難民問題や人道危機のような大きな社会課題を伝えることは、広報・PRにとって簡単な仕事ではありません。
なぜなら、多くの人はその重要性を理解していても、自分との距離を感じているからです。遠い国で起きている出来事は、どうしても日常生活の優先順位の後ろに追いやられてしまいます。特にSNSやニュースアプリを通じて膨大な情報が流れ込む現在では、人々の関心を獲得するだけでなく、それを行動につなげることがますます難しくなっています。
今回紹介するのは、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のために、イタリアのPRエージェンシーINCが企画・実施した「The Broken Recipe(壊れたレシピ)」キャンペーンです。人道支援予算の削減で、食料支援が中断されるスーダンや周辺国の難民・避難民の現実を、「途中で止まる料理動画」という日常的な体験へと翻訳したこの施策は、PRが社会課題をどのように身近なものへ変換できるのかを示した好例でした。
The Broken Recipeキャンペーン説明資料より抜粋(INC社提供)
遠くの危機は、なぜ伝わりにくいのか
2025年当時、スーダンでは世界最大規模の人道危機が続いていました。武力衝突によって約1300万人が避難を余儀なくされ、多くの人々が難民や国内避難民となっていました。一方で、世界的な人道支援予算の縮小により、UNHCRによる食料支援や医療支援にも深刻な影響が及んでいました。多くの難民が食料支援を受けられなくなる可能性があり、支援体制そのものが危機にさらされていたのです。
しかし、こうした数字や状況説明だけで、人々の心を動かすことは容易ではありません。多くの社会課題コミュニケーションが直面するのは、「知られていないこと」ではなく、「知っているけれど行動につながらないこと」です。
そこでINCが考えたのは、難民問題をより大きく語ることではありませんでした。むしろ、人々が毎日のように経験している小さな体験の中に、難民支援の課題を重ね合わせることでした。
The Broken Recipeキャンペーン説明資料より抜粋(INC社提供)
「説明する」のではなく、「体験させる」
The Broken Recipeのアイデアは非常にシンプルです。

