DeepSeekの登場で多様化 弁護士に聞く生成AIサービス利用の注意点

マーケティングやクリエイティブの現場でも生成AIの利用が広がっている。この1月にはDeepSeekの登場が話題になったばかり。著作や創作にかかわる法律の専門家である岡本健太郎弁護士が、最近の状況を踏まえた利用の注意点を解説する。

ChatGPTやPerplexityをはじめ、様々な生成AIサービスが提供され、それに伴い、生成AIサービスの利用機会も増えています。一方で、生成AIサービスが身近になったからこそ、不測の権利侵害も生じやすくなっています。1 件の重大事故の裏に、29 件の軽傷事故、300 件の無傷事故(ヒヤリハット)があると言われています(ハインリッヒの法則)。

不測の権利侵害を防止する観点から、生成AIサービスの利用上の注意点をまとめてみました。なお、権利侵害は、生成AIサービスの開発段階でも生じますが、今回は、マーケターやクリエイターの方にとってより身近な、生成AIサービスの利用段階を想定しています。

生成AIにデータ入力する際の法的留意点

生成AIサービスへの入力データは、プロンプトその他のテキスト、イラスト、写真、動画など様々です。これらの入力データには、例えば以下のような権利や法律で保護されている可能性があります。

イメージ 図

生成AIサービスへの入力データとしては、特に、著作権、営業秘密、個人情報が要注意です。

例えば、生成AIサービスに他人の著作物(文章、イラスト、写真など)を入力しても、内容を感得しない、いわばデータとしての利用であれば、必ずしも著作権侵害にはなりません。ただ、入力の目的が、その著作物に似た生成物を生成するなど、その著作物の表現の利用を目的としたような場合には、著作権侵害となり得ます。

また、自社の営業秘密を生成AIサービスに入力した場合には、秘密性が失われ、営業秘密として保護されなくなる可能性がありますし、他社の営業秘密をAIサービスに入力した場合には、秘密保持契約などの違反にもなり得ます。また、生成AIサービスに個人データを入力した場合に、本人の同意なく、その個人データが生成物の生成や出力以外にも取扱われる、他者に提供されるといった事情があれば、個人情報保護法の違反となり得ます。

営業秘密や個人情報を生成AIサービスに入力することは避けるのが無難ですし、入力が必要であれば、入力された情報が生成物の生成や出力のみに利用され、他の目的での取扱いや他者への提供がない仕様の生成AIサービスを利用するのがよさそうです。

新登場のDeepSeekに持たれる「蒸留」の疑い

本年1月ころにDeepSeek(ディープシーク)が登場し、その後も何度かバージョンアップがなされています。DeepSeekは、高機能かつ安価な生成AIサービスである点などが注目されています。

一方で、DeepSeekには、他のAIモデルの出力結果を利用して開発されたという「蒸留」の疑いが持たれています。例えば、Open AIの利用規約では「アウトプットを使用して、OpenAIと競合するモデルを開発すること」が禁止されており、蒸留はこの規定に反します。

もっとも、ここでは著作権に焦点を当てますが、AIモデルそのものではなく、その答え方を真似するだけでは著作権侵害にはなりません。また、Open AIなどのアウトプットには、著作権などが発生している可能性がありますが、少なくとも日本の著作権法上は、AIの開発目的でアウトプットを利用したとしても、著作権侵害にはなりにくいように思われます。いわばデータとしての利用であって、人間による著作物の感得を伴わない利用については著作権者の承諾は不要とされており、著作物をAIの開発に利用することは、この例外に該当する可能性があるためです。

そのほか、DeepSeekには、入力データが学習データとして利用されるという漏洩リスク、特定の話題について情報が制限されるといった検閲・情報操作リスクなども指摘されています。こうした指摘の真偽は定かではありませんが、DeepSeekを利用する際には、特に営業秘密や個人情報の入力は避けるほか、生成物についてファクトチェックを行うといった配慮も有益かもしれません。

出力データの利用で権利侵害の可能性も

次は出力データである生成物です。生成AIサービスを利用して生成された生成物は、他人の著作物、商標、意匠、肖像等に似ている場合もあり得ますし、他人の営業秘密や個人情報を含んでいる場合もあり得ます。既存の作品、データなどとの類似度、利用方法などにもよりますが、こうした生成物の利用には、権利侵害のリスクが伴います。

他人の著作物に似た生成物を利用すると、仮に、生成AIサービスの利用者(生成者)がその著作物を知らなかったとしても、その著作物がAIモデルの学習に利用されていた場合などには、著作権侵害になる可能性があります。また、他人の登録商標や登録意匠に似た生成物を、商品の広告宣伝、デザインなどに利用すると、商標権や意匠権の侵害となり得ます。さらには、実在の著名人に似た生成物を広告宣伝に利用すると、(肖像権のほか)パブリシティ権の侵害ともなり得ますし、営業秘密や個人情報を含む生成物の利用に伴い、上記(入力時の留意点)のような問題が生じ得ます。

生成物を利用する際には、生成物に類似する著作物、商標、意匠、肖像などがないこと、生成物が営業秘密や個人情報を含まないこと等を事前に確認しておくことが、不測の権利侵害を防ぐための第一歩です。

ざっと要点のみをお伝えしましたが、権利侵害のリスクを避けつつ、安全かつ快適な生成AIライフをお過ごしください。

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岡本健太郎

(骨董通り法律事務所 弁護士 NY州弁護士 証券アナリスト)

ロイター通信社(日・英)などを経て、国内外のアート、エンタテインメント、デザイン法務に従事。神戸大学大学院客員教授、Japan Contents Blockchain Initiative 著作権流通部会 部会長、アカツキ社外監査役なども務める。趣味はリズムタップ、音楽鑑賞(70’s Soul)と茶道(松尾流)。


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