地域企業の取り組みを紹介するマーケティングイベント「アドタイデイズリージョナル2025春」(福岡会場)が3月に開かれ、タンスのゲンの中村祐介氏はECとクロスメディアで実現する顧客体験価値の向上を、PLAN-Bの森山佳亮氏はインフルエンサーグロースモデルについて、それぞれ紹介した。
EC事業のブランド認知はされにくい
福岡県に本社を置くタンスのゲンは、今年で創業60周年を迎える。取り扱う商品はライフスタイル領域で2700。年間1000種の新商品を発売し、そのうち95%がオリジナル商品だ。EC事業は国内に14のネットチャネル、海外に10のネットチャネルを展開。直近10年では成長率が460%となり、利用ユーザー数は220万人を超えた。
しかし、同社がブランド認知度調査を行ったところ、2021年は8.9%、2024年は10.8%という結果に。ECモールが売上の9割を占めるが、モールで購入してもブランド・ショップは記憶されにくく、認知がほぼ獲得できていない状況だった。また、ブランド認知層においても、コスパ以外のイメージが形成されていなかった。そこで、これらの課題を解決するために広報・PR・ブランディングの部署は、販売以外の顧客体験の創出、指名アクセスの獲得、ブランドイメージ構築・強化、企業価値の向上を目指すようになった。
中村氏は、ECの顧客購買行動の変化について「最近はECモールで検索軸以外からの購入が増えている」と話す。SEOや検索広告、レビュー施策による購買目的のある行動「検索軸」と、パブリシティやSNS、インフルエンサー施策による購買目的のない行動「周遊軸」の掛け合わせによる購入例が増加。例えば、インフルエンサーによるタイアップ投稿、ブランド広告によってランキング上位を獲得し、SEO・検索広告、レビュー施策、キャンペーンによって、検索上位表示を獲得し、自然流入を獲得できるというものだ。
タンスのゲンは、パブリシティ施策としてリリース配信を仕組み化した。目的は、メディア関係者への認知、ブランド・商品の信頼性・エビデンスの確保、Google検索対策であり、年間100本以上のプレスリリース配信を目指した。年間1000種類の新商品のうち、10分の1をリリース対象に選抜。月間8本以上のリリースを配信している。また、リリースにおいてもSEO対策を取り入れた。ターゲットをWebメディアに合わせ、ユーザーの動線を意識。リリースコンテンツは、Webライターが記事化しやすいよう詳細を網羅した。また、リリース自体が検索上位をとれるように、リリースタイトル・本文すべてでキーワードの検索ボリュームを調査した。
KPIについては、Yahoo!ニュースの掲載率をひとつの指標にしている。2022年からパブリシティ施策を始め、順調に掲載率が増え、他メディアからの取材・掲載が増加、検索流入の増加、検索における上位表示が増加した。リリース前後の施策の比較検証を行ったところ、リリース自体でアクセス数の転換効果が見られ、Yahoo!ニュースの掲載によって、より転換率が高まる傾向にあることが判明した。「リリースやメディア掲載は、ゼロから立ち上げた商品を動かす効果がある」と中村氏。
また、中村氏は「既に市場にあるものも、新しい価値の発見として提案できる」と話す。パレットの枚数によって大きさを調整できるパレットベッドや、ランドセルの背中部分に付ける冷感パッドなど、既出の商材カテゴリーでも新しい体験ができることを訴求した。
タンスのゲンにおけるSNSの成功事例
Instagramアカウントは、フォロワー2万人規模で低下傾向となったため、投稿を商品の情報発信から潜在ニーズへの共感訴求へ変えると、フォロワーは3万人に増加した。「現在はフォロワー獲得よりオーガニックの投稿拡散を重視しています」と中村氏。
同社はすべてのSNSでショートの縦動画を強化している。動画の撮影・編集を社内で行い、X・Instagram・YouTube・TikTokで動画を展開。そのほか、タンスのゲンの扱う商品は幅が広いため、アカウントとして成長しづらい。そこで、子育て世代など属性を絞った新規アカウント「カゾクノゲン」を作成し、開設5カ月でフォロワー7000人を達成した。
中村氏は、過去3年間に行ったインフルエンサー施策とその効果検証の結果について紹介した。YouTubeではフォロワー100万人以上のYouTuber、中堅YouTuber、ナノインフルエンサーとタイアップしたが、費用対効果は良くなかった。一方、Xでは2人のインフルエンサーとタイアップ投稿を試みたところ、合計1000万インプレッション超を獲得。楽天カテゴリーランキング1位を獲得し、情報番組の取材・放映も行われた。しかし、2024年のXのアルゴリズム変更により投稿が伸びなくなり、提携していたすべてのインフルエンサーの投稿インプレッションが10分の1以下まで落ちたという。
そこで、最近はInstagramでタイアップ投稿を行い、インフルエンサーのリール投稿とストーリーズは必須で、ハイライトも可能であれば依頼。インフルエンサーの選定は自社で行い、アカウントの親和性や直近の10リールの平均PV数、エンゲージメント率を参考にしている。最低100万PV以上、目標300万PV以上になるように起用プランを構成し、CPM500円以下を目標としている。
