SXSWで体感 すぐに実践できるAIとの創造的対話術 ―初期調査からプロトタイピングまで―

アメリカのテキサス州・オースティンで、2025年3月7日(現地時間)から9日にわたって開催されたクリエイティブの祭典「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)2025」。デザインファーム tactoのCo-founder/Strategistの中島琢郎さんが、現地で参加した複数のセミナーの中で見えてきたAIと人間とコラボレーションのあり方を解説する。
 
▶【前回】クリエイティブワークもAIファーストへ? SXSW2025が示したAIと人間の創造的対話 はこちら

「AIディレクション」の第一歩となる4つのアプローチ

英国のAIスクール General PurposeでチーフAIオフィサーを務めるトム・ヒューイットソン氏は、SXSWのセッションにて、「AIファーストのマインドセット」が重要だと語りました。それはプロジェクトの最初の段階からAIをパートナーとして考え、プロセス全体を再設計する考え方です。

そうした工程のなかで、クリエイティブディレクターの役割も変化しています。ヒューイットソン氏は「AIモデルを非常に優秀で熱心なインターンのように考えること」がプロンプト作成の秘訣だと述べています。

また「AIとうまく働くために必要なスキルは、プログラマーよりも優れたマネージャーに近い」とも語りました。つまり、細部の指示出しではなく、AIに適切な方向性を示し、出力を評価・選別する「AIディレクション」の能力が今後のクリエイティブ業界で差別化要因となるでしょう。

そうした変化に適応していくための第一歩として、ヒューイットソン氏は「毎日15分、AIを使って業務の一部を自動化したり効率化したりする時間をつくること」が大切であると提唱しています。今回は、ヒューイットソン氏の提案を実践する具体的な方法として、広告・マーケティング業界でも応用可能な4つのアプローチをご紹介します。

1. 初期調査
PerplexityやChatGPTを活用した「Deep Research」

PerplexityやChatGPTのDeep Research機能を活用すれば、競合サイトやトレンドなどを検索・分析し、短時間で差別化ポイントを抽出することができます。筆者自身もDeep Researchのヘビーユーザーです。以前はクライアントが初めて関わる業界の際、下調べをするために3〜5冊ほど書籍を読んでいたのが、待ち時間を含めて30分とかからずに大まかな理解が可能となりました。

ちなみにこの手法は、今回のSXSWの事前リサーチにおいても大活躍しました。

事前リサーチシートの一部。テーマに沿って300程度のセッションを抽出し、選定したセッションのスピーカーの背景情報をDeep Researchなどを活用して比較・精査した。

2. ターゲット理解
ロールプレイ型インタビュー

セミナーではまた、ユーザーリサーチの手法として、ターゲットのペルソナに類似した架空の人物にインタビューする手法が紹介されました。私が現地で別途参加したブランドコンサルタンシー Lippincottのワークショップでも、実在の人物と、その人物のデータを元にしたレプリカの人格に、交互に定性インタビューを行いました。現場ではレプリカの発言をきっかけに不眠症に関する会話が広がり、架空の人格がインサイトやアイデアの探索に役立つことが実感できました。当然のことながらAIは人間ではないため、検証よりは、探索を目的にしたインタビューに利用するのが良さそうです。

3. クリエイティブブリーフの強化
リーズニングモデルの活用

ヒューイットソン氏はChatGPTのo1モデル以降で採用されている「リーズニング(=理由付け)モデル」を活用し、アプリ開発の仕様書を作成しました。リーズニングモデルは、AIが自己対話を繰り返して回答精度を高めるもので、マーケティングにおいてはクリエイティブブリーフの作成や解釈に利用できそうです。

また文章では明言されていない、隠れた期待値や矛盾点などを発見することも可能です。「創造性とはAIデータセットに無いことを行うこと」というヒューイットソン氏の言葉通り、リーズニングモデルと適切な対話を行うことで、平均から逸脱した視点を獲得するきっかけになります。

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