谷山雅計×ハナコ秋山「『なんかいい』と感じたら、それがネタづくりのはじまり」

コピーライター 谷山雅計さんの著書『広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉』の関連イベントとして開催された連続トークイベント「広告的発想ってこう使うんだ!会議」。2日目は、お笑いトリオ「ハナコ」のメンバーで、ドラマの脚本やエッセイの執筆など幅広く活動する秋山寛貴さんをゲストに迎えました。お笑いと広告コピー、ジャンルも世代も全く異なりながら、ものづくりの面では驚くほどシンクロしていた2人。笑いと学びに満ちたトークの内容をダイジェストでお届けします。

写真 イベントは、2月12日に宣伝会議 東京本社で行われた。

イベントは、2月12日に宣伝会議 東京本社で行われた。

文化放送ラジオコンテストで準グランプリを獲得!

谷山:今日のイベントが開催された背景を簡単に説明しますと、僕は「文化放送ラジオCMコンテスト」(文化放送が主催する、20秒のラジオCMコピーを応募するコンテスト)で、審査員をしていまして。その2024年の審査で、途中まで全く知らなかったんですけど、ハナコの秋山さんが応募していたんですよね。

そして、全部でおよそ2万通の応募があったなかで、秋山さんの作品が準グランプリに選ばれました。もちろん有名人だからという忖度は全くありません。僕だけじゃなく、他の審査員も選んだうえでの結果です。

秋山:ありがとうございます。僕は文化放送で「レコメン!」という番組のパーソナリティーをやらせていただいているのがきっかけで、このコンテストを知りました。元々広告には興味があったので、初めてラジオCMを作って応募してみたんです。約10社からお題(商品)が出されていて、その中から好きなものを選んでいくつ投稿してもいいというルールでした。

谷山:秋山さんは何個応募したんですか?

秋山:7個応募しました。

谷山:ほかは1次審査で落ちたという話を聞きましたが、残った1個が準グランプリになったわけですね。今日はその準グランプリ作品をここで実際に聞いてもらおうと思います。さらに僕もまだ見ていない、1次審査で落ちた作品も見せてくれるという話なので、その場で批評しようという、秋山さんにとってはかなり酷な(笑)企画です。

秋山:いやいや、こんないい授業を受けさせていただけるなんて。よろしくお願いします。

写真 谷山雅計さん、秋山寛貴さん

準グランプリを受賞したボートレースのCM、評価のポイントは?

谷山:それでは、まずは準グランプリを獲ったCMから聞いてみましょう。

イメージ 受賞したBOAT RACE振興会「ボートレース」のCMコンテ。

受賞したBOAT RACE振興会「ボートレース」のCMコンテ。同コンテストでは、審査時に青二プロダクションの声優陣が作品を読み上げる。会場ではその音声を流した。

谷山:ラジオCMコンテストの応募作品って、お笑い系のものが多いんですよ。短い時間で人の興味を引こうとするとお笑いになりがちで、普通の人が書いてもコントみたいになっているものが多いんですが、僕なんかは「その面白さが広告としての役割に本当につながっているのか?」と審査の場でよく言っている人間なんですね。

で、このCMを見た時に——その時はもう秋山さんが書いているのは知っていたんですけど、「コントじゃないものを書いてきたんだ」とちょっと驚いて。

この作品は、ボートレース中の写真を娘が見て、「パパ、おふねでかくれんぼしてるの?」と言う。その一言で成立させているんですよ。20秒という短い時間でも、その中に1ついい発見があれば、それがコアになっていいものができる。最後に「そんな娘が初めてレースを見にくる 今日は負けられない」と家族ドラマ風にしているところも相まって、ボートレースが素敵に見えてくるんですよね。

それを普段は笑わせるプロの方が書いたということで、秋山さんはものづくりの幅が広い方なんだなと感じたんです。

秋山:ありがとうございます。今の流れで非常に申し上げにくいんですけど…実は7個のうち残りの6個は笑いを取りにいってました(笑)。

このCMは、ボートレースの写真を見た時の気づきがヒントになっていて。ボートレースって、直線の時はレーサーは前を見ないんですよ。船内に潜るんです。カーブの前にまた顔を出して、体を倒すんですけど、それが珍しいというか、ボートレースの特徴だなと思った時に、「隠れてるみたいだな」というところからストーリーを考えました。

谷山:特徴的なビジュアルを言葉に転換するのって、すごく観察力とコピーライティング能力が必要です。僕は、この作品ではそこを評価しました。

写真 人物 谷山雅計さん

谷山雅計さん

1次予選敗退作品を、谷山さんが即興で講評!

