もし「広報はいらない」と社長に言われたら? 効果測定から考える、広報が果たすべき役割

広報活動の成果をどのように示していけばいいのか。BtoB向けITソリューションを提供するパナソニック コネクトで、コミュニケーション戦略を担う鈴木恭平氏が、自身の経験をふまえ解説する。
※本稿は2025年2月に開催した「広報会議サミット」の講演レポートです。

「あるパソコンの販売数と記事掲載件数の相関分析をしたところ、記事掲載件数が多いほど売上が下がるという結果になりました。広報活動のアウトプットは良好にもかかわらず、なぜこのような結果になったと思いますか」。

パナソニック コネクトの鈴木恭平氏は、実体験をもとにこう続けた。

「実は新製品の発売を待つ顧客による買い控えが起きているためなんです」。

パソコン市場においては、新製品を出す周期があり、店舗で製品を入れ替える時期、つまり新製品の告知リリースを打つタイミングは売上が下がりやすい構造があるという。単に広報の効果測定をしようとしても、構造上うまくいかないことがあるという一例だ。

「成果を測るのに、適切でない指標が設定されている場合、広報は経営層を説得し適切な指標に変更する必要があります」(鈴木氏)。

広報会議サミットで講演する鈴木恭平氏。Tシャツには「現場と向き合い、現場の課題を探り、現場の理想を実現する。」とある。これは同氏が運営するパナソニック コネクトのオウンドメディア「gemba」で指針としているメッセージだ。

広報の効果測定に必要不可欠な要素について鈴木氏は「ゴールの設定」と「アウトカム」の二つを挙げた。これは、国際的なコミュニケーション効果測定・評価協会であるAMECの提唱する「バルセロナ原則3.0」の考え方にひもづいている。

この原則では、ゴール設定が最も必要であり、測定によりアウトプット(施策の成果)、アウトカム(目標に対する成果)、潜在的インパクト(組織への影響)を明らかにしていくことを説く。そして広告換算はコミュニケーションの価値を測定するものではない、とも明示している。

「AMECが無償で提供するIntegrated Evaluation Framework(統合型評価フレームワーク)に基づいて、コミュニケーション活動を整理していくと、ペイドメディアやシェアードメディアの話も入ってきます。記事獲得件数のような広報のアウトプットだけではなく、コミュニケーション全体でゴールに対する成果を評価していくことが大事なのだと感じています」(鈴木氏)。

効果測定・評価にあたっては、その指標が本当に正しいか、という冷静な視点を持っておきたい。鈴木氏は、日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構のソーシャルメディア委員会で「企業SNSのためのKPI設定フレームワーク」を作成している(図)。

このフレームワークは、商品を購入するまでの検討期間が長い「高関与商材」か、短い「低関与商材」か。UGCが多いか、少ないかでKPIを分類している。

例えば飲料のように検討時間が短く口コミが多いものは、コミュニケーション活動後、売上にすぐ反映されやすい。一方、導入は簡単でもターゲット範囲が狭いアプリのような商材は、適切なターゲティングをしないと無駄打ちになりやすい。施策ごとにダウンロードにつながったかをKPIとして設定する必要がある。「商材に応じてKPIを選び取っていく必要があります。金融商品などの高関与商材かつ口コミが少ない分野で、低関与商材と同じKPIにしても成果は出ません」(鈴木氏)。

打った施策が正しくとも、指標が食い違えば、正確な効果測定ができない。正しい指標に修正し、経営陣との意識を一致させていくことが広報の役割だと鈴木氏は指摘する。

「2020年にイーロン・マスク氏がテスラの広報部門を解体して話題になりましたが、『効果が出ないなら、広報はもういらない』と経営陣から言われたら、どうするでしょうか。広報部門において注意したいのは、経営に貢献する効果測定ではなく、『広報のための効果測定』になっていないか、ということです。計測しやすい指標だけを見ていないでしょうか。広報の仕事は、経営課題を見つけコミュニケーションによって解決すること。経営陣との意思疎通がとれてはじめて、必要な効果測定の指標も見えてきます」と鈴木氏は問いかける。

パナソニック コネクトでは、経営陣ともオープンにコミュニケーションがとれる企業カルチャーを醸成し、組織と個人の成長に結びつけるべく、風土改革に力を入れてきた。

フリーアドレス制を導入しているパナソニック コネクト。社長室や役員の個室もない。「記者さんをオフィスに案内すると、あまりにフラットに社長が座っているので驚かれることもあります」(鈴木氏)。全社集会のAll Hands Meetingを設け、社長自らの言葉で直接社員に語りかける機会をつくるなど、フラットで俊敏なカルチャーを醸成するための組織変革を進めてきた。

2023年、生成AIを国内企業としていち早く全社導入し発表できた背景にも、経営陣とすぐにコミュニケーションがとれるフラットなカルチャーによる影響が大きかったという。2024年の入社式では、自分らしい色を身に着けて新入社員が式に参加。樋口泰行代表取締役のAIアバターが登場する様子も報道された。

「社内調査では『会社が変わった』と回答する社員の数も増えています。風土改革を目指すコミュニケーションにおいては、メディア掲載件数より、社員が変化を実感できているかどうか、を重視しています。組織に対するインパクトは出ているか、経営に貢献できているのか、ここを経営者と握ることで広報は成り立つと感じます。経営のパートナーとして、広報が関わり合えれば、広報の効果測定の悩みも解決しやすくなるはずです」。

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鈴木恭平氏

パナソニック コネクト
デザイン&マーケティング本部 コミュニケーション統括部
パブリックリレーションズ部 シニアエキスパート

すずき・きょうへい PR会社やIT企業の広報・マーケティング担当を経てパナソニック入社。2023年より現職。コミュニケーション戦略の立案やオウンドメディアの運営、マーケティングに関するプロジェクトマネジメントを行う。

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