コンテ制作30分、プランニング自動化――AIでテレビCM業務はどう変わる?

制作から運用まで、テレビCMも“AI時代”へ

「AIによって、マーケティングは再定義される」。これはキャッチコピーではなく、私たちノバセルが現場で体感している日常です。

マーケティング業界は今、大きな変革期を迎えています。生成AIや業務自動化技術の進展によって、これまで「人の手」で行っていたマーケティング業務が大きく変わろうとしています。これまでは属人的と言われていたテレビCM制作・運用の世界にも、AIの波が押し寄せています。AIの活用は、これまで代理店に支払っていたマージンや、利用しきれていないSaaS(Software as a Service)のコストなど、見過ごされがちだった「無駄」を圧倒的に圧縮できる可能性を秘めています。今後は、「任せられる部分はAIに任せ、人はより速く、より本質的な判断に集中する」ことが大事な時代になります。

特に、テレビCM領域の変化は劇的です。第4回では、複雑な構造であるテレビCMを中心に、AIがマーケティング実務にもたらす変化をひも解きます。

ノバセルでは、テレビCMの効果を測る独自指標を用いたツールである「ノバセルトレンド」を活用し、放映と連動した検索数(指名検索スコア)をもとにCMのパフォーマンスを可視化しています。どの局・どの時間帯・どのクリエイティブが視聴者の行動を生むかを、まるでデジタル広告のように測定できる仕組みです。

このような定量的な評価指標とAIを掛け合わせることで、テレビCMをはじめとするマーケティング業務は変革を遂げています。AIがテレビ広告にどう具体的な変化をもたらしているかを具体的に紹介します。

成果の出たクリエイティブの共通項を抽出

AIは、かつて属人性が高く「ブラックボックス」だったクリエイティブ領域にも浸透しています。AIは膨大な過去データを学習して最適解を導く仕組みであるため、突拍子もないアイデアやとがった個性は得意でありませんが、はずさない堅実な案を高速で導いてくれます。AIによって、人間独自の斬新さや話題性を持った案を導き出すための下地を十分に作ることができるようになりました。

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ノバセルでは、過去に全国放映されたテレビCMのデータを学習させたAIモデルを構築し、成果の出たクリエイティブの共通項を抽出・分析しています。これにより、従来はディレクターの経験に頼っていたものが、データに裏打ちされた「確実に効くCM」へと進化しています。

わずか30分でコンテ制作も

しかも、AIはそれだけにとどまりません。今では、CMコンテの作成が30分で完了する時代となり、タレント起用を想定したグラフィック制作や、パターンごとのコンバージョン予測まで、全てが“事前検証可能”なフェーズに入りつつあるのです。

CMコンテの作成は、通常であれば数営業日は要しますが、AIを使うことで、わずか30分で複数パターンのコンテ提案が可能になりました。

さらに、全国放映された過去のCMデータをAIに学習させることで、「この構成だと検索スコアが高まりやすい」といった事前予測まで可能になったのです。つまり、テレビCMの「成果予測」さえ、いまやAIの支援を受けられるフェーズに来ているといえます。

メディアプランニング業務の大半は自動化可能

イメージ 図 スポットCMのワークフロー

AIの力は、制作だけでなく「どこに、いつ、どれだけ出すか」というメディアバイイングの世界にも広がっています。

実際にノバセルでは、スポットCMのプランニング作業の7割以上がAIで高速化されており、局交渉などの「人の価値」が求められる領域にリソースを集中できるようになっています。

従来、テレビCMのメディアプランニングや枠の交渉は、局ごとの交渉やゾーン選定など、高度で属人的な業務であり、広告会社の熟練プランナーのノウハウに依存していました。希望枠の作成から初案・改案のやり取りまで、実に多くのステップが存在します。このプロセスには、時に不透明なマージンが含まれることも指摘されてきました。

代理店への依存度が下がり、透明性が向上

しかし現在では、エリア選定、枠効率の評価、改案案 の提示といったプロセスがAIによって高速化されており、希望枠のシミュレーションや初案作成、改案作業などの自動化が可能になりました。これにより、代理店への依存度が下がり、業務の透明性が向上します。結果として、これまで「そういうものだ」と受け入れられてきたマージン構造にも疑問を投げかけ、より合理的なコストでの運用が可能になるのです。今後はプランニング業務の大半の自動化が可能といえるでしょう。

これこそが「AI化」の本質です。単に効率化するだけでなく、“速く打って、速く学ぶ”というアジャイル型マーケティングがテレビCMにも適用できる時代が来たのです。

AIによって効果分析も「精緻」に進化しました。効果測定レポートや定例報告資料の作成も、AIが過去の資料を学習し、それを反映させることで、わずか数十分で資料が完成するといったことまでできるようになりました。

代理店マージンの合理性が問われる

AIの活用により、マーケティング領域では大きなコスト削減が可能になっています。従来の代理店に支払うマージンやSaaSの無駄を大幅に削減できるようになりました。現状のコストは不合理に高い部分が多く、AIによって今後は大きく削減される見込みです。このコスト削減は単なる節約ではなく、売上向上のための新たな投資として捉えるべきでしょう。

「マージンの範囲内で、細かい分析などの細かい作業を行ってくれている」のでマージンが見合っているという話がありますが、そのマージン設定自体が合理的かどうかが問われる時代になっています。