谷山:続いて、1次審査で落ちたものから2つを今日は紹介してもらいます。僕もいま初めて見るものです。

イメージ ライオン「ルックプラス 泡ピタ トイレ洗浄スプレー」のCMコンテ

ライオン「ルックプラス 泡ピタ トイレ洗浄スプレー」のCMコンテ

谷山:さっき笑いを取りに行ったと言っていましたけど、割と淡々として、少し枯れたような内容ですね。

秋山:はい。トイレの頑固な汚れをおじいさんに擬人化しようという。

谷山:なるほどね。ラジオは音だけだから、おじいさんの声だけでどこまで伝わるのかなとはひとつ思いますね。映像があって、フチ裏汚れが落ちていくような映像のところにおじいさんのいいナレーターがついたりすると、特徴的な広告になりそうな気がします。

2本目に行きましょうか。

イメージ サポーターブランド日本シグマックス「MEDIAID」のCMコンテ

サポーターブランド日本シグマックス「MEDIAID」のCMコンテ

谷山:これも割とよくできてるとは思います。ただ…この最後にオチを持ってくるやり方は、課題商品によりますね。というのも、ボートレースなら、審査する人もそれがどんなものかは知っています。だけど、この場合は「メディエイドって何?」と思ってしまう。それがわかっていれば、なるほどときちんと最後のところに落ちるんだけど。

このやり方で行くなら、もう少し早めにメディエイドが何者かをわからせてあげなきゃいけないですね。その上で「キーボードより骨を鳴らす時間が多いあなたに」は悪くないんじゃないかなと僕は思いました。

笑いと言っていたけど、思った以上にきちんと広告の構成になっていますね。

秋山:ありがとうございます。確かにボケとツッコミというよりは、ユーモアのある視点っていうぐらいですね。

谷山:この2つだって、もう少し変えたら広告として成立する気がしますよ。さっき秋山さんと控え室で話していて、「お笑いは自由にやりたがる人が多いけど、自分は何かの制限があったりするとワクワクしながらそれを利用して何かができないかと考えるタイプ」という話をされていて、それは非常に広告をつくる人たちと似ていますねっていう話をしていたんです。いまの2つも、十分に広告的な工夫や構成をされているなという印象を持ちました。

秋山:もっとけちょんけちょんに言われると思っていたので、ちょっと安心しました(笑)。…でも、谷山さんに言われてみればその通りで。なんで、もっと冷静になれなかったんだろう、と。メディエイドのCMの方は、僕はメディエイトを知ってる人として、これを書いてしまってました。まず、このメディエイドが何かを伝えないといけなかったのに、そのお題の解読自体を間違えてたんですね。

写真 人物 ハナコ 秋山寛貴さん

ハナコ 秋山寛貴さん

谷山:でも、僕の専門クラスにやってくるようなプロのコピーライターでも、ここを間違える人はいっぱいいるんですよ。

発想の取っかかりは、日常の違和感や好奇心から

谷山:お笑いと広告って似ているところもあるし、かなり違うところもあると思います。今日は秋山さんへの質問を考えてきたので、ここからは、同じものづくりの人間として気になることを聞いていきたいと思います。

まずは「秋山さんの発想の取っかかりはなんですか」。要は、広告って商品を取っ掛かりにしてくださいという点が明確なので、目の前にあるものをどうやって素敵に見せていくかがいつもスタートになるんです。でも、お笑いって誰かに取っ掛かりを決められてるわけではないですよね。

