OOHの効果的な活用方法とは? 顧客理解を深め、ターゲットに刺さるメッセージを

地域に根差した取り組みを紹介するマーケティングイベント「アドタイデイズリージョナル2025春」(大阪会場)が2月に開かれ、森永製菓の菓子マーケティング部・佐藤実氏がブランドの転機となったマーケティング施策について、ジェイアール東日本企画のコミュニケーション・プランニング局・中里栄悠氏が毎日の移動をマーケティング機会に変えるコミュニケーション戦略について、実例をもとに知見を紹介した。

子ども向け菓子に新たな価値が加わり、売上が急成長

1899年に創業し、ミルクキャラメルやラムネ、ハイチュウなどのロングセラーブランドを多く抱える森永製菓。その中でも佐藤氏がブランドの転機となったマーケティング施策について挙げたのが「森永ラムネ」だ。

森永ラムネは1973年に飲み物のラムネの清涼感を再現したお菓子として発売され、パッケージにはラムネの瓶の形状をしたプラスチックボトルを採用した。発売から40年以上、子ども向けのお菓子、駄菓子として存在してきたが、転機となったのは2018年の大粒ラムネの登場だった。

発売されるや否や、「ブドウ糖を摂取するためのお菓子」という新たな価値が加わり、売上が急成長。ラムネに対する消費者の意識が、子ども向けだけではなく、「集中・考える」喫食シーンの大人需要へと変化したのだ。そこで、「もっとお客様を増やしていこう」「もっと商品を知ってもらおう」という思いから、プロダクトとプロモーションを見直すこととなった。

写真 人物 個人 森永製菓の菓子マーケティング部・佐藤実氏

まず、プロダクトにおいては、パッケージデザインに価値訴求としての「集中したい時に!」「ぶどう糖でスッキリ‼90%配合」を目立つように配置した。また、包装形態をボトルからパウチに変更することで、これまで駄菓子売場に置かれていたのが、大人が多く立ち止まる小袋キャンディ売場に進出することに成功した。同時に季節ごとの売上調査のデータを分析し、2014年頃は清涼感が求められる夏が売上のピークだったのが、2017年頃から受験シーズンの12月・1~2月がピークになるなど、売れる時期が変化してきているという気づきもあった。

そこでプロモーションに掲げたのが「受験生応援」。なぜ、受験生応援なのか。その理由について佐藤氏は、「集中・考えるという行為が最も必要となる象徴的なシーン」であることを述べた。発売当初は「清涼感を出す」ための原料として使われていたブドウ糖であったが、ブドウ糖の持つ特徴が別の価値として認知されるようになったのだ。受験は大人になる前のライフステージにおいて、その後の記憶に残りやすいものであることも、プロモーションの軸にすることを後押しした。

「受験生応援」で話題を集めた2つのプロモーション

受験生応援のプロモーションとして、2023年度は受験生に身近な「赤シート」をメタファーとして使用する企画を打ち出した。目的は「集中したい時に。受験にラムネ」の認知拡大と定着、ターゲットは受験や試験を意識する10代の受験生本人。森永ラムネが、受験勉強に役立つことをインパクトのある内容で訴求し、プロモーション時期は受験シーズンの1月に集中させた。メインにした媒体はテレビCM。15秒バージョンを定番として、エモーショナルに訴えかける60秒バージョンを1回だけオンエアすることで話題性を企て、SNSでの盛り上がりを狙った。

加えて、OOH(交通広告や屋外広告)のクリエイティブには、「集中できないあるある文章」が書かれていると見せかけて、赤シートをかざすと「応援メッセージ」が浮かび上がるという工夫を凝らし、若年層のトラフィックが多い駅に掲出したほか、赤シートをかざして文字を浮かび上がらせるには、広告のサイズが小さいほうが視認性が良いため、学校の近辺にある小さめのOOHにも掲出した。

また、広告と連動して、大粒ラムネのパッケージにも期間限定で同じ手法による受験生応援メッセージをデザインし、赤シートの代わりになる赤ボトルのラムネも新製品として発売した。これらのプロモーションは若年層を中心にSNSで大きな反響を呼び、2019年度に比べ、購入者は1.2倍に増加した。

写真 人物 個人 森永製菓の菓子マーケティング部・佐藤実氏

また2024年度は、目的・ターゲット・伝えたい内容はそのままに「試験中・ザ・オーケストラ」と銘打ち、集中を阻害する「雑音」をメタファーとした企画を打ち出した。テレビCMは「音」を共感ポイントとしたものを制作。OOHはラムネを点描アートの1ドットに見立てて受験生の一幕をビジュアル化し、「圧倒的なクラフトの一枚絵」を仕上げた。1ドットのラムネで描いていることがポイントになっていることから大きい広告サイズが適していたため、若年層のトラフィックが多い駅の媒体でのみ掲出し、学校近辺のOOHは使用しなかった。さらには、点描アートで使用しているラムネの中に白い「イヤホン」「花」「鈴」「ボタン」を紛れ込ませた。広告を見た人に、ラムネ以外のものを見つけてもらうという手法は、2023年度のプロモーションと同様に、SNSでの話題づくりに成功した。

