JALが実現する、若年層の心を掴むSNS戦略とは?TikTok、YouTubeの実例を紹介

注目のテーマや職種について、業界の専門家や先進的な取り組みについて少人数で知見を共有し、交流する「テーマ別研究会」が2024年12月よりスタート。第2回「ネクストメディア/SNS研究会」が2025年2月7日に開催され、日本航空(JAL)広報部(現在:マーケティングコミュニケーション部)でSNSを担当している小西孝典氏が登壇。JALが若い世代の潜在顧客にリーチするために取り組んだSNS戦略について紹介した。

写真 人物 小西孝典氏

顧客調査により、ターゲット世代の意識を明確化

現在、マーケティングコミュニケーション部が主体としてFacebook、Instagram、X、TikTok、YouTube、コミュニティサイトを運営。YouTubeは動画の置き場所として使っていた程度で、それ以外は何となく媒体ごとに世代を想定し、その層に向けた内容を発信していたそうだ。ところが、航空会社の選択肢が増えている中、若い世代にも日本航空を選んでもらえるようにならないといけないと危機感を募らせ、チームで検討を重ねSNSの戦略を再構築することを決意。若い世代にも知ってもらい、好きになってもらえるような存在にしたいと考えた。

そのうえでまず議論したのが、潜在顧客となる「若い世代」を明確にすることだ。顧客調査を実施し、「航空会社を選ぶ際に何を重視しているか?」という内容において、24歳以下の結果のみにフォーカスして他世代と比較したところ、「業績」「クチコミ評価」「SNS評価」への関心が高いことが色濃く出たという。それにより、若い世代が他者の意見や物差しを参考にするという傾向を推測。また、「該当なし」と回答した人が他世代に比べてはるかに多かったことから、「若い世代はフルサービスキャリアを選ぶ経験や発想がないため、リアルに想像できないのではという結論にたどり着いた」と小西氏は語る。

ポジションマップを策定し、活用するSNSとその目的を決める

そのうえで、SNSポジションマップを策定。当時JALの広報部ではInstagram、Facebook、X、TikTok、YouTubeメインチャンネル、コミュニティサイトを運営していたが、媒体ごとにターゲットや目的を定義し、誰に向けて何のために情報を発信しているのか、チームのメンバーと再考することにした。以降の小西氏の話題は、若年層に向けて企業認知や選好性の向上を目的とするTikTok JAL公式アカウント、YouTubeサブチャンネルを中心に展開される。

小西氏は、SNSの発信について「何も考えずに発信すると顕在航空利用層向けのアカウントになってしまう」と明言した。たとえばYouTubeの場合、「客席がどうなっているか」「マイルをためるとどんな特典があるか」「どんな新商品・サービスがあるか」といった会社として打ち出したいことがコンテンツの中心になると、企業の宣伝のように感じられてしまい、フルサービスキャリアと縁が遠いと思っている若い方々が見たいような内容にならない場合が多いという。実際にYouTubeを視聴している若い世代の興味関心を探ったり、協業先のアドバイスを得たりして、「社員同士の交流・本音」「お仕事事情・裏側密着」などYouTubeというプラットフォームのアルゴリズムにも意識を向けながら、ターゲットが見たいと思っていただける動画に焦点を当てた「JAL、サブチャンネルはじめました。」を開設した。

また、TikTokにおいては、立ち上げ当初はどうしても自社の言いたいことを詰め込んでしまい、テロップを多用し情報過多となる動画が目立つ状態だった。そこで、チームで検討を重ね、「流行りのトレンドフォーマットに乗る」「冒頭の惹き、テンポの良い展開意識」「宣伝は動画の最後に」「コメントを通じたアカウント活性化」を意識した展開に路線変更した。

写真 人物 小西孝典氏

媒体に合わせて、視聴者に好まれる発信方法を精査

そのうえで、JALらしさを加えるために「社員が出演して魅力を発信していこう」と方針を決めた。ただし、少しでも企業の広報から言わされている感を視聴者がかぎとれば、すぐに離脱されてしまう。YouTubeにおいては、社員の自然な表情や言葉を大切にし、TikTokでは、流行りのトレンドフォーマットを忠実に再現できるよう、表情管理にも気を配りながら撮影を重ねることもあったという。また、一目でJALらしさが伝わるよう、制服を着用する社員を多く出演してもらうことも意識した。

熱意のある有志社員と共にアカウントを成長

最後に小西氏は、「熱意のある有志社員と共にアカウントを成長させることも大事」だと語った。同社のTikTokは、公募で募集した30人弱の社員でチームをつくり、運営している。どのメンバーも、日頃は本業があるため、空き時間に撮影を行うそうだ。「メンバーの熱意があるので、動画の視聴数が少なかったときに、その理由を真剣に探ろうとする流れが起きている。KPIを意識するようになるし、PCDAサイクルが回るようになる」と、その効果について実情を交えて語った。

質疑応答では、「SNSで社員の顔が出ることによるガイドラインは決めている?」という質問が上がった。社員の顔出しについては、「最低限の既存ガイドライン以上には定めなくてもまずはやっていけそうだと思ったので策定はしなかった。今後取り組まないといけないことだと考えている」と回答。JALでは、客室乗務員の所作など、これまでブランドポリシーとして築き上げてきたものがあり、それらの関連部署とのガイドライン調整には議論を重ねたという。

また、潜在顧客向けにはInstagram、TikTok、YouTube、顕在顧客向けにはX、Facebook、コミュニティサイトと分類した決め手について問われると、「従来やってきたことと大幅に路線変更をするとこれまでのフォロワーが離脱してしまう」と考えたことを明かし、SNSの利用者層もふまえて、自社の考えで方向性を定めていったと回答した。

写真 人物 小西孝典氏


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