中村氏によると、これまでの成功・失敗体験から、パブリシティ・オウンドメディア・インフルエンサーを掛け合わせたクロスメディア施策が効果的だという。また、地上波テレビのパブリシティの販促効果は依然として高く、「ただし、メディア側の選定としては、SNSでバズっていることが第一であり、SNSのコメント・商品ページのレビューなどの反応もチェックされますし、情報・商品の信頼度も重要」と中村氏はまとめた。
なぜインフルエンサーと手を組むことが必要か
インフルエンサーマーケティングを手掛けるPLAN-Bは、「Cast Me!」というサービスにおいて15,000名を超えるインフルエンサーとのマッチングツールを展開し、消費者目線のクリエイティブを大量生成できる環境を構築している。
現在、消費者の4人に1人はSNSを通じた商品購買を経験しており、SNSにおけるインプレッションの拡大は売上拡大に大きな影響を与えている。
その上で森山氏は、購買に向けての態度変容を促すコンテンツの力となる「Contents Power」、ターゲットに対してSNS内でどれだけ表示させることができるかという拡散の力「Imp Volume」、ターゲット1人あたりのコンテンツの接触頻度「Frequency」の3つの軸をまとめた「CIF SCORE」を上げることが重要だと説明した。ヒット商品のサイクルについて、「Contents Power」の高いコンテンツを多くの人に何度も見せることができると購買数が増加し、商品が良いものであれば、自然とコンテンツパワーの高い口コミが生まれ、商品の売り上げにつながる。このサイクルを実現するための手段の一つがインフルエンサーの活用である。ECやD2Cを含むビジネスで活用できるインフルエンサーについて「拡散力と購買喚起力を兼ね備えたインフルエンサーが強い販売能力を持つ」と森山氏。
例えばドウシシャの場合、インフルエンサーを2万円で起用し300万再生を記録した。そもそもインフルエンサーがリーチできるフォロワーは20%程度だ。いいね率よりも保存率の方がリーチ率に影響を及ぼすため「保存=商品への購買喚起」という。しかし、優秀なインフルエンサーとの組み方を知らない企業は多い。優秀なインフルエンサーとは、消費者目線を持ち、SNSのトレンドに敏感であり、高い営業力を保有し、クリエイターであることなのだという。例えば、ショップチャンネルが運営する、誰かのおすすめを紹介する「コレイヨ」では売上高が287%伸長し、インスタグラムのフォロワーも増加した。そのほか、サイトパフォーマンス向上のために活用したディノスコーポレーション、広告素材として活用したジュピターショップチャンネル、市場調査・コンセプト策定として活用したしまうまプリント、ファンケルの事例を紹介した。
次世代型インフルエンサーグロースモデルとは
森山氏は、次世代の施策「インフルエンサーグロースモデル」について説明した。この施策には、良いインフルエンサーを採用する「マッチング」、相性の良いクリエイティブパターンを見つける「勝ち筋の発掘」、最適なインフルエンサーのクリエイティブを2次利用し、アカウント運用や広告運用に使用範囲を広げる「拡大」、認知・想起の最大化に向け活用を広げてブランディング全体の訴求につなげる「ブランディング」の4つのステップが含まれる。PLAN-Bではインフルエンサーを選定する際、7つの段階を綿密に設計してから施策を実行に移しているという。市場調査を始め、IGC投下後に反応の良いクリエイティブパターン・インフルエンサーパターンを特定、さらに良好な反応が得られたクリエイティブを広告配信しより多くの消費者との接触を狙う範囲拡張、SNSでの反応をもとに最も刺さる商品やブランドのコンセプトの策定を行う検証・再策定、仮説をもとに新たなインフルエンサーコラボを行うIGC投下~範囲拡張、PDCAサイクル、市場からの声をもとに次のヒット商品へつなぐ段階までだ。森山氏は、インフルエンサーグロースモデルを「初めから商品のヒットに狙いを定め、勝てるマーケティング戦略やブランドコンセプトを創ること」だと強調。同じ考え方で資生堂の大ヒット商品「ファンデ美容液」も、顧客の口コミからコンセプトを創り、それを広告やプロモーションに生かし、さらに新たな口コミが生まれ、興味を持つ消費者を増やし続けている。
最後に森山氏は、「Cast Me!」のサービス内容を説明。在籍する15,000名のインフルエンサーと自由にマッチングできるプラットフォームで、商品数、案件数、採用人数など全てが無制限で利用できる。インフルエンサーとのマッチングは、案件を公開募集する公募式、好みのインフルエンサーを探し、直接オファーをかける指名式がある。投稿クリエイティブは、すべて2次利用無料という点もある。また、「ノウハウの不足を解消するためにカスタマーサクセスも設けていますので、ぜひご検討いただければと思います」と締めくくった。

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