広報職の転職、新しい環境に飛び込むたびに、「知る・試す・体感する」ことを意識

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。人事異動も多い日本企業の場合、専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、企業のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のキャリアプランを考えていたのでしょうか。横のつながりも多い広報の世界。本コラムではリレー形式で、「広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。東京センチュリーの藤村明美さんからの紹介で今回、登場するのはファミリーマートの樋口雄士さんです。

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樋口雄士氏

ファミリーマート
広報部

メーカー兼卸売業、飲食業の営業を経て、ファミリーマートに転職、マーケティング(オウンドメディア)、ブランディング領域の経験を経て、2018年より広報部に異動、社内報作成や、報道メディア対応業務に従事後、2024年より親会社の伊藤忠商事広報部に出向中。

Q1: 現在の仕事の内容とは?

現在私は、ファミリーマート 広報部から伊藤忠商事 広報部 報道・企画制作室に出向し、主にメディア対応を担当しています。具体的には、プレスリリースの発信、記者発表会の企画・運営、新聞・テレビ・WEBメディアなどの記者対応を通じて、企業としての情報発信を行っています。

伊藤忠商事は、1858年に初代伊藤忠兵衛が、麻布の行商から始めた歴史ある総合商社です。現在は、世界61カ国に約90の拠点を持ち、事業領域として 「繊維」「機械」「金属」「エネルギー・化学品」「食料」「住生活」「情報・金融」 のそれぞれの名前を冠した 7つのカンパニーと、「第8カンパニー」を含めた、8つのカンパニーにて、国内、輸出入及び三国間取引を行うほか、国内外における事業投資など、幅広いビジネスを展開しています。

「第8カンパニー」というのは、異業種融合・カンパニー横断の取り組みを加速させ、主にファミリーマートなど、生活消費分野に強みを持つ様々なビジネス基盤を最大限活用しながら、市場や消費者ニーズに対応した「マーケットインの発想」による新たなビジネスの創出・客先開拓を行うカンパニーです。

また、伊藤忠商事には、260社以上のグループ企業があり、その広報部門間での連携を強めるために日頃から密に連携をとることはもちろんのこと、広報実務担当者同士のネットワーク構築や、知識・知見の共有を目的とした「伊藤忠グループ広報連絡会」というイベントを定期的に開催するなど、広報分野においてもグループ企業間でのシナジーを生み出す取り組みを行っています。

Q2: これまでの職歴は?

私は、新卒でコーヒーの製造・卸売業の会社に入社し、主に取引先であるホテルや飲食店への営業を担当しました。また、飲食店の現場で接客業務にも携わり、顧客との直接的なコミュニケーションを通じて、サービス業の基礎を学びました。

その後、ファミリーマートへ転職し、まずはオウンドメディアの運用やインナーブランディングなどのマーケティング業務を担当。その後、広報部に異動し、約6年間社内外の広報業務全般に従事しました。

ファミリーマートの広報部では、社内報の作成を含む、社内向けの情報発信に携わるとともに、特に報道対応を中心に担当。新商品やサービスに関するニュースリリース作成・発信、記者発表会の企画・運営を通じた攻めの広報や、会社のブランドを守る広報としての危機管理対応はもちろんのこと、時には、ドキュメンタリーやバラエティなどの大型のテレビ番組の対応を行うなど、幅広い広報業務を経験させていただきました。

こうした経験を経て、現在は伊藤忠商事に出向し、さらに業務領域の幅を広げています。

Q3: 転職や社内異動などに際して、強く意識したこととは?

私は、転職や出向を通じてこれまで5社での業務経験があります。転職や異動のたびに、環境の変化を楽しみながらも、常に「自分はこの仕事や業界を好きになれるか」、「関わる相手に対して興味を持てるか」といったことを意識してきました。特に、広報という仕事では、企業の情報を発信する立場として、自社やその業界を深く理解し、まず「好きになること」が重要だと考えています。同時に、メディアや社内外のステークホルダーと信頼関係を築くためには、相手のことを知り、「好きになる」姿勢も欠かせません。

例えば、ファミリーマートへ入社してからは、毎週火曜日の新商品発売に合わせて、実際に店頭で商品を購入して試すことを習慣にしています。また、オリジナルアパレルブランド「コンビニエンスウェア」の靴下や今治タオルハンカチを日常的に使用し、メディア対応の際も大好きな商品の魅力を「自分の言葉」で語ることを心がけています。

伊藤忠商事に出向が決まった際には、「総合商社で働く」という環境を理解するために、まず世界地図を買い、自宅の壁に貼ることから始めました。伊藤忠商事は世界61カ国でビジネスを展開する企業です。各国の地理や経済状況、文化的背景を知ることが、広報業務を行う上でも欠かせないと考えたからです。

また、広報は「情報の商人」という考え方もあります。世の中の動きを敏感にキャッチし、必要な情報を整理し、適切な形で発信する力が求められます。そのため、どの企業においても、常に積極的に学び、情報を自分から取りに行くということを大切にしてきました。

このように、新しい環境に飛び込むたびに、まずは 「知る・試す・体感する」ことを意識し、企業や業界を好きになる努力をする。そして、広報として 「どんな情報を、どう伝えれば人の心が動くのか?」を常に考え続けること。この姿勢が、転職や異動の際にも大切だと考えています。

Q4: 国内において広報としてのキャリア形成で悩みとなることは何?

