地域に根差した取り組みを紹介するマーケティングイベント「アドタイデイズリージョナル2025春」が2月(大阪会場)、3月(福岡会場)にそれぞれ開かれ、サッポロ不動産開発の福吉敬氏は「顧客データを見る理由と人材育成」について、LINEヤフーコミュニケーションズの鈴木優輔氏は「ユーザーとの『共創』が生まれるコミュニケーション」について講演した。
広告の多様化において、顧客理解が必要な理由
かつて、広告といえばテレビ、ラジオ、雑誌、新聞といったマス広告が主流だったが、現代はソーシャルメディア、サイネージなどのデジタル広告が急増している。消費者の情報接触面が多様化しているため、ワンメッセージ・ワンビジュアルを伝播させていくマス広告だけでは、商品が売れるとは言い切れない時代となった。
また、広告の多様化によりマーケティング手法にも変化が起こった。福吉氏は「STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)や4P(製品、価格、流通、プロモーション)をおさえておけば、商品は動くとされていたのは昔の話。飲料食品の棚を見ていただくとわかると思いますが、各カテゴリーの商品がどんどん増え続けており店舗の売り場や消費者とのコミュニケーションが複雑化している現代において、商品を知ってもらうためには、顧客がどんな行動をしてどんな生活をしているのかを把握する必要がある」と言葉に力を込める。
顧客を知るために必要となってくるのはデータ分析だ。顧客の興味・行動履歴・周辺環境の変化や購買のデータを分析することで、エンゲージを高める施策にたどりつく確度が上がる。福吉氏は「デジタル広告の時代において、データ分析はコミュニケーション戦略の根幹。市場のトレンドや競合の動向を把握し、新たなビジネスチャンスを発見するためにも不可欠だ」と、データ分析の重要さを説明した。
情報の民主化と社内のデータ分析の共有化
多様化するメディアに迅速に対応し情報発信していくためには、複数のチームと、複数の商品を、同時進行でブランディングして行かなくてはいけない。福吉氏は、広告主、広告代理店、広告制作会社、メディア、ベンダーを含めたすべてのメンバーが同じデータ情報を把握・分析してクリエイティブを制作するために、情報を公開する「データの民主化」というスタイルを取っているという。
共有するデータは外部ストレージに格納し、メンバーごとに開示するレイヤーを決めて公開。制作のやり取りはメールではなく、後からチームに入ったメンバーも情報を遡れるようにSlack やMicrosoft Teamsなどのチャットツールを活用している。福吉氏は「データの民主化を行うことで、共通の目標に向かって連携しチームが一体化。より精度の高いターゲティング、クリエイティブ、メディアプランニングが可能になる」とその成果を語った。
チームが共通認識を持つために、データ分析において「誰に・何を・どう受け止めて欲しいか」を明確にすることが必要となるが、最も重視すべきは「誰に」という部分だ。福吉氏は「ターゲットを明確にすることで、その後のメッセージや媒体などを最適化することができる」と解説する。また、福吉氏は商品のSNSを確認し、ブランドのコア顧客はどんな人々で、彼らの行動や転換のきっかけなどもチェックしているという。「定量的な要素だけを見ると間違うこともある。定量と定性を合わせて確認すると、次に我々はどうすべきかと言う予測値が見えてくる」と定性調査の重要性を説いた。
サッポロ不動産では、顧客のデータ分析は担当部署だけでなく、マーケティング、営業、経営企画、広報など社内の多岐にわたる部署が確認できるよう定期的に勉強会を行っているという。データ分析には、Google アナリティクスとSearch Console、Looker Studioの3つを推奨。福吉氏は「各部署の業務の視点から顧客データを分析、次の打ち手を構築できる環境を作り上げていくことで、社内全体が企業ブランドを顧客の文脈に寄り添ったコミュニケーションで伝えられるようになる」と説明。「社内メンバーのデータ分析のスキルを向上させ、正しく言語化できるようになることで、企業・ブランド力は確実に上がる」と締めくくった。
商品・サービスの価値はユーザーが決める
