タイトルに違わず実にスリリングな内容になっている(ゆえに面白い本なのだ)。ethical/エシカル(倫理的な・道徳的な)とは今の時代を形容するキーワード。その名詞としてのethics/エシックス、時にその対極のある広告クリエイティブとの間に著者は立ち、持ち前の賢さと思いきりでアウフヘーベン(懐かしい言葉でしょ笑)を試み、彼の新語 “クリエイティブ・エシックス”を胸に「世界を今より良い場所にすること」を目指そう!と筆を取り我々に熱く問うてくる。
『クリエイティブ・エシックスの時代 世界の一流ブランドは倫理で成長している』
橋口幸生著/定価2,420円
広告クリエイティブの第一義的目的はビジネスであるがしかし表現でもあって、表現である限りは、人をして感動を、笑いを、涙だってありで、アイデアをもって人の心を動かす仕事だ。言葉を選ばずに言えばそこに“正しさ”はあまり意味を持たない。僕などは、たとえ公共広告であってもクリエイティブは表現である以上“艶っぽく”なければ!と常日頃から伝えてきた。この二つのアンビバレンスをよく熟知した上で明瞭な答えを示唆したこの本は、著者の発明発見の書とも言えるかもしれない。そこを感じて実にスリリングだと冒頭申し挙げたのだった。
もういつまでも『欲望をただ喚起する20世紀型広告』を続けてはいけない。こんなことを繰り返していたら、広告は今に産業ごと痩せ細ってしまうだろう。
先ずはこの本を開いてみてほしい。たとえば2004年にキャンペーン開始されたDove「Real Beauty(真の美しさとは)Campaign」。これまでに数々の話題作が作られてきたのだが、2013年の「Real Beauty Sketches」は僕にとって今も忘れられない作品だ。“自分は自分が思っているよりずっと美しい”をテーマに、なんとFBIの似顔絵捜査官を登場させたのだ。左脳的アイデアを駆使して人の右脳を喚び興す!(最も好きなタイプの表現だ)。
また2020年あのコロナ禍で執り行った「Courage is Beautiful(勇気こそ美しい)」。世界がパニックに見舞われるなか、感染のリスクに身を晒し不眠不休で働いていた医療従事者たちをDoveはキャンペーンの“モデル”に起用。ゴーグルの跡も生々しい勤務直後のポートレイトをアウトドアやデジタルメディアに展開して彼らの勇気を称え、利他的な行いこそ「本当の美では!」というメッセージを託す。
この他にも世界を見渡せば人種差別を扱ったNIKE、ダウン症のモデルを起用したGUCCIなど“クリエイティブ・エシックス”で新たな成長を遂げている企業の例は枚挙にいとまがないほどだ。
エシカル消費が台頭している時代。「買い方が変わったのなら、売り方も変えなければ」は自明の理である筈だ。

『クリエイティブ・エシックスの時代 世界の一流ブランドは倫理で成長している』
橋口幸生著/定価2,200円+税
現代のビジネスパーソンがいま知っておくべき、倫理(エシックス)とその事例を解説。「炎上するのが嫌だから守る倫理(コンプライアンス)」ではない、「ブランドをより魅力的に成長させるための倫理」を紐解く、はじめての書籍です。人権、ジェンダー、多様性、セクシュアリティ、気候変動などのテーマ別に、時代による変遷や、さまざまな具体事例もあわせて紹介。この一冊で、押さえておくべき必須教養が身につきます。