地域企業の取り組みを紹介するマーケティングイベント「アドタイデイズリージョナル2025春」(福岡会場)が3月に開かれ、もつ鍋店運営の楽天地の水谷崇氏はブランド創りで重要な「お客様への感動体験の作り方」について、福岡ソフトバンクホークスの若山鉄兵氏はファンの心を動かすマーケティング戦略について、具体事例を交えて紹介した。
ランチェスター戦略の実践で業績がV字回復へ
もつ鍋店を展開する「楽天地」は、福岡市内15店舗、ベトナム1店舗のほか、食品工場や就労支援福祉事業を行っている。二代目社長である水谷氏は、父が経営していたもつ鍋店を2004年に継承。だが2001年に発生した国内初となる狂牛病の影響から、売上1億円に対し、借金5億円、債務超過3億円と厳しい経営状況に追い込まれた。そのため、自身でSEO対策を講じて「もつ鍋」検索1位を取るなど工夫を凝らし、2008年、ようやく借金返済に目途がついたという。
「右肩上がりの成長を遂げた要因はランチェスター戦略を学んだこと」と水谷氏。ランチェスター戦略では、商品、地域、客層の3大対象のうち、いずれかで1位にあること、または組み合わせで1位を獲ることを要としている。その3大要素のうち、商品は父の厳命により「もつ鍋」のみ、地域は店舗のあった福岡のみと確定していたが、客層・業界戦略は迷いがあったという。
そこで、まずは福岡市内中心部に出店攻勢をかけ、店舗数を増大させた。また、客層については地元の人を対象とするのか、観光客をターゲットとするのか決め切れていなかったが、地元にフォーカスを当てることに。すると「友人が福岡観光に訪れた時に連れて行きたいお店」として、観光客にも支持されるようになったという。
「愛、WOW、信用」に人生の目的を定めてまい進
借金を返済し、業績が回復しつつある中で、土地購入により新たに8億円の借金を抱えた水谷氏。「ひたすらがむしゃらに働いていた」と振り返る当時は、社員の退職が相次ぎ苦境に立たされた。そこで、徹底的にセルフカウンセリングを行い、自分が何を求めているのかを改めて考えたそうだ。
目的と目標を明確にし、「成功するには目的が大事」と気づいた水谷氏は、自分自身の生き方について見つめ直す。それまでの目的は、「自由」「楽しい」「ゲーム感覚」であり、「これでは従業員はついてこられない、と反省した」。人生理念を「愛」、「WOW(お客さんが驚いてくれること)」、継続するための「信用」に置き、そのために今何をするのか、その行動は私の求めているものを手に入れるのに効果的かを考え、より良い方法を生み出し実行へ移していった。
「緊急ではないが重要」な事柄に取り組む
2020年のコロナ禍では、上記理念に基づき「医療従事者にもつ鍋とビールをご馳走しよう!」と、医療従事者らにもつ鍋などの飲食代を全額無料にするサービスを提供。新聞で取り上げられたり、利用者から感謝されたりしたという。3000万円の赤字を作るも、テレビで取り上げられ、もつ鍋のお取り寄せ需要が増加。1カ月で4万セット、売上2億円をたたき出した。
また、重要度と緊急度によって4象限に分類するプライオリティマネジメントにも注力し、「緊急でないが重要」な第2象限を中心にやっていくことを意識した。その内容はランチェスター経営、能力開発、社員面談、リクルーティング活動、社内勉強会、経営実践塾、家族との時間だ。
2016年にランチェスター戦略を学び始めて以来、2019年は売上9億円、2024年は過去最高の売上21億円を達成。さらに従業員との関係性も良好だという。水谷氏は「成功は技術。技術とは再現性があること。学んで、技術にする必要がある。技術を糧に、若者たちに夢と希望を与えたい」と締めくくった。
球場体験を重視した施策によりファン層を拡大
2024年、4年ぶり22回目のリーグ優勝を果たした福岡ソフトバンクホークスで、球場でのイベントや集客に関わってきた若山氏。チームの歴史は90年近いが、近年は動作解析やデータを活用した科学的な指導、プロの投手の球筋を完全再現する最新のピッチングマシンの導入などの野球界でも最新鋭のデータサイエンスを駆使して、チームを強くしている。その理由は「チームが強いことが、ファン獲得にとって非常に重要なファクターとなるから」と分析しており、実際に2024年は開幕から60試合連続で満員御礼、動員数は12球団中3位、稼働率は1位という結果を残している。
ファンデータを見ると、半数以上が男性であるものの、女性ファンが増加。一方で年齢層は高齢化が進んでおり、アフターコロナは若年層が戻りつつあるものの、40代~50代が中心だ。また、地域別では福岡が50%、九州全体が70%と大半を占めるが、関東圏が増えてきたと明かす。球団認知や人気に大きな要素を占める地上波放送数は12球団中1位となっており、SNSではInstagramがパ・リーグ1位を誇る。
