経営危機を乗り越え、いまブランドの再構築に挑むシャープ。その変革の中心に立つのが、ブランド戦略本部長・三田村有香(みたむら・ゆか)さんです。ヤンマーのコーポレートブランディングという強い基盤のある環境を離れ、あえて「変革の渦中」に飛び込んだ背景には、企業理念への深い共感と、プロダクトと一体になったブランドづくりへの強い意志がありました。シャープが目指す未来と、その基盤づくりに挑戦する三田村さんの思考とは。マスメディアンの荒川が伺いました。
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あえて挑戦に踏み出した理由
━━前職のヤンマーは理念も強く、基盤のしっかりとした環境だったと伺いました。その環境を離れてシャープに転職する決断は、簡単ではなかったのでは。
本当に悩みました。ヤンマーは理念がしっかりしていて、オーナーの思いがいまも息づいている。農業、建設機械、船舶、食など、人の豊かさを多角的に支える事業を堅実に展開しています。働く環境としても充実していました。「このまま長く続ける」という未来が自然に描ける会社でした。
━━そんな「未来」を手放してまで、シャープに惹かれた理由は何だったのでしょう。
まず、私はいわゆる「創業者オタク」で(笑)。前職のヤンマー、その前のグリコもそうですが、創業の背景や「なぜこの事業が始まったのか」という物語が、今も組織に息づいている会社に強く惹かれます。
シャープがブランディングの人材を探しているという話を聞いたとき、シャープについていろいろ調べていくうちに、「この会社には、もう一度立ち上がるための理念がしっかり残っている」と感じました。創業家によるオーナー企業ではないのにもかかわらず、創業の精神がしっかりと紡がれている点にも感動しました。
そして、シャープは2010年代の経営危機からの再建の過程でカルチャーが大きく変わり、会社としてもブランドとしても再構築の真っただ中にある。そんなタイミングで「シャープらしさを取り戻す」というコーポレートブランディングを任せてもらえる──これはブランドに携わる人間としては大きな挑戦になると思いました。
「ヤンマーをさらに発展させていくために長期的視野からブランディングに取り組んでいく」ということと、「シャープという一度経営危機を経験したブランドの再生に挑戦する」ということ。同じブランディングとはいえ、まったく異なるミッションの間で大変悩みました。でも、シャープのブランディングについて考えるうちに、自分の中でワクワクする気持ちが大きくなっていって。それで転職を決断しました。
シャープ
ブランド戦略本部長
三田村有香 氏
1996年、P&Gジャパンでマーケターとしてのキャリアをスタート。「SK-Ⅱ」グローバルブランドマネージャーを務めた後、クラーク記念国際高等学校(2010年入社)で広報・マーケティング部門、江崎グリコ(2016年入社)でコーポレートコミュニケーション部立ち上げに従事。2022年、ヤンマーホールディングス ブランド部コミュニケーション部長。2025年12月から現職。国家資格キャリアコンサルタント。
━━シャープでのコーポレートブランディングの仕事には、どんな魅力を感じたのでしょうか。
一番大きかったのは、「ブランドを言葉だけでつくるのではなく、プロダクトやサービスといった事業価値と一体でつくっていく」という必要性を感じた点です。商品がその理念や思想を体現していなければ、生活者には届かない。シャープのコーポレートブランディングはまさにそこが課題であり、同時に大きな可能性でもあると感じました。
プロダクトとブランドを一体化させるのは簡単ではありません。でも、だからこそ面白い。2025年に掲げられた新しいコーポレートスローガン、「ひとの願いの、半歩先。」を、商品・サービスといった価値につながるものとしてどう表現するか。プロダクト側とコーポレート側で一緒にブランドをつくる体制をどう築いていくのか。この本質的なブランディング課題に挑めることが、私にとっては大きな魅力でした。