どのような仕事も同じかもしれませんが、広報の仕事は企業の一組織として、さまざまなメンバーを巻き込みながら進めることが基本です。ファミリーマートや伊藤忠商事では、広報部門単独で動くのではなく、各事業部や経営層、関連会社など、多くの関係者と協力しながら業務を進めていきます。

一方で、企業規模や業種によっては、「ひとり広報」として、多岐にわたる広報業務のすべてを担うケースもあります。一人で広報を担う場合、経営層や他部署とどのように連携し、広報活動を推進するのか、より幅広いスキルが求められるはずです。この経験がないことは、今後のキャリアを考えるうえでの課題の一つだと感じています。

また、様々な広報担当者との交流する中で、自身を含め、以下のような共通の悩みがあることも感じています。それぞれの悩みにたいして、私なりに考えたことも含めご紹介します。

①報道対応における成果が定量的に測りづらいこと
広報における報道対応の仕事は、広告とは異なり明確な数値で成果を測るのが難しい場面が多々あります。特にパブリシティ(第三者のメディアによる報道)は、外部要因に左右されやすく、意図した通りの結果を得られるとは限りません。時流やトレンド次第で、予想以上に拡散されることもあれば、期待したほどの反響が得られないこともあります。こうした不確実性がある中で、自身の業務の評価をどう考えるべきか悩むことがあります。

これについては、定量的な指標だけでなく、社内外からのフィードバックや企業ブランド価値の向上といった長期的な視点も大切にしながら、報道対応の成果を捉えるようにしています。また、単に情報を発信するのではなく、メディアとの信頼関係を築き、社会やターゲットにとって意義のある情報を提供できるよう努めています。

また、報道対応の評価には、「質・量・タイミング」の3要素の掛け合わせが重要であると、これまでの経験や上司からの学びを通じて実感しています。特にパブリシティでは、「量(どれだけ多くのメディアに掲載されたか)」や「タイミング(いつ発信されたか)」は、ペイドメディアを活用すればある程度コントロールできます。しかし、最も重要なのは「質」であり、企業のメッセージが正しく伝わり、読者や視聴者の心を動かせるかどうかが広報の本質だと考えています。

②広報が「経営戦略の一環」としてどこまで関与できるか
広報の役割は企業ごとに異なり、企業の経営戦略の一環としてどの程度関与できるかは、企業文化や経営層の広報に対する理解度によって大きく変わります。例えば、広報が経営会議に参加し、事業戦略と連動した広報戦略を立案する企業もあれば、あくまで情報発信にとどまる企業もあります。

これについては、広報が単なる情報発信にとどまらず、企業の成長や社会の課題解決に貢献するためには、「経営層との対話」と「事業理解の深化」が欠かせません。経営層と日常的にコミュニケーションを取り、広報の視点から事業課題を整理し、解決策を提案することで、広報の戦略的価値を高めることができるのではと考えます。

また、広報は直接的に「商品」や「サービス」を開発するわけではないため、世の中やお客さまの課題解決に貢献したいと考えたとき、広報という立場でどこまで関われるのかを悩むこともあります。

これについては、前述の通り広報は「情報の商人」として、日々の学びを怠らず、社内外の動向にアンテナを張り続けることが重要です。特に、自社に関連しない業界や企業の人との、「実際に会いに行く」機会を積極的に持つことで、多角的な視点を養い、社内に還元することで、広報を含む経営戦略にも深みを持たせることができるのではないでしょうか。

さらに、広報の視点を活かしながら、事業戦略やマーケティングにより深く関わることで、間接的ではあっても価値創造に貢献できると考えています。広報として発信する情報が、社会やビジネスの課題解決につながるよう意識することで、この悩みを前向きなチャレンジへと変えていけるのではと考えます。

Q5: 広報職の経験を活かして、今後チャレンジしたいことは?

これまでの広報業務を通じて、 「情報発信を通じて、人の心を動かす」ことの喜びを実感してきました。例えば、ファミリーマートでは、街中でお客さまが自社の商品を購入し、楽しんでおられる様子を見かけるたびに、とても幸せな気持ちになり、この仕事の醍醐味を感じました。伊藤忠商事においても、発信したニュースに対して社内からフィードバックをもらえることが、大きなやりがいにつながっています。

こうした経験から、 広報は単なる情報発信ではなく、企業がどのような理念を持ち、どんな価値を提供しようとしているのかを正しく伝えることができれば、それがブランドの信頼につながり、ビジネスの成長を後押しする力にもなるということを強く感じました。今後も、「情報の価値をどう最大化し、企業の競争力を高めるか」という視点を持ち、単なる情報発信にとどまらず、事業戦略と一体となった広報の在り方を模索し、実践していきたいと思います。

さらには、これまで培ってきた「企業や業界の理解力」「情報を整理し、発信する力」「ステークホルダーとの関係構築力」を活かし、事業そのものの計画立案や実行といった、より事業そのものに深く関わる仕事にも挑戦していければと考えています。事業の成長を支える立場として、広報の視点を大切にしながら、企業活動に貢献していきたいです。

【次回のコラムの担当は?】

ANAホールディングスの坂巻佑太さんを紹介します。

坂巻さんは、大学卒業後、全日本空輸に入社。国内、海外での多岐にわたるオペレーション、企画、マネジメント、採用選考等、幅広い業務に携わられ、約4年間シカゴでもご活躍されました。広報としては、2020年4月よりANAホールディングスと全日本空輸の広報マネジャーとして、コロナ禍からの過程で完全内製化された広報活動において、ストーリー作りや画作りに努め、ニュースをクリエイトすることに取り組んでおられます。また、広報部内チーム横断で、オウンドメディア、SNS、Web記事や社内報といった広報チャネルを活用し、露出の最大化を目指されております。

航空業界における広い知見はもちろん、誰もが知るANAでの企業価値向上につながる発信力には、非常に刺激をもらっています。日々、精力的に活動されている坂巻さんの広報パーソンとしての丁寧できめ細かな姿勢やマインドは、企業規模に関わらずとても参考になると思います。

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