人手不足を背景に、人材採用において企業CMやアルムナイ制度といった、企業ブランディングと連関した自社の魅力向上と発信が求められている昨今。宣伝会議による「採用ブランディング研究会」では、先進的な取り組みをしている企業の採用戦略や最新事例について、少人数制の講演で情報共有している。第2回「採用ブランディング研究会」を2025年2月19日に開催。トライベックの後藤洋氏とトルクの本田一幸氏が登壇し、求職者に求められる企業の採用サイトのポイントについて紹介した。
コロナ禍以降、格段に増したWebサイトの重要性
デジタルのあらゆる相談を受けるパートナーになっていくことを目標に掲げるトライベックは、エクスペリエンスマネジメント事業、デジタルマーケティング支援事業、メディア事業、DXプラットフォーム事業の4つから成り立っている。デジタルにおいて、ユーザーの気持ちや満足度、どんなことを企業に期待しているのかなど綿密な調査を続けることを大切にし、「人にフォーカスしている会社」だと後藤氏は語る。
採用ブランディングにおいては、徹底した傾聴を続ける中で見えてきたポイントが2つあるという。1つは「自社サイト」。採用サイトからの応募が主流ではあるが、求職者がその会社を知ろうと思ったときにチェックするのは企業のWebサイト。そこでいろんな情報を得て、自分に合っているか、受けたいと思うかどうかを最終的に判別する。
以前は多くの企業がコーポレートブランディングと採用ブランディングをわけて考えていたが、最近は一貫性を持って情報を届ける企業が増えているという。実際にトライベックが「信頼する情報源は何ですか?」と調査したところ、以前は「新聞」が最多だったのがコロナ禍以降は大きく変わり、「企業のWebサイト」が最も多く55%であったという。
また、「Webサイトを閲覧した後にどういう感情を持ったか?」という調査においても、ここ数年で大きく変化しており、「好感が深まる」「応援したい」という項目の割合が高い結果となっているようだ。ユーザーの価値観が変化している結果をふまえ、後藤氏は「採用においては目的が明確なため、よりジブンゴト化させるストーリーが求められる」と断言した。
Webサイトを起点にジブンゴト化を促進
そしてもう1つが、「OMO」。Online Merges with Offlineの略で、採用においてもオンラインとオフラインを交差することを意識することが大切だと後藤氏は語る。Webサイトで情報を見る一方で、会社説明会で話を聞いたり、実際の会社を見学したりなど、オンライン、オフラインは実際に混在する。その流れを意識したうえで起点となるWebサイトを考案。「デザインに凝り過ぎて原理原則がずれてはいけない。内容がわかりやすく、自分の欲しい情報が探しやすい。そして、自分がその会社で役に立ちたいと思えるかどうか。Webサイトでジブンゴト化を最初に起こさなくてはいけない点が、以前までの採用ブランディングと大きく違うところ」だと後藤氏は進言した。
伝えたいことを、求職者に「伝わるカタチ」で表現
では、どんなコンテンツが良いのか。まず、採用ページの充実度は企業への信頼感につながるため、シンプルにしすぎず、きちんと情報を出すこと。バリュー(行動指針)や、数字でわかりやすくデータ表示されていることも大切だ。また、働く人や社内の様子がわかる動画は「会社見学」に行った気分になれるため好まれ、「ここで働きたい」とコメントが付くケースもあると後藤氏は明かす。経営者を筆頭に、採用担当者や活躍する社員など会社の軸となる人がメッセージを発信するようなコンテンツも求職者がジブンゴト化として捉えるのに大きな役割を果たす。「大事なのは、企業の『伝えたい思い』を、求職者に『伝わるカタチ』で表現できているかどうか」だと後藤氏は締めくくった。
最新の採用サイトのトレンドとは?
続いて、デザインの力で情報格差をなくすというミッションを持って活動しているデザインファーム・トルクの本田氏が最新の採用サイトのトレンドについて、実例をもとに紹介した。例に挙げた企業の採用サイトの特徴は、ファーストビューで「募集職種を見る」「イベントを見る」など、求職者が1番最初に欲しい情報を1番目立つ中央に設置しているという点。また、アクセシビリティにも配慮し、画面に動き続けるものがあると文字が読みづらい特性を持った人がいるため、動画を停止できるボタンを設置しているのも特徴である。
別のメガバンク企業の採用サイトでは、プロ野球選手名鑑のような見せ方で「金融のプロ」として社員を紹介することで、求職者のジブンゴト化を促進させるのに一役買っている。「主役はわたし」というキャッチフレーズで、社員を大事にしていることが伝わるようなサイトだ。「トップページの情報が多すぎるのは良くないというのも1つの面ではあるが、キャリア採用において、リアルに自分の今までのキャリアがどう生かせるのか、トップページから探すことができるのは魅力である」と本田氏は語る。
「自社が伝えたいことありきではなく、求職者が求める情報をメインに扱う。それにより、求職者が自分の将来像を重ね合わせることができる」と本田氏はアドバイス。「採用プロセスが進めば進むほど、求職者は採用サイトを何度も訪れ、情報を取りにくる。そういった方に向けて本当に必要な情報は何なのか。いい面だけでなく、厳しい面もきちんと伝えながら、それを乗り越えた先にどういうキャリアがあるのか、しっかり見せていくことが大事」だと本田氏は締めくくった。
