<登壇者>
日本スーパーマーケット協会 専務理事 大塚 明氏
日本コカ・コーラ コマーシャルリーダーシップ ディレクター 長谷川 英樹氏
「購買者」を共通のターゲットに設定する
──業界を取り巻く環境について、どう認識していますか。
大塚 日本の小売業の歴史において、ユニクロが巻き起こした“フリース旋風”の影響は大変大きいと思います。それまで小売業の基本的なビジネスモデルは、メーカーが作る商品を仕入れ、販売してマージンを得るというものでした。
それが、このユニクロモデルの出現以降、商品を自社リスクで製造し、物流や在庫リスクをコントロールすることで利益を上げていく、「マージン」から「プロフィット」追求へとビジネスのあり方が変化したのです。それは言い変えれば、顧客をどうつくり出すかということでもあります。
日本スーパーマーケット協会では10年後のビジネスのあり方を研究し、「シナリオ2020」としてまとめました。また、次世代の販促プロモーションを考える勉強会も立ち上げています。
長谷川 現在、メーカーと小売との間に「Win-Win」の関係が築かれているかと言えば、まだ一部にとどまっていると感じています。基本的にメーカー側はできるだけたくさんの量の商品を小売に納めたいと考えていますし、小売側はできるだけ有利な条件を引き出そうと駆け引きが行われています。この状態は変えていく必要があるでしょう。
弊社グループでは2011年に「ビジネスイノベーションセンター」を創設しました。ここは、小売の方たちと一緒に売り場の開発を議論するための施設です。大型スクリーンに、実際の店頭の様子をほぼリアルサイズで投影し、最新のPOS データも活用しながら議論できます。ここは、取引条件を交渉するのではなくて、商品を買ってくれる「ショッパー(購買者)」に焦点を当て、どうやったら繰り返し買ってもらえるかを、小売の方と一緒に考える場なのです。
──共創のためには、具体的にどんなことから取り組めばいいでしょうか。
大塚 専門店、コンビニ、ドラッグストアなどが出てきて、スーパーを取り巻く環境が大きく変化しました。こういう状況の中、私たちはメーカーと一緒に、「低価格」「地域密着」「便利」という視点から、店舗に集客する施策を考えていきたいと思っています。
長谷川 小売との共創関係をつくっていくためには、共通の“ターゲット”を設定することが有効です。「ショッパー」を両者共通のターゲットに設定し、その購買行動に焦点を当てることで、小売とメーカーが同じサイドに立てると考えています。
需要創造と供給最適化で「Win-Win」の関係を築く
──共創を実現させるためのマーケティングアプローチについて、もう少し詳しく聞かせてください。
大塚 高度経済成長の時代は、いかに商品の生産性を高め、たくさん売るかという「垂直的マーチャンダイジング」に力点が置かれていました。しかし、現在のように競合が増えてくると、商品の品ぞろえ、組み合わせ、価格、情報や人的サービスの提供という「水平的マーチャンダイジング」を重視して、どうやって自店舗で買ってもらうかを考えないといけません。この部分でもメーカーと一緒に取り組んでいけると思います。
長谷川 共創関係を築いていくには、二つのエリアがあると考えています。一つは「需要創造」です。つまり、買ってもらう頻度を高めること。すべての販促施策はショッパーの「ある購買行動」を変化させるためにあるという考え方を共有して、共にディスカッションできれば、新しい道が開けるのではないでしょうか。
もう一つは「供給の最適化」で、チャンスロスを無くすことです。これは、メーカーだけでは成立せず、共にプロセスを変える議論が必要になります。そこで弊社ではPOS データを基にした「品切れによる機会ロス予測」という分析手法を開発しました。
ここで大事なのは分析結果が正しいかどうかを議論するのではなく、機会損失をなくすための具体的なアクションについて、議論を深めていくことです。
──共創を進めるためには、どんな体制や組織づくりが大切でしょうか。
長谷川 メーカーの営業担当者と小売バイヤーだけで「Win-Win」の関係構築を進めるのはなかなか難しい面があるかもしれません。なぜならそれぞれ達成すべき営業的数字を持っていて、数字を追い求めがちだから。従って特別チームを作って進めていくことも一案かと思います。
大塚 社内的にも社外的にも、ミッションの共有が大事です。そして、効果の“物差し”を明確にすること。最初から短期の業績アップを目指すと、共創の関係は築きにくいことにも気をつけないといけません。
スーパーでは「パンの日」や「焼肉の日」など、販促の定番企画を頻繁に実施しています。経験上、ある販促企画が普段の何倍も売り上げる“異常値”になると、それにつられてほかの商品の売り上げも伸びます。
新しい需要の創造は、定番企画を繰り返し実施し、成功・失敗の原因を追求して次につなげることから生まれると考えています。これからもメーカーと一緒に、商品開発や売り場づくりを研究し、“異常値”を生
み出す努力を続けていきたいですね。
【アドタイ・デイズ】バックナンバー