ファン層拡大のために、「球場体験を重視している」と語る若山氏。開幕セレモニーの「マツケンサンバ」を皮切りに、マンネリ化を避けるために2024年に刷新した一大イベント「鷹祭 SUMMER BOOST(旧:鷹の祭典)」など、球場でのエンターテイメント性を徹底追求する。さらに福岡の街なかを巻き込み、試合だけでなく夏の期間を通して盛り上げるイベントを開催している。また、女性ファン獲得に向けた「ピンクフルデー」の開催や、球場の特長である大型ビジョンで流す映像にもこだわっている。
これらのイベントの内容や開催時期は、どのように決定しているのだろうか。若山氏は「まず、ホークスはブランド認知が高いが、8割は野球観戦に来ていない。逆に言えば、認知しているが、未購買・離反を含む8割は成長ポテンシャルと言える」と指摘。また、県内のプロスポーツ観戦市場に絞ると、8割を占拠できているものの、県内日帰り外出レジャー市場に広げるとシェアは4%にしか満たず、現時点では映画館、カラオケといったレジャーとして認知されていないことがウィークポイントだと分析している。そこで、関心層が多いという地域特性を活かして、現状20%しかない観戦者割合を増やしていくことをマーケティングの全体方針として定めている。イベント、食事、一体感といった魅力的な球場体験により、観戦価値を最大化していくという。
精度の高い売上予測を基に、イベントやプロモーションを展開
魅力的な球場体験のための具体的な施策として、まずシーズンを通してさまざまなイベントを展開。来場者全員プレゼントが20試合以上、ファンクラブ限定イベントやシーズンシートを設定している。
これらのイベントやプロモーションは、精度の高い売上予測をベースに決定している。その手法は、まず対戦カードが発表されると、類似試合の実績や事前調査結果を基にイベント認知率から観戦意向を導き、売上を予測。そこから、想定されるギャップに対して、具体的な対策をいくつもプランニングする。ユニフォーム配布は代表的なイベントだが、調査結果により食事に対する期待感が大きいことがわかってきたため、グルメイベントを強化。さらに推し活を後押しする選手ごとのグッズも新たに作成した。また、ホームランが飛んできやすいホームランテラスなどのバリエーション豊かな座席設定や、プロスポーツ界初となるダイナミックプライシングを例に挙げた。過去の販売速度や稼働率をデータ化し、1席ごとに価値のバイアスをかけ、全席15分ごとの価格変動を行うことで売上の最大化を狙っている。
コミュニケーション戦略では、テレビCMをチケットの販売タイミングで打ち、しっかり認知してもらい、Web広告で認知が及ばない分を埋めていく。また、シーズン開幕直後となる4月はチケット販売に苦戦する時期であることが判明しているため、オフシーズンである2月から認知してもらうために、野球観戦の楽しさを思い出すCMを打ち出している。
情報配信においては、AI・機械学習を駆使して施策優先度を決定する。ファンクラブ入会案内は、福岡市内、遠方、中学生以下とパーソナライズした情報配信を行っており、有料・無料会員数は90万人を突破した。球場体験だけではなく、オンラインでもタッチポイントを作ったり、自治体との連携協定により「ホークスだより」を配布したり、福岡転入者へ招待券配布したり、新1・4年生に文房具をプレゼントしたりと、さまざまな施策を実行している。
行動フェーズごとに調査を実施してフィードバック
ソフトバンクホークスでは、顧客の声を拾うために、行動フェーズごとに調査を実施している。認知フェーズでは月次市場調査によりチケット需要予測を、購入フェーズでは購入時アンケートにより購入経路の可視化を、来場・観戦フェーズでは来場者アンケートにより観戦体験の満足度を、ファン化フェーズではブランド調査によりブランディング効果を割り出している。
2025年に実施予定の新規取り組みとして、若山氏は「球場にDJブース」「スタジアムDJをよしもと芸人へ」「イニング間演出(リレー)」「パフォーマンスチーム(ハニーズ)に台湾出身メンバーが3人加入」に加え、「大型ビジョンに選手情報などをはじめ、新たにホームランの飛距離などよりファンの皆さまに楽しんでいただける情報を表示させる予定」と強調した。
最後に若山氏は「2025年はソフトバンクホークスとして20周年を迎える特別な年です。ファンの皆さんにワクワクをお届けできるような20周年記念イベントをたくさん準備しています。これからも『めざせ世界一!』を合言葉に、チーム一丸となって突き進んでいきます!と力強く宣言した。

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