パズドラのヒットに見る新しいゲーミフィケーションの可能性

大ヒットでガンホーの営業利益は8倍に

皆さんは「パスドラ」をご存じだろうか?
ガンホー・オンライン・エンターテイメントが運営する「パズル&ドラゴンズ」というゲームを略したのが「パズドラ」で、現在スマートフォンアプリなどで1000万ダウンロードを達成している大人気ゲームである。同社が2月14日に発表した2012年12月期の連結決算は、「パズドラ」の大ヒットにより売上高が前期比2.7倍の258億円、営業利益が7.9倍の92億円、経常利益は6倍の93億円、最終利益は5倍の82億円となったということである。では一体なぜこのようなゲームが今流行っているのであろうか?

「パズドラ」は従来からあるRPG型のモンスターコレクション系ゲームで、基本的にはダンジョン(洞穴)に存在するドラゴンとバトル(戦い)ながら冒険を進め、経験値やモンスターやコインなどを集めてゆくものである。集めたモンスターは合成したり進化させたりでき、チームを組んで探検をすることができるものである。

このようなRPGゲームはパソコンの黎明期より存在し大ヒットしたものも多数存在する、またモンスターコレクション系のゲームもゲーム機で多数存在しヒットしてきたのである。そのように考えると「パズドラ」のヒットの理由はそのように従来ヒットしてきたゲームを組み合わせたからであるといえるが、筆者が考える最大のヒットの要因はそこではなく、別の要因によるものであると考えている。

パズルとバトルの組み合せが奏功

筆者の考える最大のヒット要因はこのゲームの特徴でもある「パズル」にある。「パズドラ」では添付の図にもあるように「パズルでバトル」をするのである。従来のゲームではバトルの時には「たたかう」「まほう」「まもる」のように主人公やチームメイトがモンスターと戦う指令をしていた。しかし、パズドラではブロック型のパズルを攻略することにより相手にダメージを与えることになり、ブロック消去の連鎖の多さなどにより攻撃力が増すのである。パズルとバトルは従来関連性がないのであるが、それらを組み合わせることの中に大きなヒット要素が二つ隠れていると筆者は思うのである。

まず一つ目はバトル中の時間消費を「待ち」から「楽しみ」に変えたことである、従来のゲームのバトルでは相手の特徴などにより攻撃や防御を決めるのであるが、自分がある程度強くなると同じパターンで相手を倒せることなども多く、バトルのシーン中は終わるのを「待つ」モードになり、ゲームというよりも時間消化の意味合いが強かった。実際にそのような経験をした読者の皆様も多いのではなかろうか。本来退屈なその時間を「パズル」という「楽しみ」に変えることで利用者は退屈することなく没頭できるのである。

さらに二つ目はゲーミフィケーション効果による行動の強化である。具体的には脳内ホルモン「ドーパミン」が多く生成されることにある。というのも筆者が以前書いた記事(ジェネレーションGの登場により、コミュニケーション構造は変わるか?)の中で Gabe Zimmerman氏がIQが恒常的に増加していくというフリン効果(Flynn Effect)に関して“ゲームが与える課題をクリアすることで脳にドーパミンが放出され、次の課題を解決するという行動が強化されるためである”と言っている。「パズドラ」は「パズル」、「モンスター退治」や「ダンジョン攻略」というゲーミフィケーション要素を散りばめ、より多くドーパミンが生成されるようになっているのではなかろうか。

このように全く一見関係のない「パズル」を「バトル」にすることで一世を風靡している「パズドラ」であるが、筆者はこの事象に新たな可能性を感じているのである。

ブランドマーケティングや教育への応用も

一つはブランドマーケティングである。例えばパズドラのパズルをブランドに関連するものに変えたりアイテムやモンスターをきちんとブランドに関連付けることにより大きなブランディング効果が見込まれると考える。あるいは、学生には勉学を妨げるように見えるゲームではあるが逆に勉学の励みになるようにできるのではないかと考えている。

例えば「パズル」部分をクイズにして、正解すると攻撃が加えられるなどの手法を取り入れられればゲーム感覚で勉強をしていることにつながるのではないであろうか? と筆者は非常に大きな可能性を見出しているのであるが、問題はビジネスモデルである。ゲームの収益性は非常に高く、それは「パズル」と「ゲーム」の組み合わせにより成立しており「ブランドマーケティング」や「勉学」の要素を入れると収益性の低下を招きかねないであろう。

しかし、ゲーミフィケーションの可能性としてそれらを上手くバランスさせるモデルなどが出てくることを願っている。例えば教育に役立つゲームを開発すれば短期的に爆発する収益を得ることはできないかもしれないが、長期的に安定収益を得ることが可能かもしれない。いずれにせよこの新しいムーブメントがどのように発展してゆくか非常に興味を持って注目したい。

<参考:筆者のゲーミフィケーションに関する過去の記事>:

江端浩人「i(アイ)トレンド」バックナンバー

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江端 浩人(事業構想大学院大学教授)
江端 浩人(事業構想大学院大学教授)

米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、2005年日本コカ・コーラ入社、iマーケティングバイスプレジデント。2012年9月から日本マイクロソフト業務執行役員セントラルマーケティング本部長。2014年11月よりアイ・エム・ジェイ執行役員CMO。2017年3月ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。現在、同社執行役員メディア統括部長兼株式会社MERY副社長。

日本コカ・コーラ在職中は、同社が運営する会員制サイト「コカ・コーラ パーク」を開発し会員数約1200万人、月間PV約10億を誇る巨大メディアに成長させた。

日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会が主催する「Webクリエーション・アウォード」で、2010年度の最高賞「Web人大賞」を受賞。2014年に日経BP広告大賞を受賞。2012年4月に開学した「事業構想大学院大学」の教授に就任。日本マーケティング学会会員。

江端 浩人(事業構想大学院大学教授)

米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、2005年日本コカ・コーラ入社、iマーケティングバイスプレジデント。2012年9月から日本マイクロソフト業務執行役員セントラルマーケティング本部長。2014年11月よりアイ・エム・ジェイ執行役員CMO。2017年3月ディー・エヌ・エー(DeNA)入社。現在、同社執行役員メディア統括部長兼株式会社MERY副社長。

日本コカ・コーラ在職中は、同社が運営する会員制サイト「コカ・コーラ パーク」を開発し会員数約1200万人、月間PV約10億を誇る巨大メディアに成長させた。

日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会が主催する「Webクリエーション・アウォード」で、2010年度の最高賞「Web人大賞」を受賞。2014年に日経BP広告大賞を受賞。2012年4月に開学した「事業構想大学院大学」の教授に就任。日本マーケティング学会会員。

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