OOH広告市場、協調と競争で市場拡大へ LIVE BOARD 髙木社長に聞く

NTTドコモと電通グループの共同出資で2019年に設立、2024年には博報堂DYメディアパートナーズも資本参加したLIVE BOARD(ライブボード)は、デジタルOOH広告のプラットフォーム構築や国際基準に準拠したインプレッション指標の提供などを通じて、OOH広告領域の進化を先導するとともに新しいOOH像を提案し続けてきた。

 

OOH広告市場をめぐっては、コロナ禍を経て街に人の流れが戻ったことを受けて再活性化が期待されている。今年はさらに、OOH広告の取引促進を見据えた業界共通指標の策定に向けた取り組みが本格化しそうだ。

 

1月1日付で就任した髙木智広社長に、LIVE BOARDのかじ取りやOOH市場の展望を聞いた。

OOH評価の国際基準をいち早く導入

——これまで電通でテレビのビジネスやメディアプランニングに長く携わっていたと伺いました。社長に就任して現在のOOH広告市場をどのように見ていますか。

テレビやデジタルメディアには、視聴率やインプレッション(表示回数)などメディア価値を測る共通指標(メジャメント)がありますが、OOHには広告価値を検証できる指標がないことが長年の課題でした。現在、業界を挙げて策定に向けた取り組みが進んでおり、徐々にメジャメントに基づいた広告出稿の環境が整っていくことが期待されています。私はこれまでテレビの担当が長かったので、当初OOHに共通のメジャメントがないと聞いたときは驚きましたが、これから数値による効果測定が進むことは、市場にとって追い風になるとポジティブに考えています。

写真 人物 LIVE BOARD 代表取締役社長 髙木智広(たかぎ・ともひろ)氏

LIVE BOARD 代表取締役社長 髙木智広(たかぎ・ともひろ)氏
2003年電通入社。テレビ局で放送局担当として広告ビジネスを中心に番組コンテンツ、企画開発などに従事。2011年からMCプランニング局でメディア・コンテンツのプランニングとバイイングに携わる。その後、国内動画配信サービスの黎明期に、テレビとデジタルの融合である動画ビジネスを担当。2022年からテレビ朝日系列のビジネス開発全般を推進。2025年から現職。

 
LIVE BOARDでは2019年の設立当初から、国際基準とされているVAC*(Visibility Adjusted Contact/ のべ広告視認者数)というインプレッション指標を取り入れています。親会社であるNTTドコモのビッグデータを用いて計測手法を開発したもので、広告主が出稿する判断の材料となるデータを提供してきました。

OOHのメジャメントが求められる中で、我々は先駆けてグローバルスタンダードを取り入れセールスを実施してきました。この領域の先駆者として日本に与えた影響は大きいと自負しています。今後よりグローバル化する流れを見込み、OOH広告運用のデジタル化を牽引できるような存在になりたいと考えています。

* LIVE BOARDは、OOHグローバルメジャメントガイドラインにて推奨されている、視認調査に基づく視認率を加味したインプレッション(VAC=Visibility Adjusted Contact / のべ広告視認者数)を採用しています。媒体の視認エリアの中にいる人数(OTS=Opportunity to See)のうち、OOH広告に接触する可能性のあるのべ人数(OTC=Opportunity to Contact / 視認エリア内での移動方向や障害物の有無を考慮)を定義。この数に媒体に応じた視認率を加味することで、実際に広告を見るであろうのべ人数(VAC)を推計しています。

日本のメジャメント整備の後れに危機感

――日本でもOOHメジャメント標準化に向けた動きが進んでいます。

日本広告業協会(JAAA)が2023年4月に「日本版OOHメジャメント標準化検討準備委員会」を立ち上げました。2024年7月にはRFP(提案依頼書)が公開され、今年は団体も立ち上がる見込みです。プロジェクトは現在、広告会社6社、OOH媒体事業社6社、オブザーバー1団体で構成され、LIVE BOARDはOOH媒体事業社の1社として参加しています。ここでも積極的に役割を果たしていきたいと思います。

一方で、米国では2006年にはデジタルOOH広告に特化した業界団体であるDPAA(Digital Place Based Advertising Association)が設立されました。また、英国のRoute、米国のgeopathなどが積極的にOOHオーディエンスメジャメント標準化に向けた取り組みを進めています。それらに比べると大きく後れを取っていると言わざるを得ません。