写真 人物 個人 森永製菓の菓子マーケティング部・佐藤実氏

佐藤氏は消費者に届くプロモーションを実行するために気を付けていることについて、「クリエイティブの手法から入りがちだが、まずは、目的・目標、ターゲット、どんなメッセージを届けるかをきちんと整理すること。そして、ターゲットのリサーチやヒアリングを丁寧におこない、お客様理解を追求することが大事」だと伝え、講演を締めくくった。

移動中のインサイトに添い、行動意欲を醸成させる

続いて、ジェイアール東日本企画の中里氏が、毎日の移動をマーケティング機会に変えていく戦略について語った。中里氏が所属する移動研究プロジェクトチーム「Move Design Lab」は、生活者を移動の観点から研究し、移動者に向けたコミュニケーション戦略の提案、OOHの価値と今後の可能性に関する研究、そして昨年4月にローンチした「TRAIN TV」のプロデュースをおこなっている。中里氏は大きく2つのポイントについて語った。1つめは「マーケティングセグメントとしての『移動』の価値」、2つめは「OOHの価値研究」についてだ。

写真 人物 個人 ジェイアール東日本企画 コミュニケーション・プランニング局・中里栄悠氏

まず、「マーケティングセグメントとしての『移動』の価値」について。多くの人は、家、学校・会社、その他の場所の3つの場所を主に行き来し、月の移動回数は平均42.3回というデータがある。しかし、その移動回数は多い人と少ない人でかなりの差があり、コロナ禍以後、その差が広がっているそうだ。その理由にはテレワークやデジタルの普及により、移動が絶対的なものではなくなったことが考えられるが、移動回数が多い人のほうが先進的でオピニオンリーダー的な存在、そして若年層が多く含まれていることが調査データとして上がっている。つまり、今後の移動空間は、スクリーニングのかかったハイポテンシャルな生活者に向け効率的にメッセージを届けることができるというわけだ。

また、外出意欲と消費意欲とは密接な関係にあり、生活者が買い物をすることを決めるタイミングは「移動中」が最も多いことも調査により判明している。実際に、ジェイアール東日本企画が実施した実証実験では、某アイスクリームブランドのシズル広告をJR中央線の車内ビジョンで流し、コンビニのPOSデータで検証したところ、非実験エリアと比較して広告を掲出した実験エリアのほうの販売シェアが伸びていることも確認されている。

「移動を狙えば、“買う”や“行く”を作ることはできる」と中里氏は断言。そのうえで、移動者のインサイトを探ることも大切だ。朝であれば「スイッチONしたい」「1日平穏無事に」「スタートダッシュを切りたい」、夕方や夜であれば「解放感に浸りたい」「浄化されたい」「自分にご褒美をあげたい」など、さらには平日、金曜、休日でも心理は異なるため、商材にマッチした訴求タイミングを計ることも大事なポイントだという。また、「電車や駅の広告の写真をSNSなどでシェアすることがあるか」という調査においては、若年層ほどシェアする割合が高く、OOHがシェアを生み、クチコミが拡散されて話題になりやすいという調査データについても紹介した。

交通広告の強みは「ブースト効果」と「キープ効果」

次に、「OOHの価値研究」について。ジェイアール東日本企画と野村総合研究所(NRI)による共同研究の結果によると、関東圏におけるテレビCM、デジタル広告、交通広告のリーチ率を比較すると、ターゲットが広範(ALL)である場合はテレビCMが依然強いが、20-30代のリーチで見ると交通広告のほうが高いという結果に。また、共働きを含む富裕世帯へのリーチも交通広告に軍配が上がると紹介した。通学や通勤で電車を使う学生や有職者のリーチ率も高く、「都市圏の交通広告はマスへのリーチを担保しつつ、ハイポテンシャルな層への効果的なリーチが狙えるメディアだ」と中里氏は語った。

写真 人物 個人 ジェイアール東日本企画 コミュニケーション・プランニング局・中里栄悠氏

交通広告の強みは「ブースト効果」と「キープ効果」だ。通学や通勤、移動で電車を使う場合、少なくとも往復で乗車するため、広告に触れる回数は自然と多くなる。「それにより、短期で強力な瞬間風速を生み出すことができる。これがブースト効果」と中里氏は語る。たとえば、新商品発売時にOOHで駅や車両をジャックしてブランド認知を一気に高めたり流行っている感を醸成したり、キャンペーンのローンチ時にOOHを使い、若年層へのリーチを通じてクチコミを生み出し、キャンぺーンを垂直立上させたり。

一方で、「車内メディアで広告を露出し続けることで、年間通じてブランドの想起順位を上位に安定させたり、需要発生時に真っ先に検索される状態を維持したりすることもできる。これはキープ効果と言えます。」と中里氏はデータをもとに紹介した。

写真 人物 個人 ジェイアール東日本企画 コミュニケーション・プランニング局・中里栄悠氏

調査データによると、テレビ、デジタル、OOHのメディアミックス(テレデジOOH)が効果的だが、その理想配分について中里氏は「最新のデータでシミュレーションすると、テレビ50:Web30:交通20という結果が出ている。ターゲットがZ世代ならテレビ35:Web 45:交通20が理想の配分」と紹介。メディアミックスにおいて、これまでは「テレビ×他媒体」が前提にあったが、今後は「デジタル×他媒体」が主流になると予測した上で、予算が限られていたり、若年層や有職者がコアターゲットの場合など、特定の条件下ではOOHとデジタルを融合した展開(=「Oデジ」)の妥当性が高まっていくだろう、と述べ、講演を締めくくった。

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