顧客理解とUGC創出がカギになる、ファンマーケティングにおけるSNS戦略とは

自社製品やサービス、ブランドのファンを増やすことで、売上を拡大させることを目的とするファンマーケティング。ファンを増やすために、WebサイトやSNSからどのような発信をしていくべきなのだろうか。

地域企業の取り組みを紹介するマーケティングイベント「アドタイデイズリージョナル2025春」(大阪会場)が2月に開かれ、セレッソ大阪の島田皓介氏、生田修也氏はファンの熱量を価値に変えるポイントを、ホットリンクの増岡宏紀氏はUGC活用で「推奨者」を増やすためのSNS戦略について、具体事例を交えてそれぞれ紹介した。

スポーツマーケティングの特色とは

「そもそもスポーツマーケティングは、他業界に比べ、n数が不足するため判断材料が少ない」と島田氏。Jリーグであればリーグ戦は年19試合、対戦相手との試合は年1回しかデータを取得できない。そのため、顧客との対話やSNSでの投稿を確認し、顧客理解を進めていく必要がある。

写真 人物 個人 セレッソ大阪 島田皓介氏

変動要素が大きいことも特色の一つだ。メディア露出が多いという利点はあるが、チームが勝っている、選手が日本代表に選ばれる、有望選手が入るなどの良い状況であればチケット売上やグッズ売上にプラスの影響を与えるが、負けが続くと事業面の難易度が上がる。そのため、チームの勝敗に関わらず事業サイクルをまわすことが使命であり、顧客の感情変化を最大化させることを重視しているという。

アンケートとインタビューで顧客理解をアップデート

ファン数拡大に向けて、生田氏は3つのキーポイントを挙げた。

1つはコロナ禍での40%以上の顧客離反。コロナ禍で動員数が大きく減少し、2022年は動員制限や声出し制限が緩和されたが、2019年比で53%と観客が戻らなかった。ファンクラブ会員数も、2019年の約2万人からコロナ禍後は5千人減少。「コロナ禍前に行っていた施策は本当に正しかったのか、見極める必要性を感じた」と生田氏は振り返る。

2つめのポイントは顧客理解のアップデートだ。顧客が何を求めているかを知るため、まず顧客ピラミッドを再構築した。顧客ピラミッドでは一番下に「認知層」を据え、その上は興味層、応援層とした。これらを合わせた「ファンベース」は、現状98万人程度となっている。1回来場すると超ライト層、2回でライト層、3回で準ミドル層、4-9回でミドル層、10-15回でコア層、16回以上で超コア層と定義した。

写真 人物 個人 セレッソ大阪 島田皓介氏、生田修也氏

顧客理解のため、まず定量調査としてチケット購入者へのアンケート調査を行った。その結果、初回来場後にチームへの理解度が深まる傾向にあり、コアファンは情緒的価値に重きを置くこと、ライト~ミドル層は観戦体験に重きをおく傾向があることが分かった。

さらに、定性調査として既存ファンへのデプスインタビューを実施。セレッソ大阪をなぜ好きになったのかなど、細かな質問を投げかけた結果分かったことは、情緒的価値を最も大切にしているということだ。

顧客ピラミッドを元にブランドピラミッドを構築

調査結果を元にした事業部全員参加のワークショップでは、全員が意見を出し、1人のファンがコアになるまでのストーリーを作成した。そのストーリーと現施策とを照らし合わせることで、グッズやチケット販売などにおける現施策の理解を深め、不足箇所に気づきやすくなったという。

2023年にはブランドピラミッドを構築。「ターゲットに、何を、どう届けるのか」を再設定したところ、WHOは「ホームタウン在住の小学生以下の子どもを持つ父親」、インサイトであるWHATは「かけがえのない時間を、家族とともに一緒に熱狂できる思い出」、HOWは「家族を連れて行きたくなるような、安心してみんなが一体になって熱狂できて楽しめて、大阪のノリがおもしろく、さらにサッカー以外も充実したスタジアム」とした。