OOH領域の国際的な広告団体であるWOO(World Out of Home Organization)が主催するカンファレンスが今年2月に東京で開かれ、各国の最新動向の共有がありました。今や世界各国でこうした団体が立ち上がっていて、アジア各国でもメジャメントができつつあります。日本も頑張らなければ、と痛感させられる機会でもありました。

写真 2月に開かれたWOO主催カンファレンスに登壇(左から2人目)

2月に開かれたWOO主催カンファレンスに登壇(左から2人目)

 
——カンファレンスではどんなことが共有されましたか。

2020年からのコロナ禍で人流が抑制されたことで、OOH広告市場は世界中で大きな打撃を受けました。人の流れは戻りましたが、先日発表された2024年の日本の屋外広告市場(2889億円、日本の広告費より)を見ると、まだ2019年(3219億円)の水準に戻っていないことが分かります。

一方で海外を見ると、メジャメントが整備されている各国では2019年水準に戻っていたり、むしろ大きく上回ったりしていました。諸外国の中には、コロナ禍を受けてメジャメント整備の取り組みを加速させたところもあります。日本のOOH広告市場が十分に戻らないことの背景には、メジャメントが整備されていないことも関係しているのではないかと考えています。

テレビ、デジタルと併用されるメディアへ

——注力方針のひとつに「テレビ×デジタル×DOOH(デジタルOOH)」のトリプルメディアを掲げています。

オートメーションとコラボレーションは海外においてもキーワードで、社会のデジタル化が進む中、あらゆる街や場所に広告スペースが置かれる傾向は増していくはずです。テレビ、デジタル、DOOHのトリプルスクリーンのメディアプランニングが今後も加速していく中で、オートメーション化は鍵になるでしょう。

OOH広告市場はテレビやデジタルメディアに比べると広告にかける予算規模はまだまだ差があります。テレビ・デジタルに次ぐメディアとして他媒体との競争力を高めるためにも、業界内で協調領域と競争領域を見据えていくべきです。もちろん競争は必要ですが、手を取り合ってこの領域に宣伝予算を呼び込むような取り組みがあっていいと考えています。

我々の調査結果ではテレビとデジタルとDOOHを掛け合わせることによって、認知を補完するメディアとしての明確な効果を得られた事例もあります。また、メディアミックスの視点でもトリプルメディアの効能効果としてミドルファネル効果も顕著に現れました。

イメージ 図 広告主や広告会社にトリプルメディアプランニングを啓発していく

広告主や広告会社にトリプルメディアプランニングを啓発していく

メディアプランニングはテレビとデジタル中心という発想が強い中で、DOOHを入れていく流れをいかに浸透させていくかがテーマです。すでに複数の広告代理店のプランニングツールには、LIVE BOARDリーチツールの搭載が始まっています。テレビ・デジタル・DOOHのメディアプランニングがデファクトスタンダードになるように、さらなるアピールをしていきます。

偶然の出会いを演出するのもOOHの役割

——DOOH市場は今後どんな進化を遂げていくとお考えですか。そのときに目指すポジションについても展望をお聞かせください。

DOOHの領域が進化していることの認知を加速させていくフェーズだと考えています。成長市場であるリテールメディアとの連携も1つ大きなトピックスになります。日本のDOOHの特徴でもある音声出力への対応も広げていく考えです。

OOH広告は、街との接点ができるメディアです。ビジネスは大切ですが社会貢献・地域貢献を意識したメディアとして、一方的な情報発信ではなくインフラの一部のように、街のブランドを上げていくようなメディアを目指しています。

自分の興味のある情報しかなかなか得られないような時代において、家から出てまた家に戻るという一連の流れの中で、生活者のあらゆるモーメントにLIVE BOARDネットワークから広告を届け、偶然情報に出会える瞬間を演出できるのはDOOHの唯一無二の役割だと思っています。

昨今、プログラマティックDOOH*領域に参入する事業社様も次々と増えており、業界全体の機運が高まっていると感じています。協調と競争を通じ一緒に業界を広げながら、日本におけるパイオニアとなることが目下の目標です。

* Programmatic Digital Out Of Homeの略。時間帯や、天気・気温など、エリアごと、オーディエンスデータごとにプラットフォームを介して広告配信の自動化が行えるDOOH(交通広告、屋外広告、商業施設などに設置されたデジタルサイネージを活用した広告媒体)。

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