フジテレビで放送されたCMの見られ方はAC差し替え後に変化したのか

一連のフジテレビ問題を受け、多くの広告主が同局へのCM出稿を控える状況が続いている。その節目となったのは、1月17日に開かれた「紙芝居会見」ともいわれるクローズドな定例記者会見だった。
 
では、その会見からAC差し替えの前後でCMの見られ方は変わったのか。テレビの視聴データを持つREVISIO(リビジオ)執行役員の東野晃大氏が、同社のデータをもとに分析した。

フジテレビのCMの「注視率」は上がった

1月17日の定例会見以降、フジテレビのスポンサーによるAC差し替えが相次ぎ、「フジテレビだけCMが流れない」という前例のない事態が発生した。あらゆるメディアで連日話題となり、視聴者の意識は否応にもこの問題に向くこととなったわけだが、これらはテレビを見る際の視聴態度にまで影響を与えていたのだろうか?

最先端の人体認識技術を搭載した機器を一般家庭のテレビに設置し、個人を自動的に識別して視聴データを取得しているREVISIO(リビジオ)のアテンション(注視)データを用いて分析していく。

注)REVISIOのアテンション(注視)データとは:
テレビの上に設置した人体認識センサーを用いて、誰がいつテレビ画面に視線を向けているかを判別し、1秒単位で自動計測したもの。テレビの前の視聴者が「ながら見」をしているのか、画面に「くぎづけ」になっているのかがわかる。

まずは、注視率でデータを見てみよう。注視率とは、REVISIOの全パネル(約5000人)に対してテレビ画面を見ているパネルの割合を示す指標である。ここから注視の「量」(テレビ画面に視線を向ける視聴者の量)を捉えることができる。

下記(図1)は民放各局のCM放送部分の2024年注視率平均を100とし、それに対して2025年1月の個人注視率の推移を表したグラフである。

【図1】

グラフ その他 2025年1月の個人注視率推移

NTV=日本テレビ、EX=テレビ朝日、TX=テレビ東京、CX=フジテレビ

このデータを、各社のAC差し替えが目立ち始めた1月19-21日に絞って見てみる(図2)と、フジテレビが安定して高いという結果になった(19日のTBSは突出して高くなっているが、TBSは普段から日曜日の注視率が高いという傾向があり平常値と捉えられる)。つまり、視聴者は、フジテレビのCMを普段より画面にくぎづけになってみていたことが伺える。

【図2】

グラフ その他 AC差し替え直後3日間の個人注視率推移

ただし、22日以降は日頃の見られ方と比較して特段顕著な差異は見当たらず、注視率の観点での変化はAC差し替えが始まった直後3日間のみだった。差し替えが始まった当初こそ、物珍しさで画面を注視した視聴者が増えたが、慣れてしまえば元の視聴態度に戻った、ということであろう。

CMに「くぎづけ」にはならなかった

続いて、注目度でデータを見てみよう。注目度とはテレビの前にいる人のうち、テレビ画面に視線を向けていた人の割合を示す指標である。つまり、ここからは注視の「質」(テレビの前に滞在しているだけではなく、画面にくぎづけになった人がどの程度いたか)を捉えることができる。

下記(図3)は先ほどの注視率と同様に、民放各局のCM放送部分の2024年注目度平均を100とし、それに対して2025年1月の個人注目度の推移を表したグラフである。

【図3】

グラフ その他 2025年1月の注目度推移

これらは、各局平常時の注目度の推移と大きく変わらず、注視率において変化が見られた19-21日に絞ってもフジテレビだけが顕著に高い注目度を獲得しているような現象は見られなかった。AC差し替えが大量発生した状況に違和感を覚え、フジテレビのCMを見る量は増えたが、くぎづけになってまで見ているかというと、そうではなかったということだ。

【図4】

グラフ その他 AC差し替え直後3日間の注目度推移

ただし、REVISIOがこれまでに実施した分析からは、一般的には、個人注視率(量)が増えればながら見が増え、注目度(質)は下降しがちになるにも関わらず、この3日間において注目度が極端に下がる様子は見られなかった。ということは、AC素材の大量放映がある一定期間人々の注視を惹きつける効果があり、その結果、注目度が下げ止まったと解釈することもできるだろう。

差し替えがCM視聴に与えた影響は限定的

ちなみに、22日以降は注目度においても特異なデータは出ておらず、前述した注視率の分析結果と併せて見てもフジテレビ問題が視聴態度の観点で視聴者に与えた影響はやはりごく一時的なものだったと考えられる。

なお、CM放送部分のみならず、番組本編のデータも加えて同様の指標で分析した結果においても、注視率(量)・注目度(質)ともに顕著な変化は見られなかった。AC差し替え発生前後だけでなく、フジテレビの2回目記者会見前後などでも同様のデータを確認したが、やはり顕著な変化は見受けられず、2月以降においても同様であった。

実は、多くの場合、視聴態度は日頃の視聴習慣に影響を受けることが多く、今回の件においても例外ではないということが言えそうだ。

記者会見を発端としたフジテレビへの批判は社会問題にまで発展したが、これらによってフジテレビを極端に避ける、もしくはこれまで以上に注視する、といった視聴態度の変化はデータからは捉えられなかった。それだけ、テレビを見るという行為は、視聴者の生活に根付いているものだとも言えるだろう。

参考:注視率とは?注目度とは?

グラフ その他 個人注視率について
グラフ その他 個人注視率について

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東野晃大

REVISIO
執行役員 ビジネス担当

京都大学理学部卒業。楽天、アクセンチュアでコンサルティング職に従事したのち、2018年にREVISIOにジョイン。クライアントへの分析提供などを担うカスタマーサクセスにてクライアントの課題解決に努めながら、ビジネスチーム全般のマネジメントを担当する。

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