「見えない価値」のとらえ方


隙間なくびっしり停まった路上駐車

私のパリの移動手段は、Autolib(オートリブ)だ。Autolibとは、乗り捨てのできる電気自動車。パリ市内に4000カ所の充電スポットがあり、自宅近くにもちょうど充電スポット(ステーション)があるためよく利用している。

利用するのは、すごく簡単。年会費180ユーロを払うとフェリカと同じようなICカードがもらえ、それを充電スポットの端末にかざすだけでどの車にも乗れる。通常のレンタカーような傷のチェックや保険の説明などは一切なし。車を見つけたら、カードをかざし、充電プラグを抜けばすぐ出発できる。そして返却も同じく充電スポットを見つければ駐車して充電プラグを差せばオッケーという手軽さだ。

私がこれを利用している理由は、大きく分けると2つある。

一つには、パリはタクシー不足だ。東京ほどタクシーがいない。雨の日や夜中はまず空車は走っていない。1時間近く歩いて帰ったということもあった。パリの夜は歩いても気持ちがいいのでさほど苦にならないのだが、街中を1時間歩いても結局空車のタクシーは見つからなかった。こんなときAutolibはとても便利だ。


autolibのナビ。駐車スポットが表示されている。

autolibのアプリ。どこに空車があるかすぐにわかる。

もう一つ、パリでは駐車場が見つからない。どの道もぎっしり駐車されていて、空きスペースを見つけるのは至難の業。しかし、Autolibは駐車する場所に充電スタンドがあるため、駐車場に困ることがない。なによりも、ナビで空いている駐車スペースを示してくれる。そして、行き先の駐車上の予約も簡単にできる。このシステムとナビとの連動は、スマートフォンアプリからも可能で、手元で近くのAutolibの空車状況が確認でき、予約もできるのだ。

あらゆることがアナログなパリでもAutolibだけは未来の乗り物のようだ。

そして何よりも魅力的なのは利用料金だ。年会費を払えば、あとは時間単位で借りることができる。もちろんガソリンを満タンにして返却する必要もなく(電気自動車だから!)、30分で5ユーロ。タクシーよりも安いだけでなく、数人で乗ればメトロよりも安くなる。ステーションはパリ市内に4000カ所あるため、感覚的には、2、300メートルごとにある。5、6分歩けば、見つけることができる。


autolibの充電ステーション

実は東京でも一度電気自動車を借りたことがあったのだが、充電スポットがなかなかないことと、充電にとても時間がかかるので、短時間の利用ならともかく、2、3時間を越えるドライブだと正直なかなか難しいものがあると感じた。

その点Autolibはパリ市内ならどこでも乗り捨てができるため、充電がなくなったらどこかのステーションに乗り捨てて、なんなら充電済みの車と交換すればいい。といっても、この1年週5くらいでオートリブに乗っているが、充電がなくなるような事態に陥ったことはない。

ものすごく便利なAutolibだが、ここ1年で台数も、利用者も増えたため車の消耗も激しく、状態が良いとはいえない車に当たることもある。たまに窓が閉まらなくなっているものもあるし、サイドミラーが壊れていたりする。そして、車内にはだいたいゴミが落ちていて、シートにはなにかのシミが付き、車体はすごく汚い。しかし、動かないことはない。なんとか動くし、10分ぐらいの移動なら全く支障はない。
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佐藤 武司(Rightning Paris SAS PDG/MIWAブランドディレクター)
佐藤 武司(Rightning Paris SAS PDG/MIWAブランドディレクター)

1973年、愛知県名古屋市生まれ。三重県桑名市育ち。慶応義塾大学大学院・文学研究科・美学美術史学専攻アート・マネジメント分野修士課程修了。
ビクターエンタテインメント株式会社にてビジュアルプロデュースを経験後、デザイン、映像制作会社として株式会社ライトニングを設立。株式会社ライトパブリシテイと資本提携し、CM等の広告制作を開始。iF design award、reddot design award、New York ADC賞GOLD、GOOD DESIGN賞を受賞。その後、業務を商品企画、CSRにも拡大し、世界初木製ケータイ「TOUCH WOOD SH-08C」を企画する。311を経験後、2011年10月Rightning Parisを設立。経済効率優先の物質文明の先にある生き方、社会のあり方を、美学的アプローチから提案するコンサルティング、プロデュースを行う。
2012年4月よりパリに移住し、700年の伝統のある「折形」を用いたブランド「MIWA」 Pavillon de la cérémonie du cadeau(贈物の儀式を行う特別の場所)を立ち上げる。歴史を紐解き、いままでとは違った視点からコンテクスト化することによって、新たな価値を生み出して行くプロデューサー。

佐藤 武司(Rightning Paris SAS PDG/MIWAブランドディレクター)

1973年、愛知県名古屋市生まれ。三重県桑名市育ち。慶応義塾大学大学院・文学研究科・美学美術史学専攻アート・マネジメント分野修士課程修了。
ビクターエンタテインメント株式会社にてビジュアルプロデュースを経験後、デザイン、映像制作会社として株式会社ライトニングを設立。株式会社ライトパブリシテイと資本提携し、CM等の広告制作を開始。iF design award、reddot design award、New York ADC賞GOLD、GOOD DESIGN賞を受賞。その後、業務を商品企画、CSRにも拡大し、世界初木製ケータイ「TOUCH WOOD SH-08C」を企画する。311を経験後、2011年10月Rightning Parisを設立。経済効率優先の物質文明の先にある生き方、社会のあり方を、美学的アプローチから提案するコンサルティング、プロデュースを行う。
2012年4月よりパリに移住し、700年の伝統のある「折形」を用いたブランド「MIWA」 Pavillon de la cérémonie du cadeau(贈物の儀式を行う特別の場所)を立ち上げる。歴史を紐解き、いままでとは違った視点からコンテクスト化することによって、新たな価値を生み出して行くプロデューサー。

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