どんな不況にも屈せずに伸び続ける化粧品業界というマーケットの中、王者として君臨する資生堂。
著者はまさに、その巨大企業のクリエイティブの中心にいて、数々の成功した化粧品ブランドをつくりあげてきた人物だ。
同じ化粧品業界で鎬を削るフランスの化粧品ブランドに身をおいていた私にとって、日本代表の資生堂が誇るクリエイティブチームの裏側を見ることができる大変興味深い一冊であった。
また、資生堂は早い段階で、『フランスの知性と哲人』と称されるアーティスト、セルジュ・ルタンスを資生堂グローバルイメージのクリエイティブ監修に起用、著者はまさにその元で彼のクリエイティブ手法を学んだ数少ない日本人ということを知り、嫉妬すらおぼえた。
一般的に日本の化粧品会社とフランスの化粧品会社では、根本的にモノづくりのスタンスが異なると言われている。日本の企業の多くはビジネスを熟知した社長がリーダーとして最終決定を下して行くスタイルで、社長以下の組織にクリエイティブ部門が細部を分業しながら、モノづくりをしていき、最終判断は社長がくだす。
しかし、フランスのブランドづくりは、社長の管轄下ではなく、別の次元にクリエイティブディレクターがいて、彼らをどれくらい自由にイメージの創造に専念させられるかを問われる。それこそが社長の仕事なのである。
フランスのブランド企業にいた私も、それは実感として学んだ記憶がある。
「香水のボトルは、香りを詰める入れ物ではない。それは、香りの一部なのです」
「売り上げの数字だけを求めているのではない。ビジネスでさえも美しくポエティックにできるはず」
そんな言葉が、よくビジネスのミーティングの場で議論される。コストや効率のまえに、そのブランドらしく「美しく仕上げる」というデザイン思考が先行しているのである。
そのことをいち早くフランスで学び日本に持ち帰り、自ら、特別なポジションとして権限を持つクリエイティブディレクターに就任しイプサというブランドをイメージづくりから蘇らせメジャーに押し上げたのが、この本の著者である。
その経緯と実践方法がこの本には丹念に記されている。一時期、低迷していたブランドが、なぜ、再起し、多くの新しい顧客から愛されるようになったのか?
その疑問への裏側に隠されていた手法がここには丁寧に解説されている。
本物のデザインとアートでしか、つくり得ないイメージ。
その仕上がったイメージを細部まで妥協せず丁寧に通わせることの大切さ。
それを積み上げていくことで、ブランドが初めて姿を現してくるのだ。
その「つくる」という概念を敢えて漢字で当てはめて選ぶなら、という彼の解釈もまた納得のいくものである。
イメージを創る
ブランドを造る
ブランドをつくりたい人には必読の一冊である。
『デザインをつくる イメージをつくる ブランドをつくる』
工藤青石著
定価:2,420円(税込み)
「SHISEIDO MEN」「オイデルミン」など資生堂で化粧品ブランドを数多く手がけ、現在人気化粧品ブランド「イプサ」のクリエイティブディレクターを務める著者・工藤青石が、初めて書き下ろした書籍。これまで手がけてきた数々の仕事におけるにおけるデザインやクリエイティブのディレクションの考え方、そして制作のプロセスを公開。実例を見せながら、自身の経験と知見、そして美に対する独自の視点からひもときます。
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