さらにブランドピラミッドに沿ったムービーを制作し、来場時にどんな観戦体験ができるのかを表現。戦績にかかわらず楽しめる非日常感と、安心して楽しめるスタジアム体験を強調した。

顧客の感情変化と行動に沿った施策を展開

3つ目のポイントは施策展開だ。これらの情報を元に、「試合結果に関わらず、来てよかったと思ってもらえる」施策を展開した。お笑いステージでは大阪らしいエンタメを追求し、子ども番組とのコラボやサッカーと親和性の高い音楽のライブ、満足度90%を超える照明演出など、非日常感を意識している。また、安心できるスタジアム体験として、子連れで観戦しやすい空間づくりに尽力した。また元々VIPルームだった空間を子どもが遊びながら観戦できるキッズルームに改装したり、今年からは更なるキッズ用のスペースを設置して子どもだけでなく親も一緒に休憩できる空間を作ることに取り組んでいると生田氏。

写真 人物 個人 セレッソ大阪 生田修也氏

続いて島田氏は、コア層引き上げ施策として、2回目来場に向けた施策事例を紹介した。試合翌日に選手情報を、2日ごとに試合の楽しみ方やお客さまの声、インセンティブを届けている。さまざまなセグメントに分け、毎月40~50本をマーケティングオートメーションにより実施しているという。

「今後はアプリを通じてファンとより深くつながり、各層のファンをバランスよくつくっていく必要がある」と島田氏。2024年は施策効果により入場料収入が過去2番目、ファンクラブ会員も過去最多となった。最後に生田氏は「感情変化と顧客行動は常に循環している。感情変化に注力して、ブランドを最大化させていく」と締めくくった。

お問い合わせ

株式会社セレッソ大阪

URL:https://www.cerezo.jp/

ファンではなく推奨者を増やすSNSマーケティング

SNSマーケティング支援を行うホットリンクの増岡氏は、「ファンマーケティングと相性のいい商材は限られている」と語る。相性のいい商材とは、スポーツやエンタメ、ハイブランド、ファッション、ホビー、高価格・高関与の分野だ。これら以外の商材には、ファンではなく「推奨者」を増やすことを目的としたSNSマーケティングが有効だと増岡氏は強調する。熱量の高い愛好者を指す「ファン」に対して、推奨者とは、「商材を気に入っているが他の商品も買う」、「誰かに聞かれたら良いと答える」人々である。

写真 人物 個人 ホットリンク 増岡宏紀氏

ファンマーケティングと相性がよくない商材にとって、コミュニティサイトの立ち上げや購入回数などでのランク付けという打ち手は、成果が出づらい。その理由は、ファンが定着せず一定期間たつと閑散とすることや、購入回数を増やすためにクーポンなどを配布し、ただの割引プログラムと化してしまうこと、盛り上げるためにイベントやコンテンツを投下する必要があるが、投資対効果が合わないことが挙げられる。そこで必要となるのは、「囲わずにオープンな場でUGCを創出すること」、「新たなコミュニティは作らず、既存のコミュニティにお邪魔すること」だ。

SNS戦略で重視すべきUGCの創出

コミュニティ施策というと、自社主導でクローズドな場を立ち上げ、顧客を囲い込むイメージを持たれがちだ。しかし、消費者の可処分時間には限りがあり、自社の特設サイトに誘導し、そこで時間を使ってもらうことは簡単ではない。

さらに、クローズドな場にしてしまうと、せっかく良質なUGCが生まれてもサイトの外には届かず、新規顧客の獲得にもつながらない。明確な目的がある場合を除き、消費者を囲い込むのではなく、SNSなどオープンな場で生まれる会話に入り込み、そこから盛り上がりを生み出していく方が有効だ。