代理店との関係においても、AIによる透明化によって依存度を下げ、マージンを削減し、競争力を高めて成長できる環境が整いつつあります。

下の資料にあるように、マーケティング領域には生成AIが活用可能な業務領域が多数存在します。AIはマーケティング業務全体の7割に活用可能といわれています。商品企画、市場分析、ブランド戦略、広告運用、コンテンツ制作、レポーティング……その活用範囲は驚くほど広く、多くの業務が”自動化前提”で再設計されつつあります。マーケティング業務の多くは、AIによって圧倒的な生産性改善が可能になるのです。

イメージ 図 AIが活用可能な業務領域

今すぐ始められる3つのAI活用ステップ

そうはいっても、「AI活用は大企業の話」と思われがちです。しかしながら、中小企業や予算が限られるチームでも、小さな一歩から始めることができます。

業務棚卸しと分類

まずは、自社のマーケティング業務を洗い出し、「AIで代替できる業務」と「人が担うべき業務」に分類することから始めましょう。

生成AIの小さな活用

コピーライティング、レポート要約、競合調査など、日常業務で使える生成AIツールを1つ選び、部分的に業務へ組み込んでみてください。

AIとともに成長する次世代のマーケター

AIが得意な領域

● パターン化された業務(メディア配信、入稿、定型資料)
● 過去データに基づく定量分析(検索数や視聴率の傾向分析など)
● 定型コンテンツの生成(広告バナー、SNS投稿文など)

AI活用が進むほど、問われるのは「人間として、何ができるか」です。AI時代に求められる人間が担うべき領域、マーケターのスキルは次の3つに集約されます。

1. クリエイティブ力:AIが平均点を出せる時代、非平均的な発想が差別化になる
2. マネジメント力:AIやツールをどう活用し、人をどう活かすかを設計する力
3. 意思決定力:無数の選択肢から正しい一手を選び抜く判断力

とはいえ、AIがどれだけ進化しても、「最終的な意思決定」は人にしかできません。AIはあくまで“道具”。重要なのは、それを使いこなす組織と人材の力です。AIは「代わりにやってくれる存在」ではなく、「ともに働く相棒」です。そのポテンシャルを引き出すも殺すも、使う側にかかっているのです。AI時代だからこそ、スピードと柔軟性のあるマーケ組織こそが、次の勝者となるでしょう。

「AIで平均点」最後は人で差をつける

ノバセルは、AIによって“任せられる部分は任せ、次の打ち手を速く実行する”という方針を掲げています。これは単なる方針ではなく、現場での実践そのものです。

例えば、広告費のうち、AI活用と業務内製化によって外注コストを削減することができます。浮いたコストを、新たなチャネルやクリエイティブの実験に再投資する。このサイクルこそが、マーケティング競争における新たな“勝ち筋”だと考えています。

すべてを一気にAI化する必要はありません。ノバセルでは、AI導入をステップに分け、段階的導入を提唱しています。小さく始めて、大きく育てる。これは生成AI活用の鉄則です。

AIがテレビCMの世界にもたらした変化は、「勘から検証へ」「属人から民主化へ」の大転換でした。AIで平均点を取るのは簡単な時代。だからこそ「バランスをあえて欠いた攻めのアイデア」や、「組織を横断する総合力」が、より一層重要になってきます。AIと人の協業で、これまで以上にパワフルなマーケティングが可能になる――それが、私たちが見据えるマーケティングの未来です。

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田部 正樹(ラクスル上級執行役員CMO/SVP of Novasell 兼 ノバセル 代表取締役社長)
田部 正樹(ラクスル上級執行役員CMO/SVP of Novasell 兼 ノバセル 代表取締役社長)

1980年生まれ。大学卒業後、丸井グループに入社。主に広報・宣伝活動などに従事。2007年にテイクアンドギヴ・ニーズ入社。営業企画、事業戦略、マーケティングを担当し、事業戦略室長、マーケティング部長などを歴任。14年8月にラクスル入社。マーケティング部長を経て、16年10月から現職に就任。ラクスルの成長をけん引したマーケティングノウハウを詰め込んだ新規事業「ノバセル」を立ち上げ、マーケティングの民主化をビジョンに急成長を続けている。22年にノバセルを分社化、代表取締役社長に就任。業界問わず成長を求める企業の経営×マーケティングのアドバイザー。経済産業省主催「始動」講師/メンター。著書に『指名検索マーケティング』(翔泳社)

田部 正樹(ラクスル上級執行役員CMO/SVP of Novasell 兼 ノバセル 代表取締役社長)

1980年生まれ。大学卒業後、丸井グループに入社。主に広報・宣伝活動などに従事。2007年にテイクアンドギヴ・ニーズ入社。営業企画、事業戦略、マーケティングを担当し、事業戦略室長、マーケティング部長などを歴任。14年8月にラクスル入社。マーケティング部長を経て、16年10月から現職に就任。ラクスルの成長をけん引したマーケティングノウハウを詰め込んだ新規事業「ノバセル」を立ち上げ、マーケティングの民主化をビジョンに急成長を続けている。22年にノバセルを分社化、代表取締役社長に就任。業界問わず成長を求める企業の経営×マーケティングのアドバイザー。経済産業省主催「始動」講師/メンター。著書に『指名検索マーケティング』(翔泳社)

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