自社の強みを備えた唯一無二のサービス、業務効率化を徹底させるサービスを生むヒントとは?

課題解決に向けて少人数で話し合う「テーマ別研究会」。2025年3月19日には「AI研究会」のカンファレンスが行われ、味の素の勝美由香氏、楽天の小林悠輔氏が登壇。自社におけるAIの活用事例について紹介した。

メーカーの枠を超えた事業展開を考え、AIに着目

味の素グループは、「アミノサイエンスで人・社会・地球のウェルビーイングに貢献する」をパーパスとして掲げ、2030年までに環境負荷の50%削減、10億人の健康寿命延伸の両立実現を目指している。

味の素は、食品や調味料、サプリメント、医薬品などの製品を販売しており、その研究や製品の企画開発のプロセスの中でさまざまな知見やノウハウが蓄積されている。企業としての資産や価値をこれまで以上の多くの人に届けるために、メーカーとしての枠を超えた事業展開を考え、デジタルやAIの活用に着目した。

写真 人物 味の素の勝美由香氏

自社の強みをAIに実装し、サービスを展開

味の素は自社らしさを深掘りし、健康面での正しさと食の楽しさの両立が必要だと再発見した。そうして、減塩や減糖・減脂技術、様々な食の現場に向き合ってきた管理栄養士が持つ知見やノウハウをデジタル技術と掛け合わせ、より多くのエンドユーザーにソリューションを提供することに。そこで、作られたサービスの1つが、献立検索エンジンを活用したサービス「未来献立」だ。味の素独自の栄養評価基準に基づき栄養バランスが考慮された献立を、最大8日分提案するサービス。栄養バランスが偏った場合でも、栄養の辻褄合わせを叶える献立を提案してくれる。

2つ目は、保険会社様の自社アプリ内の1つの機能だ。2023年11月から献立作成エンジンの機能を提供しており、ユーザー属性や健康課題に応じた献立テーマ、使用したい食材に応じて、パーソナライズ化した献立を提案する。

特に「未来献立」のリリース後はいくつかのメディアで取り上げられ、「AIと食への興味の強さを感じました」と勝美氏は話す。

勝美氏は最後に「AIは目的達成のための手段であり、活用することが大事」だと話す。自社の強みは何か改めて考え、その強みとAIが掛け合わさった時に唯一無二のものが生まれる。今後は顧客データを収集し、AIでどのように活用するかを模索しているという。

質疑応答では、「AIの活用は手段であると社内で認識を合わせる方法について教えてほしい」との質問があがった。「味の素では、第三者にあたるベンダーの方に社内会議などにも参加していただき本当にAIを活用することで価値が出せるか否かをフラットに意見をいただいたりしました。そこでAIを活用すべきかどうか一緒に考えました」と勝美氏は答えた。

写真 人物 味の素の勝美由香氏

事業を分類してAIを活用し、効率化を図る

楽天のコマース&マーケティングカンパニーは、楽天市場、楽天トラベル、楽天マガジン、Rakuten Musicなど、お買い物や生活、レジャー、エンタメと幅広いインターネットサービスを提供しており、そのサービス内でAIを活用している。

楽天は、AIを活用した業務効率向上プロジェクト「トリプル20」を策定し、マーケティング効率、オペレーション効率、クライアント効率それぞれで20%ずつ向上させることをめざしている。2024年度はカスタマーサポート、AIコーディング、広告、ユーザーの意図を理解して関連性の高い情報を提供するセマンティック検索の導入を行い、約100億円の利益創出を実現。2025年にはその2倍を目標としている。

AIの導入方針としては、「整理」「生成」「分析」の軸に広告領域、マーケティング、ナビゲーションなどそれぞれの業務を分類し、効率化を図った。現在はAIを活用した案件を400以上創出している。(2024年12月時点)

写真 人物 楽天の小林悠輔氏

楽天市場におけるAI活用

楽天では、楽天市場を利用する店舗向けに店舗運営支援ツール「RMS AIアシスタント」を提供している。商品管理、問合せ管理、RMSチャットボット、売上データ分析「R-Karte」の機能がある。

小林氏は活用事例を紹介した。「雑貨ショップドットコム」は商品画像加工支援AIを活用し、商品画像の作成時間が短縮され、リソースを90%削減。その結果、新規商品登録数も増加し、流通拡大につながった。

「ワインショップソムリエ」は、報告資料の作成時間を大幅に短縮し、他業務への注力が可能に。「樽の味」は、商品画像に対するフィードバックにAIを活用し、広告パフォーマンス(ROAS)を1.5倍向上。「Smart Light」は、大型セールのAI分析により、注力すべき商品を絞り込み、販促・マーケティング業務を強化できるようになった。

リリースから1年経過するが、現在は約3.6万店舗が「RMS AIアシスタント」を一度は利用したことがあり、そのうち2割は日常的に活用しており、特に顧客対応のメッセージ作成や商品説明、背景画像生成に関する機能が好評だという。AI機能を利用する店舗様を増やすために、リアルで店舗様、ECコンサルタント、開発者が一堂に集まるオフラインイベントを開催したり、オンライン講義を通じて、数多くのAI活用事例を紹介することで、店舗様のAI活用を促している。また、品質管理においても、AIを活用し、模造品などを機械学習でモニタリングしている。

社内では、ECコンサルタントの業務効率化にAIを活用。競合分析、アイデア出しなどでAIを活用し、店舗のサポートを図っている。業務で生成AIを活用しているECコンサルタントは約9割で、約4人に1人が自ら生成AIを使っている。今後は、出店店舗のコンサルティングにおいても、AIを活用し提案の質の向上を目指していく。

最後に小林氏は、今後の展望・課題について紹介した。CS基盤づくりとしては、蓄積されたデータを軸に、電話からチャットへ流入を誘導することで無人チャネルを広げ、顧客応対の効率化を図っていくという。ECコンサルタント向けには、データ分析・提案ソリューション改善のために、顧客データ分析へのAI導入、議事録・文書作成、ナレッジの体系化を図っている。

今後は、最適なモデル選定、AIの精度評価の検討、社員やクライアントへのAI導入に関するモニタリングの強化に取り組む予定だ。小林氏は、AIを推進した2024年を振り返り、「AI人材を育てること、AIを活用するというトップからのメッセージ、明確なゴール設定が必要」とまとめた。

写真 人物 楽天の小林悠輔氏

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