「私は寝てないんだ」「ゴルフを愛する人への冒涜」「人類史上最も愚かな事件」。企業の謝罪会見では、経営トップが発した印象的な言葉が、長く語り継がれることがある。11月2日に開かれたGMOインターネットグループの記者会見でも、熊谷正寿代表が繰り返した「命の砂時計」という独特な表現が注目を集めた。
不正アクセス問題を受けて開かれた約3時間半の会見では、熊谷代表が自身の経営理念を語りながら涙を流したほか、社員を注意し、自ら記者を指名する場面も見られた。会見後には、こうした言動が新たなニュースとなり、被害の実態や再発防止策とは別の部分にも関心が集まった。
「謝罪会見で失敗した経営者ほど、後世に残る『名言』を生み出してしまう」。こう指摘するのは、「広報勉強会@イフラボ」を主宰する危機管理広報・謝罪会見アナリストの長沼史宏氏だ。
数々の謝罪会見を分析してきた同氏は、過去の失敗事例と今回のGMOの会見には、ある共通点があると指摘する。
11月2日に実施した会見
印象的な言葉を提供してしまう経営者
長沼氏によると、謝罪会見で失敗する経営トップには、本来の謝罪や説明とは別に、記者が思わず見出しに使いたくなるような印象的な言葉を自ら提供してしまう傾向があるという。
代表的な事例が、2000年に起きた雪印乳業(現雪印メグミルク)の集団食中毒事件だ。当時の石川哲郎社長は、記者会見を打ち切ろうとした際、記者とのやり取りの中で「私は寝てないんだ」と発言。この言葉は、危機対応における経営トップの失言として、その後も繰り返し取り上げられてきた。
2023年7月のビッグモーター(現WECARS)の保険金不正請求問題に関する会見でも、兼重宏行社長の発言が話題となった。ゴルフボールを使って顧客の車に傷を付けた問題について、「ゴルフを愛する人への冒涜」と発言したのだ。
不正行為を厳しく批判する意図だったとみられるが、顧客への被害よりもゴルフへの侮辱を問題視しているかのような表現に、SNSでは違和感を示す声が上がった。
同年9月の旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)の会見では、新社長に就任した東山紀之氏が、ジャニー喜多川氏による性加害問題について「人類史上最も愚かな事件」と表現した。この発言も大きく報じられ、言葉の選び方をめぐって賛否が生じた。
長沼氏は、これらの発言の意図や背景、言葉そのものの妥当性はそれぞれ異なるとしたうえで、いずれも「会見そのものを象徴する言葉として、強い印象を残した」という共通点に着目する。
謝罪会見で発せられた独特な比喩や感情的な発言は、発言者の意図を離れて一人歩きする場合がある。SNSで繰り返し共有され、何年も語り継がれることも珍しくない。
長沼氏は「謝罪会見の登壇者が、自ら報道価値を高めるような印象的な言葉を生み出す必要はない」と指摘する。
「命の砂時計」はなぜ問題か
