芹澤連さんとマーケターは『ブランディングの科学』をどう読み解いたのか

一方、早川さんはフィジカルアベイラビリティに着目し、「Place」と回答。続いてPromotion、その後は並列でPriceとProductだと考えたと語った。

「日本では、大きなブランドになるほど流通の影響を無視できないため、そこが大事になるのではないかと考えました。ただ、プロモーションはメンタルアベイラビリティに効果的ですし、プライスやプロダクトがフィジカルアベイラビリティに与える影響も無視できないので、難しいところがあるなと思っています」(早川さん)

芹澤さんがこの問いによって意図したのは、4Pを等しく大事だと考えている人が多い中で、いま一度それぞれの重要性を見直し、一歩踏み込んで議論してみることだ。実は、すでに1980年代から、エビデンスベースでマーケティングの研究を行っている人たちの間では、「広告だけで売上を大きく変化させることができるというのは、もはや神話である」と指摘されていたという。

「お2人が頭を悩ませたように少し意地悪な問いかけでしたが、実際に4Pの効果の定義にはいろいろな捉え方があります。その中で、計量経済学的な、いわゆるマーケティングサイエンスにおける捉え方の一つに、『弾力性』というものがあります。よく知られているのは『価格弾力性』で、これは価格と需要の関係性を表しますが、4Pそれぞれに弾力性があるんです。それを定義することで、一応の答えが出ます。

その場合、最も弾力性が大きい、つまり最も効果に影響を及ぼすのはPlaceです。次に、PriceとProductが拮抗します。いかにフィジカルが大事かということが言えるわけです。特に小さなブランドや新商品、新規事業などの場合は、フィジカルを伸ばせるだけ伸ばして、残った予算で広告を考えるという優先順位でいいのではないかと思っています」(芹澤さん)

一方で、「広告はブースターであり、PlaceやPrice、Productによって決まった顧客価値を倍増させる役割だと捉えるとしっくりくる」と芹澤さん。それを受けて仮屋さんも、「まさに自社も初期段階にそうやって成長してきた」と、実感を込めてうなずいた。

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芹澤 連(日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(EBMI)研究主幹/コレクシア執行役員)
芹澤 連(日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(EBMI)研究主幹/コレクシア執行役員)

マーケティングサイエンティスト。数学/統計学などの理系アプローチと、心理学/文化人類学などの文系アプローチに幅広く精通。非購買層やノンユーザー理解の第一人者として、消費財を中心に、化粧品、自動車、金融、メディア、エンターテインメント、インフラ、D2Cなどの戦略領域に従事。エビデンスベースのコンサルティングで事業会社の市場拡大を支援する傍ら、執筆や講演活動も行っており、企業研修などの講師を務める。著書に『顧客体験マーケティング』(インプレス)、『“未”顧客理解:なぜ「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題 エビデンス思考で見極める「事業成長の分岐点」』(日経BP)。
日本マーケティング学会員。日経クロストレンドアドバイザリーボード。海外論文を読むのが日課。猫好き。

芹澤 連(日本エビデンスベーストマーケティング研究機構(EBMI)研究主幹/コレクシア執行役員)

マーケティングサイエンティスト。数学/統計学などの理系アプローチと、心理学/文化人類学などの文系アプローチに幅広く精通。非購買層やノンユーザー理解の第一人者として、消費財を中心に、化粧品、自動車、金融、メディア、エンターテインメント、インフラ、D2Cなどの戦略領域に従事。エビデンスベースのコンサルティングで事業会社の市場拡大を支援する傍ら、執筆や講演活動も行っており、企業研修などの講師を務める。著書に『顧客体験マーケティング』(インプレス)、『“未”顧客理解:なぜ「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?』『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題 エビデンス思考で見極める「事業成長の分岐点」』(日経BP)。
日本マーケティング学会員。日経クロストレンドアドバイザリーボード。海外論文を読むのが日課。猫好き。

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