地域に根差した取り組みを紹介するマーケティングイベント「アドタイデイズリージョナル2025春」(大阪会場)が2月に開かれ、電通関西オフィスの古川雅之氏と廣瀬泰三氏は好かれるブランドづくりについて、ディー・エヌ・エー(DeNA)の稲垣伸太郎氏と萱島崇氏はライブコミュニケーションアプリが提供する広告ソリューションについて、それぞれ講演した。
メッセージをぶらさず視聴者ファーストを貫く
消費者から親しまれるブランドとは、どのようなブランドなのだろうか。またどうすれば「好かれるブランド」になれるのだろうか。電通のクリエイティブディレクター・古川氏は「ブランドとは企業の人柄である。バーパスや理念、サービス、歴史などさまざまな要素から成り立っており、広告もその要素の一部である」と語る。
世の中には広告が多数存在し、目に留めてもらえるのはほんの一部。古川氏と廣瀬氏は、工夫とアイデアを凝らした電通の広告施策により企業のブランド価値を向上させた4つの事例を紹介し、ブランディングに有効な考え方を明かした。
1つ目はロート製薬の事例。ロート製薬は「ロートといえば目薬」という印象が弱くなっているという課題を抱えていた。そこで目を付けたのが、10月10日の目の愛護デー。「目の健康を本気で考えていることをメッセージにする」「目の愛護デーを風物詩にする」という2軸で取り組みを進めたという。
2021年の愛護デー企画は「巨大QRコード新聞広告」を実施。新聞全15段を埋め尽くす大きな二次元コードを読み取るには紙面から少し離れる必要があり、読み取ると画面には「目のためにこれくらい離れましょう」という画面が表示される。廣瀬氏は「何か商品を売ろうとするわけではなく純粋に目の健康を守るためのメッセージになっている」と、施策の意図を明かした。
2022年には「目の愛護車両」を企画し、目に優しい緑色の広告で電車内をジャック。「文字がでかいと目が楽」「広告を見るよりも窓の景色を見た方が目には良いですよ」といった、目に優しいメッセージを中吊り広告で語りかけ、SNSでは「全コピー読みたくなる」と話題になった。2023年には、ドローンによる「目の愛護ショー」を大阪市内で開催。電車ジャックでの「リアルな体験は伝播力が強く、拡散される」という実証を元に、「遠くを見て疲れた目を休める」という体験ができるドローンに着眼したという。一夜限りの空中ショーは大盛況で、廣瀬氏はこの取り組みを通して「喜んでもらおうとする姿勢で伝えることで、初めて聞く耳を持ってくれる。この姿勢が大切だと感じた」と語る。
ロート製薬の施策を通して浮き彫りになった、広告制作においてのキーワードは「サービス精神」。廣瀬氏は「売らんかな精神をグッとこらえて、あなたの目の健康を守りたいという姿勢を貫くことで、消費者から良い広告だと思ってもらえた」と振り返る。古川氏は「『あの企業の広告は面白いから好き』と思ってもらうためには、得をした・人に言いたくなると思わせるサービス精神がキーワードになる」と力を込めた。
課題を正直に伝えるコミュニケーション
2つ目は大日本除虫菊の「虫コナーズ」(2016年)の事例。虫コナーズは殺虫剤ではなく忌避剤のため、効き目が目に見えにくい商品。ロングセラー商品であるが「本当に効いているのかわかりにくい」という消費者の声も散見されていた。研究所の実験で8割以上の虫の侵入を防ぐという検証データがあったが、古川氏は「理詰めで説明するよりも、感覚的に納得してもらうほうが勝算がある」と考え、「疑いがあるのであれば、そこを正直に伝えるというコミュニケーションをとった」と明かす。
CMに「もしも疑っているのであれば、一回外してみたらどうですか」「ぶらさげないより、だいぶいい」という本音のコピーを打ち出し、視聴者から大きな共感を得ることができた。「正直にさらけ出すことで伝わることを実感した企画」と古川氏は振り返った。
3つ目は赤城乳業の事例。2016年、赤城乳業は看板商品「ガリガリ君」の60円から70円の値上げを、ファンにどのように伝えるか電通に相談していた。「子どもがお小遣いを握りしめ買ってくれるものを、簡単に値上げはできない」と、25年間2度の増税に堪え抜き値段を据え置いてきた赤城乳業を知る古川氏は、10円値上げすることを告知するテレビCMを提案。値上げというネガティブな情報はさらっとニュースリリースなどで告知する企業が多い中、古川氏は「値上げをあえてメッセージすることで、ファンとのコミュニケーションにならないか」と考え、本社の前にて会長・社長を始め社員総出で「25年間踏ん張りましたが、60→70」と、頭を下げて値上げを報告するCMを制作した。結果、新たなファンの獲得とともに、海外からも「10円の値上げで頭を下げるなんて、日本の企業は素晴らしい」と評価を受けたという。
4つ目はNISSHINBO(日清紡グループ)の事例を紹介。繊維が出自のNISSHINBOは、エネルギー、車、新素材、半導体など多岐に渡る事業を持つものの、世間に認知されていなかった。この課題解決に向けては、「ニッシンボー 名前は知ってるけど・・・何をやってるかは知らない」というメッセージを動物が歌うというCMを制作した。古川氏は「あえて企業が何をやっているかを言わないCMを作った。広告メッセージは何を言うかも大事だが、何を言わないかも大事である」と語る。NISSHINBOのCMは、CM総合研究所が行った一般モニター3000人にアンケートを取った「CM好感度の獲得効率が最も高かった企業」2022年度・2023年度で1位に輝き、制作は12年間継続しているという。
