AIに現実世界の文脈を与えるMCP―広告マーケティング分野にも活用可能性

前回自社のデータ資産を活用し、AIエージェントの能力を最大化する「MCP」とは何か?というテーマで解説しました。

後編では具体的な事例や展望も交え、今後の広告マーケティング領域などへの活用可能性について考えてみたいと思います。

MCPと他のプロトコルや技術との比較

イメージ

まず前回のおさらいですが、MCPとは「Model Context Protocol」の略です。

従来、AIモデルは訓練データに含まれない社内データや最新情報にアクセスできず、“情報のサイロ”に閉じ込められている状態でした。例えばデータベースやクラウドストレージの内容をAIに参照させたい場合、システムごとに個別のAPI連携を開発する必要がありました。

MCPはこの課題を解決するために設計されており、単一の標準プロトコルでさまざまなデータ源とAIを双方向接続できるようにします。

MCPは既存のAPI連携や他社の類似技術とも比較されますが、その汎用性・標準性に特徴があります。従来のAPIにおいては、サービスごとに個別のAPIを叩いてAIに情報提供する必要があり、サービスが増えるほど統合開発やメンテナンスの負担が増大していました。

MCPでは単一の標準コネクタで複数のツールに接続できるため、開発効率が飛躍的に向上します。またMCPはAI側で利用可能なツールを動的に発見・利用できる仕組みを備えており、事前に統合をハードコーディングしなくてもAI自身が必要に応じてMCPを呼び出せます。

さらに対話を継続しながら情報取得やアクション実行ができるリアルタイム双方向通信をサポートしており、従来のリクエスト・レスポンス型APIにはない柔軟なインタラクションが可能です。

また、Microsoftの無料コードエディタ「VSCode」などのプラグインをサポートした環境においても、従来であればプラグインごとにAPI連携を実装する必要がありました。

それに対しAIのコーディングアシスタントである「Cline」などの例に見られるように、プラグイン自体がMCPをサポートする流れになってきています。これにより、ユーザーは好みに応じてプラグインをさらに拡張できるようになり、開発者もプラグインの開発が容易になります。プラグインのプラグイン、みたいなものでしょうか。

これからは、MCPに対応しているかどうかがソフトウェアやプラグインの選定基準として重要な要素となってくることが予想されます。

メディアクリエーション分野での事例と展望

イメージ

MCPはAIに現実世界の文脈を与えるインフラと言え、その影響は今後さまざまな業界に波及すると期待されています。AIが人間と同じ情報環境で活動できるようになることで、新しいサービスやビジネスモデルが生まれる可能性があります。

ここでは具体として筆者が語れる、メディアクリエーションやインタラクティブコンテンツ開発の文脈での事例や見通しを掘ってみたいと思います。

まず、筆者の専門たる映像・CG分野です。Blender MCPは、CG制作ソフトウェアであるBlenderをLLMから操作することが可能になるMCPです。MCPを介してAIがBlenderのシーンにアクセスし、ユーザーの指示に従ってモデリングしたり、ライティングを調整したりすることが既にできるようになっています。

また、HoudiniMCPは、BlenderMCPと同様にHoudiniというCG制作ソフトウェアに対してMCPを提供しており、AIがHoudiniのパラメータを調整することが可能です。

映像編集ソフトウェアのDavinci Resolveについても、複数のMCP実装が提案されており、タイムライン操作やプロジェクト整理など、既にできるようになっています。この辺りの対応についてはやはりオープンソースであることや、SDK(ソフトウェア開発キット)が一般公開されていることが大きく影響しており、開発者の母数が多い分野ではものすごいスピードで実装が進められています。

ゲーム分野でもMCPの話題は出ています。例えばUE5-MCPは、ゲームエンジンであるUnreal Engineの操作をLLMから行うためのMCPです。UE5-MCPはBlender MCPをベースに開発されており、Unreal EngineとBlenderの連携をシームレスに行うとしています。

また、UnrealGenAISupportは、OpenAI、Anthropic、DeepSeekなどのAPIインテグレートと共に、MCPにも対応し、Unreal Engine上での操作を自然言語から行うことができるようになっています。

もちろんUnityでの対応も進んでいます。複数のプロジェクトが立ち上がっており、同時進行的に実装が進められています。

音楽制作においても、Ableton LiveやFL StudioといったDAW向けのプロジェクトが存在し、MCPを介してAIが楽曲制作に関わることができるようになっています。またソフトウェアだけでなく、ハードウェアのシンセをMCPから制御するという変わり種のプロジェクトも登場しています。

あらゆる分野でスピード実装が進む、MCPの適用可能性

イメージ

このようにメディアクリエーション分野だけで見ても、もの凄いスピードで物事が進んでいます。

もちろんMCPの適用範囲は決して映像やCGだけではなく、あらゆる分野において、同じようなスピード感で実装が進められています。金融、教育、医療、製造、物流、マーケティング、そしてもちろん広告……どうでしょうか。皆さんが専門としている分野で、MCPの適用可能性を考えてみることができるのではないでしょうか。

繰り返しになりますが、MCPは従来の点単位の統合ではなく面として機能する統合基盤であり、AIエージェントの能力を最大化する「標準ポート」の役割を果たします。MCPが普及すれば、自社のデータ資産をAIが自在に活用できるようになり、新たなサービス創出や業務効率化のチャンスが生まれるかもしれません。今後の展開にぜひご注目ください。

advertimes_endmark


岡田太一(sync.dev Technical Director/Visualization Artist)
岡田太一(sync.dev Technical Director/Visualization Artist)

CG会社のDigital Artist からキャリアを開始。ポストプロダクションを経て、現在はビジュアルクリエイティブ領域にてテクニカルディレクションを担当。得意な分野は映像編集、ビデオ信号とリアルタイム合成、トラッキング関連など。2022年から『ブレーン』で連載中。

岡田太一(sync.dev Technical Director/Visualization Artist)

CG会社のDigital Artist からキャリアを開始。ポストプロダクションを経て、現在はビジュアルクリエイティブ領域にてテクニカルディレクションを担当。得意な分野は映像編集、ビデオ信号とリアルタイム合成、トラッキング関連など。2022年から『ブレーン』で連載中。

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

このコラムを読んだ方におススメのコラム

    タイアップ