のれん勝ちする企業、のれん負けする企業―企業価値の差はどこから生まれるのか

企業には、決算書に表れる財務数値だけでは説明できない価値がある。M&Aでは、売上規模や利益水準がほぼ同じ企業であっても、評価額に大きな差が生じることは珍しくない。その差を生み出すのが、決算書には表れない「非財務価値」である。

本連載では、顧客基盤やブランド、組織力などの非財務価値が適切に評価され、M&Aや事業承継の場面で企業価値に反映される状態を「のれん勝ち」と呼ぶ。反対に、そうした価値を十分に説明・確認できず、本来の価値が評価に結びつかない状態を「のれん負け」と捉える。なお、ここでいう「のれん」は会計上ののれんそのものではなく、将来利益を生み出す力に対する評価を意味する。

全3回で構成する本連載では、M&Aでこの非財務価値をいかに見出し、価値創造へと発展させていくかを『PMIのためのビジネスDD』として整理していく。

■非財務価値の具体例
企業価値を考える際、買い手はまず売上高や利益率、EBITDA、純資産などの財務情報から企業価値のおおよその水準を把握する。しかし、本当に知りたいのは「現在の利益が将来も維持・成長するのか」という点である。つまり、利益そのものではなく、その利益を支えている事業基盤が評価対象となる。利益を支える事業基盤こそが非財務価値であり、その代表例として、顧客基盤、商品力、ブランド、技術力、組織、人材などが挙げられる。

例えば、長年取引を継続している顧客が多数存在する企業は、将来も安定した収益を期待できる。また長期取引の基盤となっている商品力が高く、他社にはない差別化されたものであれば、売上シナジーで買収後も新たな顧客の獲得が期待できる。さらに、社員に提案や改善の文化が根付いている企業は、経営者が交代しても事業運営が継続しやすいと考えられる。これらの強みがあるからこそ、価格競争に巻き込まれにくく、安定した利益を維持できる。つまり非財務価値とは将来利益を生み出す源泉なのである。

これらは貸借対照表や損益計算書には表れないが、企業が将来にわたり利益を生み出す源泉であり、企業価値を左右する重要な要素である。こうした非財務価値を客観的に把握・検証するために実施される代表的な手法がビジネスデューデリジェンス(ビジネスDD)である。

次のページ
1 2
のれん勝ちする企業、のれん負けする企業――企業価値を左右する「見えない価値」とは
寺嶋直史(レヴィング・パートナー代表取締役)

2010年、事業再生コンサルティング会社を設立。多種多様な業種で事業デューデリジェンス(DD)と現場支援を行い、企業の「真の価値」を見抜く第一人者。各種製造業・小売業・飲食業・宿泊業などの多くの再生企業を、経営改善やブランディングで再生に導いている。1年で一流コンサルを育てる養成塾『経営コンサルタント養成塾』も主宰。著書『再生コンサルティングの質を高める事業デューデリジェンスの実務入門』は、コンサルタントのみならず、各種士業、金融機関担当者など多くの専門家からバイブルとして支持されている。

寺嶋直史(レヴィング・パートナー代表取締役)

2010年、事業再生コンサルティング会社を設立。多種多様な業種で事業デューデリジェンス(DD)と現場支援を行い、企業の「真の価値」を見抜く第一人者。各種製造業・小売業・飲食業・宿泊業などの多くの再生企業を、経営改善やブランディングで再生に導いている。1年で一流コンサルを育てる養成塾『経営コンサルタント養成塾』も主宰。著書『再生コンサルティングの質を高める事業デューデリジェンスの実務入門』は、コンサルタントのみならず、各種士業、金融機関担当者など多くの専門家からバイブルとして支持されている。

この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

「のれん勝ちする企業、のれん負けする企業――企業価値を左右する「見えない価値」とは」バックナンバー

このコラムを読んだ方におススメのコラム