「休んでいい にげていい」「無理をせず、ひとつずつ、ゆっくりいきましょう。」——。新学期を翌日に控えた8月31日、都立の動物園や水族館計4施設が、こうしたメッセージをXに投稿した。学校に行くのがつらい、消えてしまいたい、といろいろな悩みを抱える人に寄り添い、子どもの居場所になれればとの願いだ。どういう思いであのメッセージを送ったのか、葛西臨海水族園 園長の錦織一臣氏に聞いた。
厚生労働省や警察庁の自殺統計によると、2025年の児童生徒の自殺者数は538人と過去最多だった。文部科学省によると、2009年以降の児童生徒の自殺者数を日別でみると、8月後半から増加し、特に長期休業明けの9月1日に多くなる傾向にあるという。また、2024年、2025年は、9月の自殺者数が最も多かった。
こうした状況を知り、動物園や水族館としても何かできないかと議論していたところ、8月、上野動物園長の福田豊氏が4園でメッセージを出すことを提案。歩調を合わせて8月31日に各園がSNSにメッセージを投稿することとなった。
動物園や水族館には、年代や性別を問わず多くの人が来園する。もちろん元気な人もいるが、悩みを抱えている人もいる。葛西臨海水族園では、病院の小児病棟など来園が難しい人向けに専用の車に魚などを入れて見せる「移動水族館」を実施しており、多くの人に生き物を紹介してきた。錦織氏は、まさに「命の博物館」である動物園や水族館として、命の大切さをいろんな形で伝えたい、居場所になれるかもしれない、と考えている。
何を伝えるべきか、どういう言葉が適切か、頭を悩ませた。錦織氏は、不登校の経験がある人、いじめられたことがある人、うつ病を経験した人など、つらい思いをした経験をもつ周囲の人たちに相談し、彼らの意見を聞きながら、言葉や内容を選んだ。Xは13歳以上しかアカウントを持つことができないが、子どもから大人まで「居場所がない」と感じる人に届けられるよう言葉を紡いだ。
きえないで
休んでいい にげていい
あなたにいてほしい あなたに生きていてほしい
あなたにいまも、2028年の新水族園も
ずっと見にきてほしい
きえないで きて
この世界は、この星は、ほんとうは広い
もっとずっと
だれもおってこられないくらい広い
ずっとずっと…— 葛西臨海水族園[公式] (@KasaiSuizokuen) 2026年8月31日
8月31日に葛西臨海水族園が投稿したメッセージ
メッセージを投稿すると、多くの反響が寄せられた。様々な意見があったが、「泣ける」「過去の自分に(この言葉を)送りたい」などの多くの反響が寄せられた。890回以上閲覧され、いいねも17万以上に上った。中には、かつて、つらいことがあったときに水族館に行った人の体験談や、友人を亡くしたとみられる人から「当時、この言葉があれば」といった感想もあったという。
「動物園や水族館は、いつでも、誰でも、どんな形でも来てもらえる場所」と錦織氏。園ができることは限られているかもしれないが、多くの人に見てもらい、時間を過ごしてもらえる「居場所」になれば、と錦織氏は語る。これほど多くの人から反響があるとは思わず「想像以上」だったが、「いま、消えたいと思っている人にとって、ワンクッション置ける、時間を過ごせる時間や場所になってほしい。そして、多くの人の心の隅に、動物園や水族館という居場所があることを置いてもらえたら」と、願っている。