音部:その方が現場は迷わないですよね。一方で、「目的の再解釈」を考えることはクリエイティブな行為で、戦略を立てる際の醍醐味ともいえます。上長がやらないのであれば自分(担当者)がその楽しいところを担当してしまえばいいかなと。
「目的の再解釈」の項目で、「再解釈されると『単位』が変わる」と記しました。具体的には、「20億円の売り上げ拡大」を目的とした際に、平均的な購入単価と購入回数から試算して、本書では「73万人の新規ユーザー獲得」と再解釈しました。単位が「円」から「人」に変わったわけです。
「73万人」の新規ユーザーと設定すると、「20億円」よりもマーケティング部門にとっては施策が打ちやすくなりますよね。金額を回数や人数で表現できるように再解釈すると、広告などの手段で実現しやすい数字になる。KPIはKGI達成のためのプロセスを示していますが、目的の再解釈は目的達成のプロセスを示すというよりも、目的そのものを記述しなおしていると思います。
田中:確かにマーケターとしての醍醐味といえますね。目的の再解釈ができることを一つのステップと捉えてもいいのかもしれません。
音部:その次に、戦略の目的をどうブランドに落とし込むかという話になります。私はブランドについて「ベネフィット(便益)創出に関わる『意味』」と考えています。ブランドについて考える時に「モノ」として考えないことが重要です。
例えば、紙おむつブランドの「パンパース」はモノとしては技術の進化とともに大きく変化しましたが、ブランドは以前と同様に存在しています。パンパースは「紙おむつ」というモノを売っているのではなくて、私が担当していた当時は「子どもの発育を助けること」をベネフィットとしていました。このベネフィットこそが「WHAT(何を)」なので、時代と共にモノが変わっても、ベネフィットを満たしていればプロダクト・ライフサイクルを超えて存在し続けられます。
この「WHAT(何を)」がどう戦略に寄与するのか、本書を書き終わってから気づいたことがあります。例えば、さきほどの20億円の売り上げ追加という目的は、ブランドマネジメントにおいては、価格で示されるベネフィットと、そのベネフィットを欲しいと思える対象者の人数で再解釈することができます。ここでブランディングと戦略がつながっていくのです。