地域を駆け回り、地域を編集する、自治体広報の仕事(金野暁さん)

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているのでしょうか。本コラムではリレー形式で、自身の考えをお話いただきます。栗原市の伊藤宏文さんからの紹介で今回登場するのは宮城県涌谷町の金野 暁さんです
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金野 暁氏

宮城県涌谷町役場 企画財政課企画班 主任主査

大学卒業後、仙台市で広告会社に勤務後、平成25年4月に涌谷町役場に入庁。入庁以来12年間、広報を担当。現在は、広報のほか、地域おこし協力隊やふるさと納税も担当。

Q1.現在の仕事内容について、教えてください。

日本初の産金地・涌谷町の金野暁と申します。はじめに、涌谷町について、簡単にご紹介させていただきます。

涌谷町は、宮城県の県庁所在地・仙台市から北に約50㎞のところに位置し、平成の大合併を選択しなかった人口1万4千人ほどの自治体です。

天平21(749)年に、時の天皇・聖武天皇が国家安寧のため、平城京で東大寺の大仏の造営を進めている中、当時は日本で金は採れないといわれおり、海外に頼っていた鍍金用の金が不足し、完成が危ぶまれていたところ、百済王朝の末裔となる百済王敬福が、涌谷町の地で日本初となる金を産出し、完成へと導きました。

金の産出を喜んだ聖武天皇は、元号を「天平」から「天平感宝」へと改元するほどの国家的一大事が起こった地となります。

令和元年に、その歴史・文化に基づいたストーリー「みちのくGOLD浪漫―黄金の国ジパング、産金はじまりの地をたどる―」が文化庁によって、日本遺産に認定されました。
また、宮城県内有数の桜の名所として、「樅木は残った」で知られる涌谷伊達家居城跡の城山公園には、毎年、数万人の花見客が訪れます。

そのような歴史・文化が香る涌谷町において、入庁以来12年間にわたって広報業務に携わってきました。月に1回発行される「広報わくや」や公式ホームページ、SNS(Facebook、Instagram、X、Threads)、動画コンテンツ(YouTubeなど)のほか、日本遺産「みちのくGOLD浪漫」にかかわる情報発信(ホームページやSNS、動画コンテンツなど)、広報関連として涌谷町の個人版ふるさと納税にかかわる返礼品開拓、企業版ふるさと納税にかかわる寄附検討企業との折衝、地域おこし協力隊の採用・日々の業務管理などを担当しています。

写真 桜の名所 涌谷伊達家居城跡の城山公園

写真 風景

写真 風景

写真 風景

Q2.貴組織における広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。

涌谷町の広報担当は、月に1回発行される「広報わくや」の企画・取材・撮影・編集のほか、公式ホームページ、SNS、動画コンテンツを基本としながら、商工観光・農林振興を担当する産業振興課や子育て支援課、健康課、地域おこし協力隊、地元企業・団体・個人などと連携し、写真素材の撮影や各種メディアを活用した情報発信に携わっています。

Q3.ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。

私が最も大切にしていることは、現場に出ることです。

現代では、インターネット・SNSといった情報メディアが発達したことで、机に座っているだけで、さまざまな情報を得ることができます。ただ、そこで得られる情報は、氷山の一角でしかなく、その奥にもっと大切なことが眠っている可能性があります。地方においては、そのような情報メディアには載らない隠れた魅力や課題が多く眠っています。

そのような地中に眠っている「黄金」のような情報を求め、庁内では他課に踏み込み、町内外を問わず、涌谷町にとって有益な人物・モノ・コトを掘り起こしてまいりました。

町民のよりよい暮らしにつながる行動変容を促す情報提供や町外からの交流人口・関係人口・移住定住を促進するための情報発信をするため、現場に足を運び、自ら見聞きした情報を編集するとともに、その情報が伝わりやすくなる写真を撮影し、磨き上げて発信することを心がけてきました。