UGCは情報の信頼性が高く、行動転換(態度変容)が起こりやすい、シェアされやすく多くの人に届くといった特性を持つ。ホットリンクが提唱するUGC起点の購買行動プロセス「ULSSAS(ウルサス)」では、U:ユーザーが写真付きで投稿する L:利害関係のない第三者がお勧めしているため、深い興味を持つ S:興味を持ち、SNS上でも同じようなUGCが出ているかをSNS検索で確認 S:SNS検索の結果、人気なんだと認識すると、詳細を知るためにYahoo!やGoogleで検索 A:店舗に足を運び、商品を購入する S:購入した商品の写真を撮り、SNSに投稿する、としている。

写真 人物 個人 ホットリンク 増岡宏紀氏

また、ホットリンクが行った調査によると、口コミは指名検索と相関があり、指名検索は売上と相関しているという調査結果が複数の企業・ブランドで実証されている。 SNSマーケティングにおいては、推奨者のUGCによって新たな購買者を創っていくことが重要だと増岡氏は語る。

UGCを増やすための3つのステップ

では、どうやってUGCを増やしていけばいいのだろうか。まずは、自社の商品やサービス、ブランドについてUGCが創出されているかを確認。さらに長期間でのUGC投稿数の推移などを確認すると良いだろう。

続いて、UGCの内容を確認し、いつ、誰が、どのようなことを言及しているかを分析する。

そもそもUGCが投稿されていない場合は、購入者の感情を動かせていないため、まずはUGCを増やすための施策が必要だ。ブランディングの軸を作り、どんなUGCが出れば売上につながるかを考えなければならない。まずは、「自社ブランドといえば、〇〇⇔〇〇といえば、自社ブランド」という方程式を完成させてみてほしい。

次は、作成した軸を踏まえた継続的な発信を行う。「このブランドといえば〇〇」と認識してもらうために、発信内容に統一感を持たせることが重要だ。すでにユーザー側に〇〇が一定浸透している場合は、〇〇に結びつくようなUGCが出るように促し、露出させる。露出したUGCは積極的に、企業公式がハブとなって拡散し、多くの人の目に留めてもらうことが最も重要だ。

UGCの呼びかけはいつ、どうやるべきか

そもそもUGCが生まれるタイミングは、何かしらの変化や刺激がユーザーに起きた時だ。「認知(知らない⇒知った)」「興味(つまらない⇒面白そう)」「欲求(いらない⇒欲しい)」「行動(持ってない⇒買った)」「推奨(こんなものだろう⇒想定以上)」「返答(無意識⇒意識)」「事件(平凡⇒アクシデント)」のうち、「返答」のタイミングで呼びかけるのが良いと増岡氏は話す。呼びかける際のポイントは3つあり、自分ゴト化できるユーザーの母数ができるだけ多いこと、投稿するハードルができるだけ低いこと、ユーザーが「投稿したい!」と思えることだ。

ただし、いきなりUGCを呼び掛けても応えてもらいづらいため、段階を経ることが必要になる。最初は「いいね」を促すことから始めて、リポスト、リプライ、引用、投稿という順にステップを踏んでいくと良い。

写真 人物 個人 ホットリンク 増岡宏紀氏

SNSにはコミュニティが多く存在している。そのため、新しいコミュニティサイトを創るより、投稿が活発な既存コミュニティに入り込む方が効果的だ。その際は投稿内容を分析し、対象とするコミュニティに響く発信を実施していくべきだろう。まずは自社商品について語ってくれるコミュニティを把握することが第一歩となる。増岡氏は「企業がファンを囲い込むような閉じた戦略ではなく、既存のコミュニティに自然に溶け込み、SNSというオープンな場での自発的なクチコミを促進する方法こそが、より広範囲の顧客にリーチし、効率的に売上向上につながります」と締めくくった。

お問い合わせ

株式会社ホットリンク

アドレス:solutionsalesdev@hottolink.co.jp
URL:https://www.hottolink.co.jp/

advertimes_endmark

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ

    マーケ資料ダウンロード