第2回ではデジタルメディアにおける表面的なCPA指標や刈り取り型広告の獲得効率におけるリスクと各媒体を横断した際の効果指標の難しさについて見解を示しました。
そのような状況では、ファネルを整理し、中間指標を明確に設定した上で、時系列のデータ分析を活用してクロスメディアの掛け合わせ効果をシンプルにモデル化することが一つの解決策になるとお伝えさせていただきました。
第3回では、年齢肌専用の基礎化粧品「ドモホルンリンクル」を主力商品として製品誕生51周年を迎え、創業80年となる製薬会社「再春館製薬所」の事例を基に、テレビとデジタルが共存する時代のメディア戦略についてをお話しさせていただきます。
従来の予算投資配分を再評価へ
熊本県益城町に本社を構える再春館製薬所は、1932年に生薬製剤「痛散湯」で創業し、1974年には年齢肌専用の基礎化粧品「ドモホルンリンクル」を誕生させました。50年にわたる成長の過程で、同社は電話を中心としたダイレクトマーケティングを展開し、テレビCMを主軸とするマスマーケティングによって新規顧客を獲得してきました。
しかし、時代の変化と共にメディアの多様化が進み、消費者の購買行動も変化。特にコロナ禍以降、デジタルシフトが加速し、全年代におけるオンライン広告の影響力が増してきたため、同社は従来の予算投資配分が最適なのかを再評価する必要性を感じていました。
同社は、2018年にも他のマーケティング会社とともにMMM(マーケティングミックスモデリング)分析に取り組んだ経験があります。その際の結果は社内の肌感と一致するもので、自社での実行推進が間違っていなかったことがわかり、自社のみで今後推進活用できそうであることと費用面を鑑みて外部との取組みは終了されました。
しかし、数年を経てメディアの大幅な変化に伴い、「100人いれば100通りの購買体験がある」という市場の多様化を受け、新たな分析の必要性を強く感じていました。2024年に最小の予算で最大の効果を上げるための「適正な媒体評価」と「最適な予算投資配分の確立」を目的として、ノバセルのMMMを導入いただきました。
広告効果の可視化で得られた成果
2024年5月にノバセルとの契約を交わし、6月にはMMM分析を実施。それにより、残存期間も踏まえた効果の可視化が得られたことで広告運用のPDCAを回す時間軸が設定でき、プランニングしやすくなったことをご評価いただいています。また、今回のノバセルMMM において「Web 動画が指名検索のリフトアップに繋がっている」という結果を受け、Web 動画への伸びしろを感じ、早速拡大のための検証に取り組まれるなど新たな取り組みもスタートされました。
成果1. 残存効果の可視化
広告の影響は即座に購買行動に現れるわけではなく、一定の時間を経て反映されることが多いため、今回のMMM分析では、広告接触後の行動データを分析し、残存期間を考慮した効果の可視化を実現。これにより、広告運用のPDCAを回す際の時間軸の設定が可能となり、プランニングの精度が向上しました。
成果2. 新たなメディア戦略の発見
従来のテレビCMを軸とする施策に加え、Web動画が指名検索のリフトアップに寄与していることが明らかになりました。投資規模はテレビに比べて小さいものの、成長の余地があると判断し、Web動画の拡大に向けた検証を開始。さらに、SNS施策やインフルエンサー施策を活用し、間接的な影響を可視化することで、より多角的なマーケティングアプローチを展開しています。
成果3. 適正な予算配分の実現
多段階の分析モデリングを活用することで、メディアごとの価値評価がより精緻化。これにより、どのメディアにどれだけの投資を行うべきかの判断が可能となり、前年踏襲型の予算編成から脱却し、最適な投資配分を実現しました。
改善に向けた一手が打ちやすくなる
再春館製薬所は、今後も新規顧客獲得における最適な投資配分の研究に磨きをかけるため、特に、「指名検索数を増やすために必要な新しい因子の発見」に焦点を当て、分析モデルをさらに進化させる意向です。デジタルシフトの加速化による購買行動の変化に適応しながら、データドリブンなマーケティングによって、さらなる成長を目指されています。
MMM導入による課題と変化の総括
導入前の課題
- 購買行動の変化により最適な予算配分が見出せない
- 前年踏襲型のマーケティングから脱却し、各メディアの適正評価が必要
- 残存効果を可視化し、効果的なPDCAを回したい
導入後の変化
- 多段階の分析モデリングにより、最適な予算配分に近づいた
- Web動画やSNS施策など、新たなチャレンジを開始
- ブランドエクイティの残存効果を考慮したプランニングに改善
「効果の見える化」ができれば改善につながる一手を考えることができます。また、事業成長に結びつく勝ち筋を見出しやすくなります。テレビとデジタルが共存する時代において、今後ますます複雑化するメディア戦略を策定するには、ファネルを整理し、中間指標を明確に設定した上で時系列のデータ分析を活用してクロスメディアの掛け合わせ効果をシンプルにモデル化することは欠かせないでのではないでしょうか。
