地域企業の取り組みを紹介するマーケティングイベント「アドタイデイズリージョナル2025春」(福岡会場)が3月に開かれ、三好不動産の森岡誠氏は、Z世代との価値共創を目指すシェアアパート「TOKYO<β>」(トウキョウベータ)」の取り組みについて、西部ガスの松元亮氏は、エネルギー自由化を勝ち抜くためのマーケティングDX推進について、それぞれ紹介した。
「夢を追いかける若者」向けにリブランディング
三好不動産が本社を構える福岡市の唐人町はかつて遠洋漁業が盛んな町であり、漁師からの「万が一のときに家族を守ってほしい」という要望から賃貸住宅経営を提案。不動産業が本格的に始動した。2018年頃には女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」の経営破綻が社会問題となり、そのイメージを脱却すべくリブランドし立ち上げたのが、シェアアパート「TOKYO<β>」だ。現在は東京23区を中心に都内1200棟以上を展開しており、業界最大手となっている。
シェアアパートとは、居住はそれぞれの個室に分かれ、キッチンや洗濯機、シャワー、トイレなどの水回りは共用部に設置されているものを使用するといった賃貸物件を指す。1室あたりの家賃は周辺の他物件より安く抑えることができ、安価でミニマムな暮らしを東京で始めたいという「夢を追いかける若者」をターゲットにしている。敷金・礼金不要で、家具・家電付き、月々の水道代や光熱費も家賃に含まれている。
リブランディングのコピーは「東京で仮住まいを見つけよう。」。ちなみにブランド名のβは、ソフトウェアのテスト版を指す「β版」が由来となり、若年層や外国人にとっての「仮住まい」という意味合いが込められている。
フェーズ1~4まで段階的な施策を運用
ブランディングに際しては、2022年の立ち上げから1年ごとに、フェーズ1~4まで段階的なプランを設定した。フェーズ1となる2022年は移行期として、ブランドの生まれ変わりを宣言することを目的に据えた。管理レギュレーションの整備や、入居者ツールの段階的な導入、サービスの安定に取り組み、メディア向けにプレスリリースを積極的に展開。ウェブサイトも立ち上げ、ターゲティング広告や不動産ポータルサイトのバナー広告などを、空室率などに応じた月ごとの予算設定をして運用していった。
具体的な取り組みとしては、サービスの拡充として、スマホで施錠できるスマートロックを全物件に導入。また、一部の物件にはシェアリングバイクのポートを設置し、駅と自宅がキックボードで行き来できるようにした。そのほか、起業を目指す入居者のクラウドファウンディングを支援するCAMPFIREとのサービス連携や、ファッションサブスクのお試し実施に取り組んでいる。
そして、リブランディングをPRするために、LINEアカウントを開設し、自分に合った街を診断するコンテンツを制作して配信したり、JR東日本のトレインチャンネルやYouTube、Instagramで実際の入居者が出演する動画を配信したりした。
入居者インタビューをSNSなどで公開
2023年にはフェーズ2として、ターゲットのZ世代に向けたブランド認知向上を図った。かつて著名な漫画家を輩出したトキワ荘があった豊島区にWEBTOONクリエイターが住む「MANGA-SO」をつくり、1年間家賃無料で提供。そのほか、起業を志す若者が所属する私塾「MAKERS UNIVERSITY」や「MAKERS U-18」と連携し、奨学金(審査あり)で最大1カ月の空室利用権を無償で提供。「若者の夢を応援する」という企業の姿勢を体現した。
また、入居者に上京理由や暮らしぶりをインタビューしてHPやTikTokに掲載したり、YouTubeとAbemaTVでドキュメンタリー風動画を制作して配信したり、noteで入居者が上京時の心境や居住している街の魅力を紹介する記事を掲載したりと、多方面からZ世代にアプローチした。
2024年のフェーズ3では、TOKYO<β>が若者に寄り添うブランドであることを世間に対して訴えることを目的とした。羽田空港に看板を掲出したり、タクシー車内やテレビCMでサービスを端的に伝える動画を広告出稿したりした。一方で、日経新聞に15段カラーの純広告を出稿。直接のターゲットではないビジネス層に向けて、TOKYO<β>がZ世代に価値があるブランドであることを広く認知させることで、投資対象としても優れていることを伝えることを狙いとした。
フェーズ4となる2025年は成長期。「夢を追う若者を応援するだけでなく、まだ夢が定まっていない若者も応援する『夢を探す拠点となる住まい』、そして夢が叶う、自分の可能性が広げられるというような評判が広がる『入居者が入居者を呼ぶブランド』をキーワードにブランディングを進めていく」と森岡氏は述べた。
ガス小売全面自由化を機にDXを強化