秋山:確かに、お題やテーマはフリーで始まりますね。僕は、発想の種をいつも雑多にスマホにメモしています。日々の中で出会った出来事が多くて、例えば喫茶店で聞いて面白いと思ったやり取りでなんかをメモしておいて、新ネタを書く時は、それを見ながら考えたりします。自分が面白いと思ったやり取りをいかにコントにするか、というのがお題になっていて、自分でその答えを考えているような感覚です。

谷山:なるほど。その出来事は有名な事件とかではなくて、ふと自分が目や耳にしたシチュエーションを膨らましていくという。

写真 谷山雅計さん、秋山寛貴さん

秋山:もちろんニュースなどを見て、例えばこの謝罪会見ちょっと引っかかるなとか、そういうこともあります。映画や漫画で何か心が動くワンシーンがあって、これをどうずらせばおかしくなるんだろうとか、今思えば、勝手にお題を選定するとこから始めてるんですね。

谷山:広告を作る人でも、特にプランナーと言われるようなCMを作る人は、今の秋山さんに近いような考え方をしている方はいますね。そういう方って、特別な体験というわけじゃなくて、みんなも体験してるようなことで何か引っかかったことを記憶していて、そこから考えるんです。突飛な体験をバンバンしているわけじゃなくて。

秋山:そうですね。僕がつくるコントも、そのタイプかもしれません。

谷山:ほとんどの人もきっと体験しているんだけど、そこに気づいてないんですよ。何の印象もなく通り過ぎていっちゃう。でも秋山さんはちょっとした違和感と好奇心から考えていくということなんでしょうね。

秋山:でも、「何でこれを自分はメモしたんだろう?」と後から思うものもいっぱいあります。例えば…(とスマホをスクロールしながら)ここに「一晩考えさせてもらえますか」ってメモがあります。どういう状況だったかはもう忘れたんですけど、こういうメモを見つけて、「どういう状況で、これを言ったら面白いだろう」と考えはじめていったりします。

谷山:確かに発想の訓練になりそうですね。広告会社のクリエイティブの配属テストの課題にもなりそう。「一晩考えさせてもらえますか」の前にあなたならどんなセリフを置きますか、とかね。

秋山:子どもが言ったら面白いなとか。誰に言わせるかを考えたり。

谷山:子どもが「一晩考えさせてもらえますか」って。それだけでもうちょっと面白いですよ。

秋山:親に「お風呂入りなさい」って言われて、「一晩考えさせてもらいますか」とか。

谷山:面白い(笑)。すごいね、秋山さん。

ネタを組み立てていく上で気をつけているのは、矢印をぶらさないこと

谷山:そういう取っかかりから考えていって、そこからどうネタを組み立てていくんですか?自然に組み立てていけるものなんでしょうか。

秋山:苦戦することもありますが、意識しているのは…つい面白い方に走りたくなってしまう時に、お題からそれないようにするということかもしれません。

谷山:お題からそれないようにするというのは?

秋山:少し抽象的な話になってしまいますけど、さっきみたいにメモでこの出来事が面白いと思ったら、そこからここに走っていこうとその前後を作っていくんですけど、その途中でついつい、別の笑いを取りに行ってしまうことがあります。例えばコンビニのコントで、会話の中身で笑ってもらいたいのに、店員の衣装を短パンにしてしまうとか。それは別の要素が入ってしまっているので、純粋に面白いのはここだよとわかってもらうためには、他に変な場所があっちゃいけないということです。

谷山:決めた場所を目指すために、寄り道はしないと。なるほどなるほど。いや、実は、今の話は僕が広告の授業で言っていることそのものです。いつも言うのは、1本のコピーの中に違った矢印が色々入っちゃダメなんだ、1つのコピーには1個の矢印なんだってことなんです。いや、ますます秋山さんにコピーライターもやってほしくなっちゃった。今度東京コピーライターズクラブ賞にぜひ応募してください。作品が3つあれば応募できるので、来年あたりどうですか。

秋山:すごい直接的な勧誘ですね(笑)。

写真 秋山さん

日々の暮らしの中で何がものづくりに役立っている?

