パルコにみる生成AIを活用した広告制作、留意点と今後のあり方とは

同じような課題意識を持った企業担当者が、課題解決に向けて少人数で話し合う「テーマ別研究会」。2月5日には第3回「AI研究会」が行われ、パルコ宣伝部で広告制作に携わる手塚千尋氏が登壇。生成AIを活用した広告づくりについて実例をもとに紹介した。

時代のコンテクストを組み込んだ広告づくり

ファッションビル「PARCO」の運営やアートなどの最先端カルチャーを紹介するパルコは、ファッション広告、才能ある若者を起用したコーポレート広告、セール広告、ホリデーやバレンタインなどを含むシーズン広告の4種類を展開している。パルコが広告をつくる上で留意していることは、パルコでしかできない表現を追求することと、時代のコンテクストを組み込むことだ。メーカー企業とは異なり、パルコには広告するモノがないため、表現の自由度が高いという特徴がある。

渋谷パルコが50周年を迎えた2023年は、「伝統と革新」をテーマに生成AIを使った広告を展開。同年の時代の潮流がChatGPT、生成AIが台頭した時代であることを受け、新しい広告表現に挑戦した。2023年に行われたHAPPY HOLIDAYSキャンペーンでは、世界トップクラスのAIデジタルクリエイターAi-Editorial-Christian Guernelliを日本企業で初めて起用した。

実際のモデルを一切使わずにプロンプトを使って作成。画像だけでなく、ムービー、ナレーション、音楽も生成AIを活用した。制作にあたっては、クリエイティブディレクターに木之村美穂氏を登用し、パルコを含めた3者で取り組んだ。手塚氏によると、生成AIを利用するため簡単にポスター画像ができると想定していたが、90点の出来映えのポスターは1カ月ほどでできたものの、100点に近づけるための調整が大変で、制作には6カ月ほどかかったという。しかし、他の企業が着手していない早い時期に生成AIを活用して広告制作したことで、多くのパブリシティを獲得できた。

また、2024年度のHAPPY HOLIDAYSでは、ミュージシャン・細野晴臣氏の昔の写真を活用し、写真が動くような動画を制作した。現代アーティスト・田名網敬一氏のコラージュを用いて、クリエイター・宇川直宏氏に制作を依頼。1年前の広告とは異なり、ライブを行っているような動きのある動画に仕上げた。

生成AIを用いるときに注意すべき点とは

続けて、手塚氏は生成AI使用時の注意点を紹介した。最も留意すべき点は、著作権の侵害や偶然の類似性の指摘だという。

また、企業担当者が抱える課題は、企業として生成AIを用いることの不安、どうやって上層部に通すことができるかだ。その拠り所となるものとして、手塚氏は総務省・経産省の「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を挙げた。法的な心配事項をクリアにできるため、社内で確認する際に参考にしてほしいと話した。

生成AIによる広告の今後は

今後、生成AIはツールの一つとして普及し、日常生活においてより一般的になっていく。そのため、どのように活用するかが重要だと手塚氏は話す。生成AIの得意分野としては、時間をかけずに目的とするアウトプットに近いところまで完成させられる点、多数のアウトプットが可能な点だ。「今後はより個人の趣向に合わせた広告づくりにより、ターゲティングに生かした使い方になるのではないか」と手塚氏はまとめた。

生成AI広告だから得られたPR効果

質疑応答の場では、「生成AIの使用を提案するときに経営層から反対はなかったのか」と質問が上がった。手塚氏は、経営層からの反応について「パルコは広告に対して挑戦的な企業のため、他社よりハードルは低かったかもしれない。ただ、リスクの指摘は上層部からありましたので、顧問弁護士に確認しながら進めました」と話した。

続けて、「生成AIを使った広告により採用活動に影響があったか」との質問には、「2023年のHAPPY HOLIDAYSの広告では、多くのパブリシティを獲得できた。当時は生成AIを活用した広告が珍しかったため、先駆者として講演に呼んでいただいたり、NHKの番組で取り上げてもらったりしたので、PR的な効果としては大きかったのではないかと思います」と、パルコの企業価値向上にもプラスの影響があったことを振り返った。

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