が数多く見られました。しかし、総務省の「令和6年版情報通信白書」(2024年7月発表)によれば、個人でAIを利用している人の割合が米国では46.3%なのに対して、日本は9.1%と大きく遅れをとっています。この差は、日本のクリエイティブ業界にとって危機であると同時に、大きなチャンスでもあると思います。

「AIはあくまでツールであり、アイデアを生み出すのは人間」と強調したのは、Adobeで生成AIプロジェクトを率いるハンナ・エルサカー氏です。

しかしながら現実には、AIによって生まれるアイデアの質は大きく進歩していると考えています。AIを壁打ちやブレーンストーミングに活用する人は多く、AIとの対話を通して人はより多くの優れたアイデアを生み出せるといえるのではないでしょうか。モンタナ大学の研究では、2023年の段階で「トーランス創造性テスト」(創造性を測定するためのテスト)をGPT-4が受けたところ、大学生(2016年に同テストを受けた2700人)のスコアと比較して、特に「独創性」の分野で上位1%に入るスコアを獲得したという結果が出ています。このことからもわかる通り、AIを創造的な対話相手とみなすことは、多くの人に恩恵をもたらすはずです。

スライド MIT Media Lab Advancing Humans with AI research program

MIT(マサチューセッツ工科大学)のリサーチプログラムAHA(Advancing Humans withAI)ではAIによる人間の能力の拡張の先に、自己成長や才能の開花などを位置づけている。

クリエイティブワークフローはAIファーストへ

SXSW2025では、英国のAIスクール General PurposeでチーフAIオフィサーを務めるトム・ヒューイットソン氏が提唱した「AI Essentials: Practical Skills to Get Started」も注目のセッションでした。その中で語られた「AIファーストのマインドセット」は、プロジェクトの最初の段階からAIをパートナーとして考え、プロセス全体を再設計する考え方です。

従来の制作フローは、発注主がオリエンやブリーフを整理して依頼し、コンサルやエージェンシーが数週間してコンセプトやアイデアを提案して、フィードバックがあり、ラフ制作、本制作、検証……という長いプロセスを必要としてきました。それに対して、AI時代のワークフローは反復的かつ探索的なアプローチへと変化しています。

このアプローチは従来のAIを「ツール」として使う発想から、AIとの「パートナーシップ」へと視点をシフトさせるものです。たとえば、マーケティングキャンペーンの企画では、複数のAIツールを組み合わせてアイデア出しから市場調査、ビジュアル制作、検証までを一気通貫で進めることが可能になります。こうしたアプローチを取り入れることで、事業会社内部でもプロトタイプの作成と、それを踏まえた検証や議論が可能になります。その結果、意思統一がクリアな状態で外部に発注することができ、全体の人件費を削減しながらも高品質なアウトプットを目指すことが可能になると考えられます。

ヒューイットソン氏のセッションでは、ChatGPT、Perplexity、Midjourney、Runwayなどを駆使してひとつの製品開発プロセスを45分という短時間で実演しました。このプロセスはマーケティングコミュニケーションの開発にも応用できます。

写真 人物 個人 ヒューイットソン氏

ヒューイットソン氏がステージ上で複数のツールを縦横無尽に行き来してプロジェクトを進める様子は、さながらDJのようだ。

そうした工程のなかで、クリエイティブディレクターの役割も変化しています。ヒューイットソン氏は「AIモデルを非常に優秀で熱心なインターンのように考えること」がプロンプト作成の秘訣だと述べています。また「AIとうまく働くために必要なスキルは、プログラマーよりも優れたマネージャーに近い」とも語りました。つまり、細部の指示出しではなく、AIに適切な方向性を示し、出力を評価・選別する「AIディレクション」の能力が今後のクリエイティブ業界で差別化要因となるでしょう。

スライド AIを搭載したプロダクトを開発するワークショップ

AIを搭載したプロダクトを開発するワークショップでも、AIを活用した軽量なプロトタイプ開発が推奨された。

ヒューイットソン氏は「毎日15分、AIを使って業務の一部を自動化したり効率化したりする時間をつくることが、変化への適応の第一歩である」と提唱しています。では具体的に、どう実践すればよいのか。次回はどう生成AIを用いて業務を改善していけばよいのか、セミナーの内容をふまえて具体的にご紹介します。

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中島琢郎

tacto Co-founder/Strategist

米系クリエイティブエージェンシー在籍中のカンヌライオンズ入賞をきっかけに、R&Dや新規事業開発に進出。デザインファームtactoを創業し、AIによる発想法の研究開発を行っている。37カ国を旅し、東京と直島の二拠点生活中。

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