購買行動を捉え、新たな価値を創出する、リテールメディアの活用戦略

宣伝会議は2024年12月より、講演や対談会で1つのテーマを深堀りする「テーマ別研究会」を開催している。2025年2月12日には第2回リテールメディア研究会が行われ、カルビーの松永遼氏と吉田誉朋氏が登壇。リテールメディアの導入背景や実店舗での事例、これからの活用戦略について講演した。

写真 人物 カルビーの松永遼氏と吉田誉朋氏

リテールDXで消費者行動を分析し、買い物体験を便利に

カルビーはポテトチップスやじゃがりこ、堅あげポテトなど数々のヒット商品を生み出しているスナック菓子メーカー。松永氏が所属するリテールサイエンス部は2022年に設立され、「お客さまの買い物体験をより便利にし、パートナー企業とカルビーのファンになってもらうこと」を目標に掲げている。松永氏は「リテールDXという形で、リテールメディアを含め、流通と自社のデータを組み合わせてどんなことができるか、お客さまにどんな付加価値を与えられるかを軸にしている」と活動内容を説明した。

目標達成に向けて松永氏が注目しているのは、顧客の購買行動が分かるID-POS。量販店やCVSからID-POSを預かり、購買データからニーズを推察し、お客さまへ向けて新しい価値を創出することを目指しているという。

異業種横断で取り組むリテールメディア分科会の活動

新たな価値創出への取り組みの一つとして、松永氏はカルビーが参加しているリテールAI研究会内のリテールメディア分科会の活動を紹介。リテールメディア分科会は、「リテールメディアの使い方を、小売りやメーカーが一緒になって考え、お客さまにとって魅力的なツールにしていくこと」を目的に立ち上がった研究会。松永氏は、リテールメディア分科会への参加の意味をお客さま視点で捉えたときに、生活の中にはお菓子だけではなく、いろいろな商品が登場する。そのためには、メーカー横断、部門横断で取り組みをすることが必要であると考えた」と語った。

また、お菓子という商材はリアル店舗での購買がメインとなるため、顧客との最終タッチポイントである店頭でのコミュニケーションが重要となってくる。松永氏はリテールメディアについて、お客さまの近くでアプローチできる」「消費行動をトラッキングして効果検証や即時対応が可能」「お客さまの購買決定が短縮できる」といった魅力を語り、「新しいメディアとしての可能性を感じている」と言葉に力を込めた。

リテールメディア分科会は、現在3rdシーズンまで研究が進んでいるという。松永氏は「1stシーズンではローソン様でのカルビー商品の訴求、2ndシーズンではマツキヨココカラ&カンパニー様とスナック菓子とビールとの併買の訴求、3rdシーズンではツルハホールディングス様との実店舗での購買とお客さまの導線に関する研究を行った」とこれまでの活動を説明した。

写真 人物 カルビーの吉田誉朋氏

関連販売と導線分析でリテールメディアの可能性を拡大

講演の後半は吉田氏が登壇。3rdシーズンに行われた研究の経緯と結果を解説した。

吉田氏は「2ndシーズンでの実績から関連販売の増加とリピートの定着は見られたが、売り場に実際送客できたのか、売場までのお客さまの導線が分からなかった」と振り返る。その結果を踏まえ、3rdシーズンでは「絶品かっぱえびせん」とビールの関連購買の顧客導線を突き合わせるという取り組みに挑戦。顧客導線を測るため、買い物かごにセンタータグを搭載し、店内に設置されている受信機が顧客動線を50cm単位で追跡。年代や性別ごとに、棚前での行動から最終的な購買に至るまでのプロセスを、タイムスタンプを用いて可視化できるようにしたという。

また、顧客が売り場に近づいた際にサイネージで流す映像を切り替えるという実験も同時に行い、サイネージ訴求によって商品の購入数が高まるか、商品とビールの関連購買が伸長するか、サイネージと導線分析によりスナック売り場からお酒売り場へ送客できるかを検証。結果は「絶品かっぱえびせん」の売り上げは約6倍となり、ビールのリフト値もアップ。「絶品かっぱえびせん」とビールの関連購買が高まった傾向が見られた。

「絶品かっぱえびせん」とビールを買ったお客さまの動きにおいて、吉田氏は「このドラッグストアの店舗では、通常右回りの買い物の動きが多く見られるが、お菓子やビールを買うお客さまは売り場へ直接向かう傾向が見られた」と報告。中でも、冷ケースでビールをカゴに入れた後に、スナック菓子売り場に足を運ぶ人が多いことが判明した。

これらの結果から吉田氏は「お客さまは『つまみに合うお酒』ではなく、『お酒に合うつまみ』を買い求めている」と分析。今後の「絶品かっぱえびせん」の販促において、「ビールに合うスナックという表現を、どこまで出していくか、ビールを買ったお客さまに対してどうアプローチしていくかなど、考えていかなくてはいけない」と、次のステージに繋がる気づきがあったことを明かした。

松永氏はこれまでの研究結果を踏まえ、「お客さまの環境や状況、文脈をしっかりと知った上で訴求や商品を考えることが、今後のリテールメディアのチャレンジである」と展望を語り、講演を締めくくった。

イメージ 図 導線データ

カスタマージャーニーの描き方、思わず見たくなる映像が鍵

講演後は質疑応答の時間が設けられた。「リテールメディアへの取り組みに向けて壁はなかったか」という質問には、松永氏は「社内への説明と理解」と回答。「リテールメディアの可能性や流通との取り組みについては、社内へのディスカッションを重ねている」と前置きし、「リテールメディアを営業の中に閉じてしまわないこと」「マーケティング部にリテールメディアの使い方をアプローチすること」の重要性を説いた。

「リテールメディアの実証実験の効果について感想を聞きたい」との質問には、松永氏は「回数を重ねないと分からない部分があるが、リテールメディア単体で稼働しても効果は少ないと感じている。さまざまな小売業や流通業と協力をして、顧客が来店する前や買い物中にどんな仕掛けをするか、購入後にどう最大化するのかという、カスタマージャーニーの描き方がポイントになってくる」と回答。吉田氏は「サイネージで流す映像について、商品認知に特化したCM自体はあまり店頭では反響がないと分析している。思わず見たくなる、手に取りたくなるようなクリエイティブ制作が重要」と答えた。

advertimes_endmark

写真 人物 カルビーの松永遼氏と吉田誉朋氏


この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