北部九州で都市ガス事業を展開する西部ガスは、ガス小売全面自由化により、それまで築いた顧客基盤のうち、約1割をわずか1年の間に失った。そこで、「顧客の獲得」「新サービスの開発」をミッションに掲げ、マーケティングDXグループを発足させた。
ところがマーケティングDXグループのメンバーは西部ガスのプロパー社員で、マーケティングもデジタルも専門外。自分たちだけではマーケティングDXを行うことが難しいと考え、システム構築やフロントデザイン、Web広告、イラストレーター、印刷物、お客さま対応など各分野で強みを持つ社外パートナーとプロジェクトごとにチームを編成することとなった。
データとAIを掛け合わせ、顧客ニーズを探る
松元氏は3つのプロジェクト事例をもとに、施策を紹介した。まず1つは、データとAIを掛け合わせて顧客ニーズを探ったこと。それまで、ガスの契約情報や購買情報、修理情報など、各システムでデータを管理していたため、統合的に活用できなかったことが課題だった。プロジェクトを始動しても、海外を含む多様な関係者と電話やメールで連携することになり、情報が分散し、連携不足によりスムーズに進められなかったと松元氏は振り返る。
そのため、プロジェクト管理ツールを活用。直感的な操作性により、外国人や新入社員もすぐに使いこなすことができ、メールや電話で連絡をせずとも、管理ツールのみでタスク管理が明快となり、複数のプロジェクトを円滑に同時進行することが叶ったという。それにより、各システムのデータを紐づけてAIで分析し、施策に活用できるよう集計。リフォームニーズを探ることに成功するとともに、さまざまなニーズ予測に適用し、営業効率の向上に活用している。
フラットでオープンなコミュニケーション
2つ目の事例は、2024年12月にリリースしたサイト「SAIBU LAND」。エネルギー自由化に加え、人口減少、省エネなどの外部環境がある中で、「エネルギー事業だけに頼っていいのか」という考えのもと立ち上げた事業だ。それまで顧客とは契約書しかつながりがなく顧客情報が希薄だったため、「お客さまとのつながりを深化し、新しいサービスの展開もする」会員基盤をつくるべく、マーケティングDXグループと6社49人の協力体制で立ち上げた。協力会社にはベンチャー企業もあれば、フリーランス、大企業もあり、働き方や風土、価値観が異なる中で松元氏が大事にしたのは、メンバーが同じ目標に向かい、タスクを管理し、プロジェクトを推進する「チームワークマネジメント」だ。
サイト名やコンテンツ内容を考えるという早い段階からチーム全体を巻き込むことで、メンバーみんなに当事者意識を持ってもらい、プロジェクトへの愛着が沸くようにも意識した。また、すべての情報とコミュニケーションを一元化し、獲得したナレッジはすべて共有するなどオープンなコミュケーション、発注者と受注者の垣根をなくし、誰もが自由に提案し、リードできるフラットな関係性を築いた。
それにはリアルで顔を合わせる機会を持ったことが奏功したという。「お互いを知ることで、コミュニケーションの心理的ハードルが下がり、困っていたら助け合ったりアイデアを提案したりするチーム力が向上した」と松元氏は明かした。
「SAIBU LAND」はLINEで登録&入園することができ、開始から2カ月で会員数は6万3439件に。登録者の6割が西部ガスの事業エリア外であることも判明し、現在は全国のお客さまが利用できるサービスの拡充も課題に掲げているという。
アンケートフォームは自作し、自由度や活用度を高めた
3つめの事例は、お客さまの声をマーケティングの基礎にするというPDCAサイクル。着想・企画をしたらテストマーケティングをし、検証・改善。KGIが達成できたら、担当部署に引き継ぎをし、未達であればプロジェクトを撤退する。検証・改善のフェーズにおいて、顧客からのフィードバックは不可欠だという。その際のアンケートにおいて、統計データだと俯瞰して見るだけで終わってしまうため、1to1データに注視。それにより、顧客データベースが充実し、分析特徴量の充実、さらにはさまざまな企画の確度向上につながっている。
しかし、自由度の高いアンケートを外注すると費用が高くなってしまったり、無料のアンケートフォームではデータの紐づけが大変になってしまったりなどの課題が立ちはだかったため、自分たちでアンケートを作成することにした。SMSやLINE、メールなど好きなチャネルで送信し、送信先ごとにユニークURLを自動生成することで顧客データとの紐づけも容易となった。また、回答完了ページでギフトが受け取れるようにすることで回答率も上がった。
最後に松元氏は「専門家が社内にいなくてもDXはできる」と断言。そのポイントとして、「外部の力を活用すること。そして、チームワークマネジメントを大事にし、オープンなコミュニケーションとフラットな関係性を築くことが、プロジェクトを円滑に進める鍵となる」と語り、講演を締めくくった。

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