※本稿は広報会議2025年3月号を転載しています。
仕事と介護の両立支援事業を行うチェンジウェーブグループでは、企業向けに両立リテラシーを高めるための講演やセミナーを提供している。その中で、記者から「仕事と介護の両立に取り組んでいる企業を紹介してほしい」と相談されることや、企業から「介護のテーマが社内でこんなに反響があると思わなかった」という声を聞くケースが、この1~2年で目立ってきている。そう話すのは同社執行役員の鈴木富貴氏だ。
「人手不足が課題となる中、生産性を上げ成長していくにはどうしたらいいのか、という関心から、ビジネスケアラー(働きながら介護をする人)が働き続けられる環境づくりに注目が集まっています。仕事と介護の両立についての取り組みを企業が積極的に発信していくことは、『多様な働き方を認めている会社』というメッセージになります。採用や社員のエンゲージメント向上、さらには企業ブランディングにもいい影響を与えることが期待できます。取り組みを上手に発信している企業は、社員が集まる場にメディアを誘致するなど、人事部門と広報部門の連携がとれているように思います。メディアに取り上げられることで、社内の関心や評価が高まり、両立支援がさらに進むという好循環も生まれやすくなります」(鈴木氏)。
同社の調査においては、企業で働く人の半数が、ビジネスケアラーやケアラー予備軍に該当、という結果も出ており(図1)、リスクマネジメントの側面からも、両立支援は組織として取り組むべき課題になっているという。
図1 企業従業員のビジネスケアラー(予備軍)ステージ別構成割合
仕事と介護の両立支援クラウドLCAT(チェンジウェーブグループ)受講者データ2023年より(n=38058)
仕事と介護の両立を推進することで、個人はキャリアを継続、企業は生産性を維持する。そうした環境をつくっていく上でコミュニケーションを担う広報部門の役割は大きいと鈴木氏は指摘する。
「従来の介護のイメージ、例えば『仕事をセーブして介護に専念したほうがいい』『介護は個人の問題であり職場で話すと自分のキャリアにネガティブな影響があるのでは』といった考え、職場環境をアップデートしていく必要があります」。
コミュニケーションにおいて陥りがちな失敗もあるという。「介護が始まる」と相談してきた社員は、「仕事はそのまま続けたい」と考えているのに「仕事のことは気にせず休んでいいよ、介護に専念して」と伝えてしまうケースだ(図2)。良かれと思って管理職が発したメッセージも、社員にとっては「介護によって自分のキャリアが奪われてしまうのでは」という印象を抱くことになり、周囲にいる社員も「介護についての話しづらさ」を感じてしまいかねず、望まない介護離職が発生するリスクも高まってしまう。
図2 管理職に聞いた「介護のために連続休暇を取る場合、あなたの考えに近いのはどれか」
管理職のビジネスケアラー対応力実態調査2022(チェンジウェーブグループ)(n=8304)
「ビジネスケアラーが知りたいのは、休まずに介護ができる具体的な知識です。自身がどう働きたいかに主軸を置き、介護をマネジメントしていくという視点も必要です。介護は自身で担おうとせずに、地域包括支援センターなどで情報を得てプロに頼む。こういった知識を会社で共有し、カジュアルに話ができる場がつくれれば、急に介護に直面したときでも、仕事との両立体制を整えるためにかかる時間は短縮できます。広報活動において介護に関して社内外で発信する上でも、こうした点を意識してほしいです」(鈴木氏)。
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介護に直面していない社員にとっては「仕事と介護の両立」は関心が持ちにくいかもしれない。どう工夫して伝えればいいのか。
「介護の経験をした経営層や社員の生の声は響きます。自社で介護に関する実態調査をしていない場合は、2030年に318万人がビジネスケアラーになるとした経産省の推計など、ビジネスケアラーに対する意識を高めるデータを活用するのもいいでしょう。ビジネスケアラーの問題だけでは優先度を上げにくい企業の場合は、人的資本経営等の一環として語ることもできるはずです。4月から順次施行される改正育児・介護休業法で、企業は介護離職防止のための雇用環境整備が義務付けられます。人事部門と連携しながら、仕事と介護の両立について改めて考える機会をつくってみてはどうでしょうか」(鈴木氏)。
