食品CMならではのハードルを軽々と乗り越える「巧みさと勇気」/日清食品

食べたい気持ちを盛り上げる見事な仕掛け

この様な食品CMにまつわる、もどかしい状況が存在する中、日清食品はこの3本のCMに限りませんが、その商品を生んだ企業として毅然とした考え方が存在し、それに立脚した巧みさと勇気を持って乗り越えるDNAのようなモノがあると思われます。

「日清焼そばU.F.O.」は、この商品の商品性である“ぶっ濃い濃厚ソース”が一番おいしく見える場面をクリアに絞り込み、しかも共感度の高い、あるある表現で描き出している。この商品の存在する価値を極限に描き出し、本物に仕立て上げている。見事だな~と感じます。

「日清どん兵衛」は、まさに巧みの世界だな~と感じます。以前の女性狐から男性狐に変えて上手にターゲットを広げ、「何もしたくない朝」と言わせておきながら、9割の人が“朝どん兵衛”食べたいと言っているとの情報の後に、「出汁のきいたおつゆが……」のバックにうどんとつゆのシズル。食べたい気持ちが盛り上がったところに「忘れました!」とさらに食べたい気持ちに追い打ちをかける。ちょうど我が家に「日清どん兵衛」があったので、つられて頂きました。

見事に食べてないのに、口の中に唾液が出てきます。実は、食べないシズルはなかなか難しいのです。ご苦労様です。

チキンラーメン「パーフェクトチキラー 篇 改訂」(30秒)

「チキンラーメン」のこのポケットに卵をのせると良いというCMは以前から行なわれていました。自分自身も経験済み(卵入れると楽しくおいしい)。

きっと調査で、まだまだ実施率が高くなかったのでしょうね……!?

普通なら、しつこく同様のCMを流すというのが従来の展開なのだろうと思われます。明らかなメーカーメッセージですが「いつ やってくれんねん」「いま やってほしいねん」という関西特有の“ねん”という言葉の響き、リズミカルな音楽・鶏のアニメーションなどの表現と相まって、メーカーの押しつけを楽しく受け入れてしまいました。

さらに日清食品のCMで珍しい麺をすする3人のシズルも目新しく、表現に対する多様性もさらりと取り込んで、どこまで面白く・楽しいCMになるのかなと期待を感じさせるモノでした。

面白いCMは、広告主の判断が明確だからこそ

最後に、以前から言われていることで、日清食品のCMに関してトップディシジョンが明快であるというのは有名ですが、広告・CMを面白くできるのは、プランナーはじめクリエイターだけではなく、広告主の判断力・決断力が大きな差を生みます。

その商品が生まれた背景・意味・意義を、ブラす・ぼかすのではなく、ちゃんと持ち続けさらにその時代時代に再定義させながら、価値を維持・高める。これは……メーカーが行うべき重要な指針なんだと思いますが、みなさんはいかがでしょうか?

注)本文中、「日清焼そばU.F.O.」の表記に誤りがあったため修正しました。

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名久井貴詞

なくい・たかのぶ/1958年青森県八戸市生まれ。武蔵野美術大学卒業後、1983年味の素入社。企業内クリエイターとして、パッケージデザインの開発やテレビCM・新聞・Webなどの広告全般の企画・制作に携わる。2017 年、クリエイティブ統括部⾧として味の素のグローバルコーポレートロゴデザインを制作し、世界一斉に改定を実施した。2021年に退社。現在はクリエイティブディレクターとして、また大学での講師活動も行っているほか、2023年から日本広告制作協会(OAC)理事長を務める。

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