その考えの根底にあるのが、無関心は地方衰退の最大の敵ということです。その町の住民が「うちの町には何にもない」と自信を持って話す地域に、町外から観光に訪れたい、移住したいとはなかなか思われないのではないでしょうか。涌谷町に暮らす皆さんに、「涌谷町にはこんなすばらしい場所がある。すばらしい歴史がある。暮らしがある」と誇りを持ってもらえるよう、まずは地元に関心を持ってもらう。そのためには、自分自身が現場に出て、地域と向き合わなければいけないと行動してきました。

地元の涌谷高等学校を取材した際には、少子化の影響で定員割れが深刻化する中、全国に誇れる活躍をする美術部を特集し、部員がどのように奮闘し成果を生んでいるのかを紹介することで、部員の皆さんのモチベーションを向上させるとともに、今後の志願者・入部希望者の増加を図りました。その後、毎年のように、全国高等学校総合文化祭への出品を果たすとともに、地元に暮らす卒業生たちから支援が寄せられました。

誌面 地元の涌谷高等学校を取材した記事

誌面 地元の涌谷高等学校を取材した記事

地元の涌谷高等学校を取材した記事。

さらに、私自身が自ら現場に出ることで、取材先の方にとっては、取材そのものやその後の反響がモチベーションの向上につながり、さらには、情報発信によって新たな人と人とのつながりが生まれ、新たなまちづくりが動き出すこともしばしばあります。

一例として、私自身も実行委員として携わっているイベント事業をご紹介します。広報業務を通じて知り合い、親しくなった町民有志の皆さんとともに、コロナ禍から子どもたちの失われてしまった思い出づくりの機会を何とかしたいと、飼料用とうもろこし畑を活用した巨大迷路「真夏のとうもろこし巨大迷路ゴールドデント777WAKUYA」を令和2年に始めました。令和6年夏の開催では、迷路イベント会場となる田園地帯に、2日間で3,200人を集客し、令和6年度に一般財団法人地域活性化センターが主催する「ふるさとイベント大賞」で最優秀賞(総務大臣表彰)を受賞するといった成果にもつながってきました。

写真 巨大迷路「真夏のとうもろこし巨大迷路ゴールドデント777WAKUYA。

巨大迷路「真夏のとうもろこし巨大迷路ゴールドデント777WAKUYA。

Q4.自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。

偉そうな物言いかもしれませんが、自治体広報の仕事は、広報を編集するため、思いを持って現場に出ることは、よりよい地域へと編集する一翼を担える仕事と感じています。

特に涌谷町は、平成の大合併を選択しなかった小規模自治体のため、大規模な自治体に比べ、地域資源や財政力は限定的です。

だからこそ、自らが思いを持って現場に出ることで、ヒト・モノ・コトを何度も掘り下げ、磨き上げることで、他の自治体に負けない魅力を引き出すことができます。さらに、自らがその行動をとることで、取材先のヒト・モノ・コトとのつながりを作ることができ、何物にも代えがたい財産とすることができます。

また、広報の苦労する点としては、私自身、入庁以来、異動したことがないのですが、12年間にわたって積み上げてきた思いやヒト・モノ・コトとのつながりは、単純に業務として引き継ぐことは難しいと感じています。

公務員である限り、いつかは人事異動によって、現所属を離れなければなりません。文章の書き方や写真の撮り方、情報の編集など、技術的なことは伝えられても、その前段の広報担当として、なぜ現場に出ることが大切なのかを理解し、実践してもらえるようになるかが、喫緊の課題です。

ただ、単なる技術の引継ぎだけではなく、自ら思いを持って行動し、ヒト・モノ・コトとのつながりを生み出すことができる、地域を編集する広報マンを庁内に一人でも多く増やしていくことができれば、涌谷町が小規模自治体でありながら、他の自治体に負けない黄金の輝きをまとった魅力ある町にしていくことができるのではないでしょうか。
そのためにも、共感し行動してくれる同志を増やしていきたいと考えています。

【次回のご担当者は?】

奈良県宇陀市秘書情報課 森山博之さんです。

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