視聴者に伝わる本音を交えたメッセージ
2つ目から4つ目の事例を踏まえてのキーワードは「正直であること」。古川氏は「本音」と置き換え、「本音はこんなに伝わるんだ」「本当のことは面白い」という発見があったと明かす。スマホやPCに流れ込んで来る広告を瞬時にスルーする時代。古川氏は「世の中の多くの人が、本当のことを言ってくれる人の声を聞きたいと思っている」と分析。ブランディングにつながる広告メッセージについて、古川氏は「いろいろなメッセージがあると思うが、伝え方によって広告メッセージは企業メッセージにもなる。この会社のサービス精神があって、本当のことを言っているという姿勢がブランドを作っていくのではないかと考えている」と解説。廣瀬氏は「企業広告をつくりたいというクライアントも多いが、実は商品広告も企業ブランドをつくっている。企業の商品1つひとつがブランドを構成しているという意識が大事」だという。
最後に古川氏は「この人のしゃべり方面白くて好きだとか、失敗談もさらけ出して正直で嘘がない、信用できるなという感覚は、関西が得意とするコミュニーケーションかもしれない。ブランド=人柄と考えた場合、関西特有の「人間味があり正直で愛嬌のある人柄」を、ブランドづくりのヒントにしていければと思う」と講演を締めくくった。
相互につながるコミュニティ型アプリ
DeNAは、プロ野球チームの横浜DeNAベイスターズやスマホ向けアプリ「ポケポケ(Pokémon Trading Card Game Pocket)」のイメージが強いが、事業として近年飛躍的に売上を伸ばしているのが「Pococha(ポコチャ)」をはじめとする、ライブコミュニティ領域だという。
Pocochaとは双方向コミュニケーションで一緒にライブ配信を盛り上げる「つながるライブ配信アプリ」。料理やスポーツなどさまざまなテーマに沿って、顔出しでライブ配信をするライバーと、コメントやアイテムでコミュニケーションをするリスナーとで構成される。YouTubeやInstagram、TikTokは、インフルエンサーや芸能人がライバーとなり、一般人が視聴するというスタイルの「メディア型」。視聴者数が多いので、ライバーからの一方通行の配信となる場合もある。一方、Pocochaのライバーは一般人であり、リスナーも1つの配信枠に対して10~30人ほどの小規模が多い。そのためライバーがコメントを拾いやすく、相互にコミュニケーションを取ることが可能。リスナー同士のやりとりも発生する「コミュニティ型」であることが特徴だ。「毎日多くのライバーが配信し、そこに10~100人ぐらいのリスナーさんが訪れて会話を楽しんでいる。InstagramやTikTokが大きなライブ会場と例えると、Pocochaは行きつけのカフェやバー。マスターとも気軽に話せるし、カウンターで常連さんとも仲良くなれる。そんなイメージ」と稲垣氏は語る。
2024年12月時点での累計ダウンロード数は652万、ユーザーの平均視聴時間は1日181分。ユーザーの年齢層は、リスナーは30~50代の男性、ライバーは20~40代の女性が多く、幅広い年齢層に活用されているサービスだ。
萱島氏はPocochaが支持される理由について、「5~10年前と比べて、つながりの機会が減っていることが要因のひとつ」と分析。同社の調査によると、コロナ禍前後で会社の飲み会の数や友人との外出頻度が減少しており、4人中3人(75.1%)が普段のコミュニケーションに物足りなさを感じているという。
企業商品がコミュニケーションを円滑にするアイテムに
Pocochaが提供する販促方法の1つは、企業の商品やサービスをPocochaで使えるアイテムとして登場させるというもの。広告でありながら、ライバーもリスナーも楽しみながら利用できるのがポイントだ。実際にコラボアイテムに対するユーザー満足度は70%。企業のPR情報を届けながらも、UX(ユーザーが得る体験)を毀損せず、サービス認知度や好意度アップとポジティブな態度変容を生み出すことができる。
Pocochaの活用法としては、商品やキャンペーン情報・オケージョンの提示に合わせて、クーポンなど行動喚起要素を発行、その後ユーザーへの定性・定量調査を行うなど、「商品を知ってもらった後に、その効果を増幅させる接点やエンゲージメントの強化、購買喚起に使ってほしい」稲垣氏は語る。
ライブの途中でライバーが「おなか空いたね、注文してみよう」と呼びかけ、みんなで一緒にパーティーをするような感覚を共有するなど、ユーザーにとって自然な形で深いブランド体験の創出を生み出すことができる。ドミノピザのキャンペーンでは、2週間弱でアイテム利用回数616万回、アイテム接触人数19.6万人、関連ワードコメント数203万回という結果となった。
稲垣氏は「能動的にブランドに関わってもらえる機会の提供、Pocochaの明るい雰囲気を利用したブランドのパーセプションの強化など、さまざまな活用ケースがある。ライブ配信・ライブコミュニティは、これからもっと定着してくるサービスだと思っている」と、今後のPocochaの広告ソリューションの可能性を語った。
お問い合せ
株式会社ディー・エヌ・エー
Mail:pococha_ad_x_my@dena.jp
