岩手日報が広告シリーズ「最後だとわかっていたなら」を教材化、全国の学校に向けて提供開始

岩手日報は、2017年から「最後だとわかっていたなら」をテーマに新聞広告や映像の企画を継続している。今年3月11日に新しい映像を公開すると共に、それらの広告を教材化し、無料で提供する教育プログラムの取り組みを開始することを発表。その教育プログラムを実際に行っている中学校の授業の様子も映像として公開した。

授業篇

教材化のきっかけは、佐賀県・西唐津中学校で教鞭をとっている光武(みつたけ)正夫教頭が「最後だとわかっていたなら」を教材とした道徳の授業に取り組んでいたことだった。

「2018年に盛岡でおこなわれた『新聞を活用する教育の会合』で僕たちの広告を目にし、いたく感動してくれて、道徳の授業に使おうと思ってくれたのです。そこから、新聞を学校教育に取り込むNIE(Newspaper in Education)の取り組みと一緒になり、佐賀の中学校で何年にもわたり、岩手日報の『最後だとわかっていたなら』広告シリーズを教材のひとつとして使ってくれていました」と、本企画のクリエイティブディレクター 河西智彦氏。

岩手日報では2017年から2021年に、3月11日を岩手県民の日に制定するための署名活動を展開したが、その際にも全国のさまざまな学校から署名とともにこれらの広告を授業で使った際の感想などが寄せられていたという。こうしたことから、岩手日報社と制作スタッフは教材としての活用が佐賀以外の学校でも拡がっていることをつかんでいたが、具体的に教材化を進めるきっかけとなったのは2024年の能登地震と南海トラフ地震の警報だった。

「昨年は年初に能登地震が起きました。その後、石川県の情報発信のお手伝いをしていたのですが、今度は南海トラフ地震の警報もでました。そしてたまたま別の出張で高知県の海沿いに行ったとき、人々の防災意識や対策がまだまだ低かったのを見て、『このままでは東日本大震災と同じ悲劇と後悔が起きてしまう』とチームみんなが共通の問題意識を持ったのです」(河西氏)

そこで、岩手日報と河西氏、ADの横尾美杉氏、フォトグラファーの百々新氏、アシスタントの甲野隆一朗氏の制作チームは、かねてより(ある意味非公式の)教材として使われていた広告シリーズを公式に道徳教材化し、まずは無償で提供することを決定。具体化に向けての打ち合わせを進めた。

教材化にあたり大事にしたのは、すでに何年も現場で教えてきた光武教頭の学習指導案をベースにすること。光武教頭はこの広告を教材として使うことを、「『よりよく生きる喜び』を主に、思いやり・感謝、家族愛、生命の尊さ、向上心、希望についても主体的・対話的に学ぶことができる」と評価している。
「道徳の教材なので、大切な人と会えなくなった、という実話をベースに、大切な人の存在を思い出してもらったり、家族との関係性を深く考えてもらう流れにしています」(河西氏)

また震災から14年が経ち、震災を知らない教職員がどう震災を伝えていくか、悩んでいるという声を聞いたことや震災を知らない子どもたちが増えたことも、この取り組みを後押しした。

岩手日報では現在、特設サイトを設け、誰でも教材として活用できるようにしている。同サイトには教員に向けて学習指導過程と学習指導案を掲載。いずれもPDFでダウンロードできるようになっている。さらに、教材として活用できる新聞広告と映像もこのサイトから見ることができる。映像はYouTubeからそのまま授業で使えるようにし、新聞広告については問い合わせがあった学校などにメールでデータを送っている。その際に、アンケート用紙も送り、授業で使った際の感想や要望も寄せてもらうようにした。また、実際に授業を受けた生徒たちの声なども紹介。これらはすべて無料で提供している。

「権利の関係で将来的には有料にすることもあるかもしれませんが、いまはひとつでも多くの学校に拡げて教えてもらうことを視野に入れています」

イメージ 岩手日報の特設サイトより

岩手日報の特設サイトより

今年3月11日に公開した「最後だとわかっていたなら」の映像は、大切な人に「ごめんね」を言うことをテーマに制作している。

「ごめんねの日」篇

この「ごめんねの日」篇と「授業」篇との2本の映像は公開後、SNSで2万近いいいねがつき、約450万回のインプレッションとなった。多くの反響が得られたことで、教材提供の告知開始から1週間で鹿児島や沖縄の学校など約30校から問い合わせが来たという。

また今後は防災教育への展開も考えており、「心理的防災」という言葉を使ってアプローチする考えだ。
「例えば戦争では、ひとりひとりの悲劇や後悔が物語として伝えられ、それが悲劇発生の抑止力にもなっているのに、震災ではほぼ伝承されていません。自然災害なので防げないから、ですが、悲劇や後悔は減らすことができます。
家族との突然の別れ、喧嘩別れの後悔など、震災で起きた悲劇や後悔を、全国に、そして震災を知らない年代にも伝えることで『そうなりたくないから防災しよう』『じゃあ防災グッズを用意しなきゃ』『笑われても高いところに逃げよう』といった防災準備や意識がはるかに高まるのではないかと思いました。それが僕たちが目指す『心理的防災』です」(河西氏・岩手日報 柏山弦氏)

現在展開しているのは中学生向けの学習指導案のみだが、今後は小学生に向けた学習指導開発も進め、未来の防災へとつなげていく考えだ。

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