谷山:続いて、「日々の暮らしの中で自分のものづくりに役に立ってることはなんでしょうか」。これは僕がものすごく聞かれるんですよ。コピーやアイデアを考える時に、情報はどこから得ているのかと。

秋山:先ほどの日常的にメモするのもそうですし、谷山さんの『広告コピーってこう書くんだ!読本』を読ませていただいたことは大きくて。

あの本は、すごい言語化していただいてますよね。お笑いで言うと、「なんかいい」で止めなかった時にネタになってるというか、この「なんかいい」ってなんなんだろうって紐解く作業がネタづくりになっているというか。なんか変だよな、なぜあの時になんか変だと思ったんだ、というところにヒントがあると思っています。

谷山:気を遣ってくださってありがとうございます(笑)。この本が生まれたきっかけを少しお話しすると、元々「コピーバイブル」という本がありまして(宣伝会議刊『新約 コピーバイブル』『最新約 コピーバイブル』)、それはいろいろなコピーライターがコピーについての短い文章を寄せたものなんです。そこに僕が書いたのが「なんかいいよね禁止」です。これ、実を言うと禁止してるわけじゃなくて、そう思ったらそこで終わるんじゃなくて、なぜいいのか?こうだからじゃないか?を考えようという話なんですね。

だから、「なんかいいよね」と感じること自体は、ものすごいお宝にたどり着く入り口であるって話をしてるんです。それが妙に周りから評判が良くて、単著でコピーの書き方の本(『広告コピーってこう書くんだ!読本』)を出すことになりました。初版はもう18年前になるんですけど、おかげさまで多くの人に読んでもらえて、今回「増補新版」として改めて発行された、という経緯があります。

改めて自分にとってのものづくりって、結局そこだよなと思うんですよね。自分は仕事をしている時が一番ものを考えていて、実は秋山さんもコントを考えることによって、さらにものを考えていたりしませんか?

秋山:そうですね。僕はライブの場がそれに近いかもしれないです。ライブで自分のネタや他の人のネタのリアクションを見ている時に、ものすごく刺激を受けるんです。いま半分だけ受けたな、今度は若い人だけ笑ったな、何でだろう?と考えたり。袖で他の人のコントを見ながら妄想が始まっちゃって、こっちに別のアイデアあるんじゃないか…みたいに考えていくことも多いです。

谷山:お笑いの世界で「袖視聴率」みたいな言葉もあるって聞くけど、やっぱりそうやって見てるんですね。いまの話は、僕で言うとテレビで広告を見て日々あれこれ考えたり、東京コピーライターズの『TCC年鑑』などを見ながら、このコピーを書いた人はこの商品からどういう風に考えてこれが書いたのかなと、自分の頭の中でシミュレーションしていく時間に近いかもしれないですね。それが合っているか間違っているかというより、シミュレーションすること自体が刺激になると感じています。

写真 谷山さん

秋山:僕も他の人のネタを見た時に、ここから思いついたのかな、ここが一番やりたかったのかと、いろいろ考えていますね。

谷山:さっきの質問で僕がよく答えるのは、何を見るのが正解、読むのが正解ということはなくて、「自分がこれをやったら一番ものを考えられる」ということをずっとやればいいんじゃない?ということなんですよ。映画でも、新聞でも、その人にとって一番刺激になるものを選べばよくて。やっぱりそうなんだなと感じました。

今日は、秋山さんと発想の同じところと違うところを探っていこうと思ってたんですけど、思いのほか共通する話が多くて驚きました。仕事の場は違うけど、近いことをやっているなと確認し合うような回になりましたね。

あっという間にお時間になってしまいました。今日はありがとうございました。

秋山:とても勉強になりました。ありがとうございました!

写真 谷山さん、秋山さん

トーク終了後も、次々と質問の手が上がり、一つひとつ丁寧にお答えいただきました。谷山さん、秋山さん、ありがとうございました!

広告コピーってこう書くんだ!読本〈増補新版〉
谷山雅計著/定価2,200円(税込)

2007年に発売された広告コピーのロングセラー書籍『広告コピーってこう書くんだ!読本』が、増補新版になって新登場。デジタルやSNS時代のコピーのあり方についても言及した、約2万5000字の新テキストを収録しました。「人に伝わる」「伝える」広告コピーを書くためのプロのエッセンスを学べる一冊。


この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

この記事を読んだ方におススメの記事

    タイアップ