LINEヤフーコミュニケーションズの鈴木氏は、10年間企業が大切にしてきた地域ユーザーとのコミュニケーションについて講演した。同社の前身であるLINE Fukuoka株式会社は、LINE株式会社の国内第2拠点として、2013年に福岡市で設立。LINEはまだ急成長の段階で、同社の設立当初は「地元企業から人材を奪うのではないのか」という地域の不安の声も上がっていた。また、「友だちが使っているから」という理由で利用するユーザーも多い中で、鈴木氏はLINEがユーザーに長く愛され続けるサービスになるために福岡でできることがないかと危機感を抱いていた。
鈴木氏は「愛され続ける企業やサービスは、ユーザーに『応援したい、一緒にサービスを良くしていきたい』と思われている。この会社とLINEが福岡で応援され、愛され続けるために、まずは福岡でユーザーと一緒にLINEを育てようと思った」と語り、4つの施策例を紹介した。
1つ目は、2017年に開設された福岡市LINE公式アカウントの施策例。当時はLINE公式アカウントを持つ自治体は少なく、市役所に企画書を持参するもすぐに導入には至らなかった。「何度か足を運ぶうちに『やってみたい』と言ってくださった職員さんがいて、打ち合わせを重ねてアカウント開設に至った」と鈴木氏は振り返る。
福岡市LINE公式アカウントで最初に取り組んだのはごみ問題。月1回の燃えないごみ、ペットボトルの回収日など、忘れがちなごみ出し日を通知する機能で、暮らしを快適にしてくれると注目が集まった。「ママ友の間で話題になる」を企画コンセプトとしてターゲットを明確にし、「自分の隣にいる人に話しかけるようにメッセージを伝えること」を心がけたという。その後も災害時の最寄りの避難所の検索や、まちの設備の不具合の通報など必要な機能を市民の声に耳を傾けながら追加・改善。その結果、福岡市LINE公式アカウントの友だち数は190万人を超え、全国の基礎自治体アカウントの中でトップクラスの規模に成長したという。
2つ目の施策例は、LINEに条件を入力すると生成AIが利用者にぴったりの屋台を紹介してくれ、屋台の店主の提供情報と利用者の口コミ投稿で生成AIの精度も高める「屋台DXプロジェクト」、3つ目はプロサッカークラブ「アビスパ福岡」へのエールをLINEで募集し、タイトル獲得を目指す選手にエールを届ける「#聖地国立にエールを」、4つ目はシェアサイクルサービス「チャリチャリ」とコラボし、シェアサイクル駐輪ポート新設場所にLINEで集めたユーザーからのリクエストを活かす、「おねがいチャリチャリ!あったらいいなポート大募集」。鈴木氏は、「商品・サービスの価値は使っているユーザーが決めるという考えのもと、ユーザーとLINEを育くむ仕掛けを打ち出してきた」と明かした。
企業やサービスを成長させる「挑戦と応援」の文化
鈴木氏は、こうした多種多様な取り組みは、現場から生まれた「挑戦と応援精神」によるものだと語った。鈴木氏自身もチャレンジを繰り返し、挑戦することの大切さ、自分一人で達成することの難しさを学んだ経験から、社員一同で「挑戦者を全力で応援する企業文化を育む」という取り組みを続けているという。
この取り組みは、挑戦者だけをリスペクトするのではなく、挑戦者を応援する人もリスペクトする点が特徴だ。「弊社には1000人以上の社員がいる。1人で1000の挑戦をすることは困難だが、1000人が1つずつチャレンジをして集まった1000の挑戦は多様性と価値がある。1000人仲間がいれば周りの誰かが挑戦をしているはず。それを応援することから始めよう」と、同社の社内表彰制度は、挑戦者だけでなく応援者も表彰される部門が設定されている。社内イベントでも、挑戦と応援を楽しむ仕掛けを取り入れていると語る。
また、「強い組織はメンバー全員がリーダーシップを発揮している。リーダーシップとは、自分がリーダーではないときにリーダーを応援できるかどうかという応援精神である」と解説した。
講演の最後に鈴木氏は、社内外で何かを生み出し育む際には、「相手と一緒に体験する」というこだわりを明かした。「どれだけプレゼンの技術を磨いても、一緒に体験したという事実にはかなわない。自分が感動するイメージができる物事や人にこそ愛や応援の気持が生まれるため、一緒に体験することが重要」と話す。「我々が地域と一体となって育んできたものを、今度は全国に届けていくことを目指している」と展望を語った。

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