アメリカでは5人に1人!世界的な無宗教化が進む中で注目される「SBNR」層とは?

いま、世界的に拡大している「SBNR」をご存知でしょうか。SBNRとはSpiritual But Not Religious(無宗教型スピリチュアル)の略で、精神的な豊かさや幸せを日々の生活の中で重視する人々を指します。宗教離れが進み「無宗教」が世界で3番目に多い宗教とされる中で、世界的に増加傾向と言われています。この新たなムーブメントと、マーケティングへの応用を探るシリーズ記事を掲載します。
初回は、SBNR層の拡大の背景を解説します(本記事は、3月21日に発売した新刊『SBNRエコノミー「心の豊かさ」の探求から生まれる新たなマーケット』から一部を抜粋・編集して掲載しています)。

精神的な豊かさを求めて、欧米で拡大する「SBNR」層

皆さんは「SBNR」と聞いて、どんな人を思い浮かべるでしょうか? SBNRは「Spiritual But Not Religious(宗教的ではないがスピリチュアル)」の頭文字をとった略語で、「特定の宗教を信仰しているわけではないが、仕事・人間関係や暮らしの価値観・ライフスタイルにおいて精神的な豊かさを求める」人たちのことを差します。

…と言われても、「精神的な豊かさ」って?といまいちピンとこないですよね。
また、「スピリチュアル」という言葉にはどうしても少し怪しげに感じられることもあり、自分とは全く関係のない世界と敬遠しがちでもあるかもしれません。

実際にはSBNR層は、

「ヨガを健康法として楽しんでいるけれど、宗教的な教えには関心がない」
「自然の中で心を落ち着かせる時間が好きだが、それを宗教的なものとは結びつけていない」
「宗教施設の静けさや神聖な雰囲気が好きだが、そこに深い信仰は持っていない」

といった感覚を持つ人たちのことを指しています。こう言われて見れば、自分もそういうときがあるな、とか、自分の友人知人にもいるな、ともう少し具体的なイメージが湧くのではないでしょうか。

写真 イメージ 神聖な雰囲気

「神社の神聖な雰囲気が好き」もSBNRのひとつの形。(写真はイメージです) ©Getty Images

アメリカのリサーチ会社Pew Research Centerの調査によれば、2012年から2023年の約10年間でSBNR層はゆるやかに拡大し、現在では米国民のおよそ5人に1人がSBNR層に該当するとも言われています。

図 アメリカで増加するSBNR層
グラフ その他 アメリカで増加するSBNR層

SBNRエコノミー』より引用

SBNRという言葉が捉える「スピリチュアル」とは、心霊現象やオカルト、それらと関連した怪しい商法を信じるという意味ではありません。健康的な食事、自然とのふれあい、リトリート(日常から離れた場所に身を置き、自身を深く内省するための時間を取ること)やマインドフルネス、多様性社会やサステナビリティなど、目に見えない精神的な価値をもたらすものへの関心が非常に高いことを指しています。

写真 イメージ 健康的な食事

SBNR層は健康的な食事への関心も高い。 ©Getty Images

SBNRとは、あらゆるモノが満たされた現代において、物質的な豊かさよりも精神的な豊かさを人々が求めるようになっていくという世界的な潮流のなかで生まれてきた新しい価値観やライフスタイルということができそうです。

SBNRは、もともと2000年にアメリカのスピリチュアルカウンセラーのスヴェン・アーランドソンの書籍『Spiritual But Not Religious: A Call to Religious Revolution In America(宗教的でないがスピリチュアル:アメリカ宗教革命への呼びかけ)』の中で紹介された概念で、この書籍を端緒としてアメリカを中心に広く浸透していったと言われています。

SBNRの概念を最初に提唱した書籍『Spiritual But Not Religious』

SBNRの概念を最初に提唱した書籍『Spiritual But Not Religious』

アメリカでは20世紀後半以降、脱キリスト教の動きが様々な文化ムーブメント(例えばヒッピーカルチャー等)と連動しながら進んできました。スヴェンの書籍はそうしたアメリカにおける宗教事情の時代的推移について「SBNR」という新たな視点から分析・考察したもので、以降、この言葉を人々が自分の宗教的スタンスを示す際に使うなど、一般的な言葉として定着していったようです。

そんな、いまからおよそ四半世紀前に生まれた概念が、2020年前半のコロナや戦争といった大きな世界的危機を経て、再び注目を集めています。コロナ禍を通じて「ヒューマニズム」や「ウェルビーイング」、「メンタルヘルス」を重要視する人が増えたとされますが、SBNRへの再注目もちょうどこの文脈の中に位置づけることができます。

このように、SBNRとはもともと海外で生まれた、新しい生活者と価値観についての概念でした。しかし、こと日本においても、心の豊かさを提供する「SBNR的」な商品やサービスはこの数年で非常に増えています。サウナ、アウトドア、リラクゼーションドリンク(緊張やストレスをやわらげる成分が含まれたドリンク)、睡眠ケア商品、リトリートツアー、デジタルデトックスサービスなど。

写真 イメージ サウナ

サウナも「心の豊かさ」を求めて利用されるサービスのひとつと言える。 ©Getty Images

日本におけるSBNR層の割合は、実は他国と比較しても非常に多いことが、博報堂/SIGNINGの行ったオリジナル調査から明らかになりました。日本・フランス・インドで20−69歳の男女を対象に調査した結果、日本のSBNR層の割合は43%にのぼり、調査対象国中最も多いという結果となったのです。

これは「自分は無宗教」と自認している人が多い日本人の特徴を反映した、理解しやすい結果かと思います。そして、日本人の4割が該当!という結果からもわかるように、SBNRは決して一部のいわゆる「意識高い系」の人だけを指すわけではありません。むしろ、私たちの身近な日常の中に息づいている感性です。

図 SBNRの国別割合

図 SBNRの国別割合

SBNRエコノミー』より引用

私たちの生活文化には、お墓参り、初詣などといった仏教や神道に関わる行事が広く普及していますが「自分は◯◯宗の信者だ」「神道の信者だ」という意識を強く持って行っている人は少ないでしょう。それでも、多くの日本人は、初詣に神社に行ったら鳥居をくぐる際に一礼をしたり、神仏の前で謙虚な気持ちになって手を合わせるといった行為を自然に行っていたりするものです。

そしてこのSBNR層は若い世代(20代)で特に多いという傾向も見られました。

図 SBNR層は若い世代で特に多い
グラフ その他

SBNRエコノミー』より引用

日本において、こうした精神的な豊かさを求める生き方は、未来世代の標準の価値観になっていくかもしれませんね。

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(次回記事(4/25公開)に続く)

『SBNRエコノミー「心の豊かさ」の探求から生まれる新たなマーケット』

株式会社博報堂ストラテジックプラニング局、株式会社SIGNING著/定価:2,200円

SBNR層の拡大に注目し、精神的な豊かさや幸せを求める同層の拡大の理由、そしてビジネスへの応用可能性を論じる日本初の書籍です。日本人は43%がSBNRに該当すると言われ、その価値観を理解することはマーケティングや経営にも有効です。本書では、彼らの価値観やライフスタイルを分析するとともに、マーケティング・組織デザインにSBNRの考え方を応用していく具体的な方法を提案します。

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